都立葛飾野高等学校(東京)【前編】

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 関東一の優勝で幕を閉じた春季都大会は、秋季都大会に出場した48チームと、1次予選を勝ち抜いた48チームの計96チームによって行われた。その1次予選のサプライズの一つが、都立雪谷が敗れたことである。都立雪谷に勝ったのは、都立葛飾野。1次予選の代表決定戦の都立雪谷戦では、エースで4番の神戸 友彰が延長11回を4安打完封。しかも神戸自らが、サヨナラ本塁打を放って勝負を決めた。

 都立葛飾野は都大会では2回戦で駿台学園に敗れ、夏のシード校にはなれなかった。しかし神戸は、1次予選、本大会を通じて4試合連続本塁打を記録している。

 神戸だけでない。チーム全体が、明るくノビノビと野球を楽しんでいる姿が印象に残った。どんなチームなのか。学校を訪ねてみた。

下町の野球小僧

辻川 輝主将(都立葛飾野高等学校)

 都立葛飾野高校の最寄り駅は、JR常磐線の亀有駅である。漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の舞台である、東京の下町だ。都立葛飾野高校を指導して6年目になる沖山 敏広監督は選手たちを、「下町の野球小僧ですよ」と言う。野球部員には、電車通学で亀有駅から学校に向かう人はおらず、大半は自転車通学である。春季大会で大活躍した神戸も、「家は墨田区ですが、自転車で通っています。踏切にかかれば30分、かからなければ25分くらいです」と語る。

 都立葛飾野高校のある葛飾区や周辺の足立区、墨田区、江戸川区などは、少年野球が盛んな地域である。リトルシニア、ボーイズといった硬式だけでなく、軟式も中学校の部活やクラブチームなど様々である。神戸は中学生の時、クラブチームである鐘ヶ淵イーグルスに所属していた。このチームの1年先輩には、佼成学園から國學院大学に進学し、既に勝利投手になっている小玉 和樹がいる。

 野球が盛んな地域だけに、野球を始めたのも、友人や身内に勧められてということが多い。神戸は友人に誘われたことがきっかけであり、神戸とバッテリーを組む捕手の北井 亨樹は、「お父さんが野球好きで、兄貴も野球をやっていて、小1から気が付いたら、野球漬けでした」と語る。このチームには、父親がブラジル人とのハーフであるタカムラ ブレイン 七瀬という選手がいるが、彼も「友達に少年野球チームに誘われて野球を始めました」と言う。

 また父親がガーナ人のブライト 健太も、「友達に誘われて野球を始めました。バスケやサッカーも考えましたが、やはり野球かなと思いました」と語る。関東一から楽天に入団したオコエ 瑠偉(関連記事)の父親は、息子にサッカーをやらせたかったそうだが、ブライトは、「お父さんが野球好きです」と言って笑った。

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 少年野球が盛んなだけあり、この地域には野球の強豪校が多い。都立葛飾野高校の近くには修徳があり、関東一も遠くない。都立勢では、この春、関根 智輝投手(関連記事)を擁して準々決勝に進出した都立城東、シード校になった都立江戸川、昨夏4強の都立篠崎をはじめ、都立足立新田、都立足立西、都立墨田工などがある。都立城東のエース・関根 智輝は、3人兄弟の末っ子で、長男が都立葛飾野、次男と三男の智輝が都立城東である。長男について沖山監督は、「5番でキャッチャーで、野球が大好きでしたね。朝来ると、ゲージで打っていました」と懐かしむ。

 そうした環境の中で、なぜ都立葛飾野高校を選んだのか。主将である辻川 輝は言う。「いろんな高校に行きましたが、沖山監督に3年間教わりたいと思いました。監督さんがしっかり叱って、選手もそれに応えて。明るくて、厳しいところは厳しく、雰囲気はどこよりも良かったです」と語る。辻川は、控えに回ることが多いが、主将には部員の投票で選ばれた。大きな体で、どことなく愛嬌があり、人気があるのも分かる気がする。

 こうした沖山監督の指導や、部の雰囲気とともに挙げられたのが、控え投手である茨木 亮丸が、「都立ではグラウンドが大きく、満足に練習ができて、この学校ならと思いました」と言うように、練習環境であった。

都立としては恵まれた練習環境

ブライト 健太内野手(都立葛飾野高等学校)

 亀有駅から15分ほど歩いて校庭に入り、まず目に入るのが直線100メートルのアンツーカーだ。都立高校の多くは、体育の授業でサッカーをすることを想定した長方形のグラウンドで、直線の100メートルを確保するのに、苦労する学校も少なくない。しかし都立葛飾野高校では、本当に100メートル、と思ってしまうほど、ごく普通にアンツーカーが敷かれる。その横に、かなり広いスペースがあり、さらにその横のネットで区切られたスペースで野球部が練習している。

 野球部の練習スペースは、左翼に90メートル、右翼に97メートルあるという。少なくとも都立では、とりわけ都心に近い東東京では、これだけ恵まれた環境は珍しい。グラウンドでは、沖山監督がノックしている。レフト、センター、ライトと外野にも、不便さを感じることなく、ボールが打たれる。

 時折、沖山監督の声がグラウンドに響く。ただそれは、ありがちな罵声ではなく、選手に問いかけることが多い。まだ選手同士でも指示を出し合っている。途中から、走者を置いてのノックに切り替わる。走塁でひときわ目立っているのが、ブライトだ。走る際の加速や、走りの迫力は群を抜く。沖山監督も、「オコエを彷彿させる。身体能力は抜群です」と期待する。

 ブライトは1次予選で本塁打を放ったほか、都大会でも三塁打と、二塁打を記録している。近くでみると、かなり鍛えられた体格をしているが、オコエと比べれば、まだ線は細い。その点は本人も自覚しており、「ご飯の量を多く食べたりしています」と言う。まだ2年生。来年以降の成長が楽しみな選手だ。

 前編では都立葛飾野なりの独特のチーム構成を紹介しました。後編ではキーマンとなるエースの神戸 友彰投手を紹介しつつ、夏へ向けての意気込みを伺っていきたいと思います。

(取材・文/大島 裕史)

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