八戸工大一vs光南
古屋敷匠真(八戸工大一)
来年は清宮 幸太郎を中心に野手の注目選手が多い。だが投手の逸材は少ない。新たにこの世代の注目投手として浮上しそうなのが八戸工大一の先発・古屋敷匠真(しょうま・2年)だろう。
立ち上がり、一死二塁から光南の3番松本京志郎(3年)のレフト前へ落ちる左前適時打で1点を先制を許すが、ここから古屋敷はギアを入れる。常時130キロ後半〜144キロ(最速147キロ)のストレート、125キロ前後のスライダー、120キロ前後の縦スライダーで押していき、三者連続三振。2回裏も三者連続三振を奪い、チームに勢いをもたらすと、3回表、八戸工大一は反撃開始。
二死一、二塁から3番種市 篤暉(3年)がストレートを捉え左中間を破る適時二塁打で、さらに工藤晴貴(2年)の適時打で3対1と逆転に成功する。その裏、光南の1番溝井琴博(3年)が138キロのストレートを捉えられ、ソロ本塁打で1点を返されたが5回表に、二死一、二塁から工藤の適時打、古屋敷が自ら適時三塁打を放ち、そして相手野手の敵失で7対2とした。その後、6回表にも2番田高康太(3年)の適時打で8対2と点差を広げる。
古屋敷は自慢の速球とスライダーで三振を量産。2年生で、コンスタントに140キロ中盤のストレートを計測できる投手はそうはいない。投球フォームを見ると、テークバックが大きく、しっかりとトップを作り、そして体の軸を鋭く回転させることができるフォームなので、実に連動性のある投球フォームができている。古屋敷は青森県東北町にある東北町中出身。軟式でプレーしていた古屋敷は中学3年に最速144キロを計測した。
「匠真は入学した時から凄かったです」とエースの種市が古屋敷の入学当時を振り返ったように、当時からずば抜けた才能を秘めていたが、140キロ台の速球だけでは通用しないとすぐに分かり、いかにストレートについては、伸びのあるストレートを投げることにこだわった。そのために投球フォームで気を付けたことは、フィニッシュ時にしっかりと振り切れるように、踏み出し脚の位置に気を付けたこと。そして投球時の呼吸法を意識した。
種市 篤暉(八戸工大一)
その呼吸法とは何か。「足を上げてまで息を吸って、そしてリリースの直前で吐くイメージです。そうすると息を吸うときに腹筋が締まって、リリースの直前で吐くと、上手い具合で投げることができるんです」古屋敷は、177センチ75キロとそこまで体は大きいわけではない。ただ体の使い方が中々器用である。さらに120キロ〜125キロ前後の縦横のスライダーが打者の手元でよく切れる。個のストレートとスライダーを武器に14奪三振も取った。だが、終盤は球速も、130キロ後半まで落ちて、甘く入ったところを打たれて8回裏に2失点をして、計4失点。2回以降、リズムを意識して、立て直した投球は見事だったが、終盤までクオリティを落とさずに投球ができるか? 次回へ向けて課題を残す結果となった。とはいえ、ストレートの勢い、変化球の切れとともに非常に精度が高く、2年生としてはハイレベル。ぜひ今後、1年間でさらに実力を伸ばし、来年のドラフト候補として名乗りあげることを期待したい。
そして9回に登板した種市はすさまじい投球を見せる。右オーバーから振り下ろす直球はコンスタントに143キロ〜148キロを計測し、148キロを二度も計測。先頭打者に安打を許し、さらに味方の失策などで無死一、三塁のピンチを招く。だが1番溝井を自慢の剛速球でねじ伏せ、併殺。これで二死。2番金澤大和に対しては、ランナーがいないので、再び145キロ〜148キロのストレートを投げて左飛。荒削りなところがあるとはいえ、今年の高校生右腕でこれほどの球速を投げる投手はそうはいない。130キロ前後のフォーク、120キロ後半のスライダーの曲りがまだまだだが、楽しみな逸材であることは間違いない。
とにかく荒削りな印象が目につく投手だが、彼も古屋敷と同じく中学時代は軟式。「自分、130キロぐらいしか出なかったですよ。古屋敷の方がよっぽどすごいです」と語るが、古屋敷は別格の投手だとして、種市もなかなかの潜在能力の持ち主である。青森山田の主将・内山 昂思(3年)も軟式出身。青森県の中学軟式の選手のポテンシャルは、あまり話題になっていないが、凄まじいものがある。
今では体重が64キロしかなかったようだが、徹底とした走り込み、さらに昨秋以降は徹底としたウエイトトレーニングによりビルドアップ。今年は右肩の違和感で一時、戦線から離脱していたが、復帰してからは、自己最速となる148キロである。あとは試合勘というところだろう。
溝井琴博(光南)
今後の課題として変化球の精度を挙げた種市。今の直球中心の投球では青森の強豪に打たれると思っている。「特に八戸学院光星の打者はストレートに強くて、140キロ後半のストレートでも捉えると思うので、低めに投げること。そして変化球でしっかりとストライクを取って投球を組み立てたい」と次の投球へ向けて意気込みを語った。まだ荒削りだが、桁外れの球速を持った投手であるので、次は長いイニングを投げて、どうピッチングを組み立てていくのか、注目をしていきたい。
また八戸工大一だが、打撃のレベルも高い。4番石戸谷 黛政(3年)は恵まれた体格をしていて、パンチ力が優れた左の強打者。ボールを手元まで呼び込んで打ちに行き、広角に鋭い打球を飛ばす。また適時打を放った5番工藤晴貴(2年)もパンチ力が優れた強打の捕手。またスローイングタイム1.9秒台を計測する強肩も魅力。まだキャッチング、ワンバウンド処理に課題を抱え、勿体ないミスがある。甲子園の距離を縮めるためには、工藤の捕手として能力をどれだけ高められるかにかかっているのではないだろうか。
敗れた光南だが、本塁打を含む2安打を放った1番溝井が面白い。八戸工大一の古屋敷の140キロ台のストレートに対しても怯むことなく、打ち返すことができていた。「速球を打ち返すことには自信があります」と語るように凡退したライトフライも角度の良い上がり方をしていた。しっかりとトップを形成して、弧を描くようにしてボールを捉える選手で、本来は守備に自信を持った選手ということだがさらに夏まで打撃を磨いていけば、もっと注目を浴びる存在になることは間違いない。
(文=河嶋 宗一)