大阪桐蔭vs上宮
先発・巻大地(上宮)
ここまでの3試合。3試合連続二桁得点と圧倒的な強打で勝ちあがっている大阪桐蔭。その大阪桐蔭が8回まで無得点と大苦戦した。試合後、西谷浩一監督が「苦しい試合でした。相手投手が本当にコントロールが良くて苦しかったです」と振り返るように上宮のエース・巻大地(2年)の好投が光った試合だった。では巻はどんな投手なのかと説明すると、球威ある真っ直ぐをコントロール良く投げ分けができる左腕投手である。
だが立ち上がりはやや不安なものだった。いきなり1回裏、一死一、三塁のピンチを招き、4番三井 健右(3年)を迎えたが、なんとか併殺に打ち取ってから、「あの併殺でだいぶ気持ちが楽になりました。それまでは、とにかく緊張をしていましたから」と緊張から解れた巻は快投を見せる。
球速は125キロ〜130キロ(132キロ)で、突出して速いわけではないのだが、球速表示以上に勢いを感じるのか、大阪桐蔭の各打者が捉えることに苦労しているのだ。そして110キロ台のスライダーが低めに決まっていて、これも厄介な球種だ。 巻が打ち難く感じるのはフォームにある。巻はノーワインドアップから大きく右足を巻き込んでから真っ向から振り下ろす左のオーバーハンドだが、フォームに勢いがあり、右肩の開きが遅く、なかなか腕が出てこないので、出所が見難い。サヨナラ打を打つことになる福井章吾(2年)は最初は対応ができなかった。巻の印象について、「コントロールは良いですし、あのトルネード気味なフォームから一気に腕が振れるので打ち難いですし、さらにテンポも良いのでなかなか自分の間合いで打てませんでしたね」と苦労している様子だった。大阪桐蔭の3番吉澤 一翔も、「0-2からですと、甘いボールに投げる傾向にあるのですが、巻投手の場合、際どいコースへストライクが取れる。それは嫌だなと見ていました」とU-18代表一次候補に入った吉澤も巻のコントロールの良さを称えていた。
その巻だが、実は叩き上げの左腕だ。西山田中時代、軟式でプレー。最後の夏は府大会の初戦で敗れている。無名中の無名だが、率いる村田監督の目に留まり、上宮に進むことになる。村田監督は何を評価したのだろうか。「当然、個人の技術を見ますが、彼が良かったのはマウンド上に立った時の雰囲気、佇まいですね。それに惹かれました。そして取り組み。やっぱり高校生は取り組み次第で一気に伸びるものですが、彼は自分の課題に向き合って取り組む姿勢が中学生の時からありました」巻からすれば願ってもない話である。上宮に進学してからも姿勢は変わらなかった。「高校生なんで、私がいないと手を抜きたくなるものですが、巻の場合はそれがありません。自分の課題に向かって真剣に練習ができる選手ですし、本当に姿勢が素晴らしい投手なんです。だから入学から大きく伸びた選手ですね」と村田監督は巻の練習に取り組む姿勢を評価していた。同期には巻より中学時代に実績ある投手がいるようだが、前向きに取り組む姿勢でメキメキを力をつけた巻はエースとなっていた。
サヨナラ打を放った福井(大阪桐蔭)
今のトルネード投法もコーチからのススメのもの。「ヒップファーストで投げられるようにということで今のフォームになったのですが、それでボールの勢いも変わってきました」ストレートも自己最速135キロまで伸びるように。キレ、出所の見難さは意識をしていないが、今のフォームをマスターしたことで、自然と嫌らしい投手となっていた。
巻は大阪桐蔭打線に走者を許しながらも粘り強いピッチングで得点を与えない。自然と焦ってしまうものだが、大阪桐蔭投手陣も井上 大輔-香川 麗爾の2年生投手リレーで先制点を与えなかった。「この2人が失点を与えなかったのが大きかった」と西谷監督が語るように、0対0のまま9回裏を迎えた。一死一塁から福井が狙い球としていたストレートを捉え、レフト線を破る長打。これを一塁走者・栗林 佑磨が俊足を飛ばして、クロスプレーとなったがセーフ。大阪桐蔭が苦しみながらもサヨナラ勝ちを決めた。ここまで大阪桐蔭を苦しめた2年生左腕・巻の投球は大きく評価されることだろう。
村田監督は「良く投げましたが、相手打者が上でした」と脱帽。ここまでの戦いぶりを「大阪桐蔭にここまでやったというのは選手たちにとっては大きく自信になったと思います」と敗れはしながらも選手たちの戦いを評価していた。
敗れた巻は「テレビで見ている大阪桐蔭の選手を対戦できたこと。また舞洲スタジアムでプレーすること自体、初めてだったので、投げていて楽しかったです」と試合を振り返った。今後の課題としては、ストレートがまだ押し切れなかったこと。打ち取ったものはスライダーが多かったので、ストレートで打ち取れるような投手になりたい」とストレート強化を課題に挙げた。 好投をしても現状を満足せず、さらに上達へ向けて意気込む巻。まだ2年生左腕ということで、今後の大阪桐蔭の好敵手として頭に留めたい選手になったのは間違いない。
(取材・写真=河嶋 宗一)
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