昨夏、東海大相模が神奈川県勢として、1998年の横浜以来の夏の甲子園優勝を果たした。今年も全国で躍進を果たしたい神奈川県の抽選会は6月11日となかなか早い。そこで今年の神奈川の有力校をもう一度整理したい。

今年も横浜と東海大相模が中心左から 藤平 尚真(横浜)、北村 朋也(東海大相模)

 秋春優勝の横浜が優勝候補の筆頭に挙がるといっても良い。夏の神奈川を制するだけではなく、全国制覇を目指している横浜にとって、最も重要なピースなのが藤平 尚真(関連記事)である。その藤平だが、関東大会では素晴らしいピッチングを見せた。最速150キロの速球、キレのあるスライダー、フォークを自在に投げ分ける投球を展開し、計18イニングで2失点の好投を見せた。その中身は、普段は打たせて取るがここぞという場面では三振を狙うという投球だった。これならば球数を少なく収めることができ、全国を勝ち抜くスタミナを残していけるだろう。あとはベストコンディションで夏へ臨めるかにかかっているのではないだろうか。

 しかし藤平1人だけでは、とても夏は勝ちきれない。下級生の頃から活躍してきた石川 達也がどれだけピッチングの幅を広げることができるか。この2人に続く存在として春季大会で登板してきた135キロ前後の速球を投げ込む塩原 陸(2年)、最速135キロのサイドハンド・臼井 健雄、1年生左腕・板川 佳矢など、大会までの練習試合でしっかりとアピールをしていきたいところだ。

 野手では公家 響、村田 雄大、さらに藤平、石川が中心となった打線の破壊力は全国トップクラス。ここに1年生の万波 中正(関連記事)、長南 有航、そしてケガからの復帰を目指す増田 珠がケガ前よりパワーアップするようになると、打線は隙がなくなる。関東大会では緩急を使える投手に横浜打線は上手く抑えられてしまった。横浜は厳しいマークを受けることは間違いないだろう。それを乗り越えるだけの対応力を見せることができるか。

 そして対抗馬に挙がるのが準々決勝で横浜と延長11回の激戦を演じた東海大相模だろう。左腕の山田 啓太は、球速は130キロ中盤だがストレートにキレがあり、空振りが奪える投手だ。さらに藤平 尚真から本塁打を放ったように打撃も伸びてきている。そしてプロ注目の北村 朋也は、140キロ中盤の速球と打者の手元で鋭角に曲がるスライダーを武器にする本格派右腕。球離れが早かった昨年と比較すると球持ちが良くなり、投球フォームは実戦的になった。

 しっかりと体作りができれば、140キロ後半〜150キロ台前半も期待できる投手となった。速球を投げる才能は150キロ近い速球を計測した一二三 慎太(阪神)、山本 淳(元埼玉西武 現・日立製作所)にひけをとらない逸材だと評価されてきたが、その片鱗を見せるようになってきている。

 打線では、攻撃的な打撃スタイルでチャンスを作る右の巧打者・加藤 元気、ライナー性の打球を連発する今江 蓮、打撃フォームが改善され、長打力、ミート力が伸びた戸崎 慶、パワフルな打撃を見せる赤尾 光祐など昨秋に比べて格段に伸びた。また湘南ボーイズ出身で、いきなりショートの座を獲得した小松 勇輝は、ミート力が高く、しっかりと振り切って打球を飛ばすことができる選手だ。小柄に見えるが、上手くパワーをつけていけば、同じボーイズで同校の先輩である杉崎 成輝(現・東海大)のような選手へ成長する可能性を秘めた逸材で、1年夏から小松のパフォーマンスに注目が集まる。十分に横浜を破る力を持ったチームであり、夏も対戦が実現すれば、死闘になることは間違いないだろう。

[page_break:ベスト8の状況]ベスト8の状況森山 孔介(藤沢翔陵)

 準優勝の日大高のエース・森井 徹平は力強いストレートを投げ込む右の本格派で、関東大会では、強打の関東一打線を2失点に抑えたのは大きな自信になったことだろう。打線は丹羽 敬太など打力が高い選手が揃う。不安なのは、森井以外の投手陣。決勝戦では大量失点を喫し敗戦となったが、夏までの練習試合でしっかりと実力を高めていきたいところ。

 ベスト4の成績を収めた慶應義塾の140キロ右腕・木澤 尚文は、2年生だがゲームメイク能力はエース木澤を凌ぐ能力を持った森田 晃介の2枚看板が中心。打線は例年ほどの破壊力はないのだが、相手のミスを逃さず一気に畳みかける集中力は嫌らしい攻撃ができるチームといえるだろう。投打の総合力をどこまで引き上げることができるか。3年生の木澤は能力は高いものがあるだけに、ピッチングの幅を広げていき、夏では一味違ったピッチングを見せていきたい。

 同じくベスト4の藤沢翔陵は、近藤 明弥、森山 孔介の2人のスラッガーの破壊力は県内トップクラスなだけに、あとは投手陣がどれだけ底上げできるかがカギになりそうだ。

 春のベスト8を見ていくと、桐光学園は投手陣がカギを握る。右下手投げの中川 颯、速球派左腕・大河原 誠、2年生右腕・大工原 泰成といるが、まだ隙が多く、夏へ向けてどれだけ状態を上げていけるかがカギとなっている。どちらにしろ継投策で勝ち上がっていくことになりそうだ。打線はタレント揃いで、長打力のある中川、リード、強肩がウリの大坪 亮介、走攻守三拍子揃った外野手・齋藤 健成、俊足、守備範囲の広さは高校生の中でもハイレベルな渡部 遼人、下位ながらシュアな打撃、スピード感溢れる遊撃守備が魅力の逢阪 倫充、パンチ力のある延命 秀太郎と逸材は多い。

 同じくベスト8の横浜隼人は県内屈指の破壊力を誇る打線が魅力。広角に打ち分ける打撃、俊足が光る浅見 遼太郎、巧打・強肩が光る吉川 雄真、小柄ながらパンチ力が光る打撃がウリの小泉 雄雅、そして長打力はピカイチの高橋 淳彦と打力が高い選手が揃う。ただ投手陣は最速138キロ左腕・林 明良が伸びてきているが、他の投手陣も安定感を高めたいところ。林明も常に安定して試合を作れるわけではなく、まだ不安がある。夏までにどれだけ状態を高められるか。また投手陣の不安をかき消すような豪打で勝ち上がっていきたいところだ。

 桐蔭学園は右サイドの小川 隼平は安定感が高まったが、大型左腕・徳永 凌雅がどこまで自分の力を発揮できるか。伝統的に継投策でいくチームなので、夏へ向けて練習試合で好投した投手が浮上しそうだ。打線は左の好打者・柿崎 颯馬、広角に鋭い打球を飛ばす中 清隆が中心だ。

[page_break:ベスト8以外も平塚学園、武相など有力校が多数]ベスト8以外も平塚学園、武相など有力校が多数高田 孝一(平塚学園)

 ベスト8以外の注目校を挙げると、桐蔭学園と延長13回の激戦を演じた平塚学園は、エース・高田 孝一(関連記事)が復活傾向。テイクバックを大きく取って振り下ろす140キロ台の速球は勢いがあり、夏へ向けて、さらに状態を高めていけるか。角度ある速球、直球と同じ腕の振りで投げ込むカーブとフォークのキレは一級品で、上位校にとっては最も苦しむ投手に違いない。打線も底上げして、上位進出していきたい。

 横浜に敗れたが、弥栄は切れのある120キロ後半の速球とスライダーを武器にする近藤 宏俊、140キロ近い速球を投げこむ篁 将希の両左腕に注目だ。俊足巧打の佐藤 俊哉、強打の捕手・山本 雅樹(2年)など打力が高い選手が揃う武相、東海大相模に接戦を演じた藤嶺藤沢、横浜創学館に勝利した大師。横浜隼人に大接戦を演じた相模原は勝負強い打撃が光る後藤 寛生を中心に長打力のある選手が揃う。投手陣に不安を抱えるために打ち勝つ野球で勝ち上がっていきたい。

 昨夏ベスト4の日大藤沢は、130キロ前半の速球、スクリュー、チェンジアップ、スライダーを駆使する技巧派左腕・大倉 和樹、130キロ中盤の速球を投げ込む布施 宏基の両左腕の出来がカギを握る。打線は、好打者で守備範囲が広い遊撃手・菅原 裕太(2年)が最も存在感を出しているが、菅原を含め、各打者の底上げが上位進出の条件となるだろう。また元桐蔭学園の土屋 恵三郎監督率いる星槎国際湘南は2年生右腕・本田 仁海の評判が高まっている。夏では見逃せないチームとなるだろう。

 他では向上、140キロ右腕・大浦 慎吾擁する横浜商大高の戦いぶりも見逃せない。強豪公立では昨秋ベスト8の川崎北や、伝統校・湘南、近年成長著しい白山、瀬谷、県内屈指の大型外野手・大村 望森擁する戸塚にも期待がかかるだろう。

 今のところ横浜が有利と見られているが、一筋縄ではいかないのが神奈川県の怖さ。まずは6月11日の抽選で、横浜、日大高のブロックにどんな強豪校が入るのかに注目だ。抽選という第一イベント終了後には、再び各ブロックの見所をお伝えしていきたい。

(文・河嶋 宗一)

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