4月から女性活躍推進法が施行される。女性の就業を継続し、いかに活躍する仕組みを作っていくか。働き方の改革はどこまで進むだろうか。(文・溝上憲文編集委員)

 4月の施行に備え、東京都内でも厚生労働省の担当官を招いた「女性活躍推進法セミナー」が相次いで開催され、各社の人事担当者が多く参加していた。筆者が覗いた会場はほぼ満席状態。参加者のうち半分近くを女性の担当者が占め、法令の説明や女性活躍に取り組む企業の話に熱心に聞き入っていた。

 参加した人事担当者からも「情報公表は学生や求職者へも訴求できるという視点は新しい発見になった。まずは課題を把握し、人材獲得も含めて戦略的として取り組みたい」という感想があった。一方「(女性活躍推進)制度はその会社によって有効なものは違うので、まず大事なのは『風土』であると改めて強く意識した」という風土改革の必要性を感じる声なども聞かれた。

 参加した40代の男性人事担当者はこの法律自体に手厳しい意見を吐いた。「セミナーにあれだけ多くの企業が参加していたことに驚いた。法律自体は政府目標を企業に転嫁し、それができない企業を公開処刑するという悪法だと思っている。一体この人たちのうちどのぐらいの人が本気で取り組もうと思っているのかわからないが、女性を登用する実際の現場の担当者が動かなければうまくいかないだろう。うまくいかなければ最後は『お前が悪い』ということになりかねず可哀想な気もした」

 法律そのものに懐疑的なのは彼だけではない。大手通信業のダイバーシティ推進担当者は「政府の最終目的は要するに女性をちゃんとした労働力にしようというもの。そうであれば先に企業の数値目標ありきというのは疑問。すでに大企業は私たちを含めてすでに自主的にやっている。そこを突っつくよりも、今働いておらず、働きたくても働けない専業主婦の人たちがたくさんいるし、そういう人たちの受け皿を作ったほうが目標により早く達するのではないか」と語る。

 重い責任を押しつけられて迷惑している様子もうかがえる。しかし、いくら人事部が一生懸命に動いても現場のマネジメントが動かなければ女性の活躍は進まない。現場の責任者はどうしているのか取材してみた。 

 大手人材サービス会社の営業職の管理職はこう語る。

 「昨年から今年にかけて経営トップから女性を引き上げろという明確な指示が現場にも伝わってきている。でも管理職をやりたいという女性はまだまだ少ない。課長の下の係長クラスのグループリーダーが10人いるが、女性は2人しかいない。引き上げていきたい気持ちはあるが、8人の男性と競争させて彼女だけ引き上げるのは正直言って相当厳しい。まだ育っていない中で課長として仕事を回していけるかとなると、今のスキルでは苦労することが目に見えている。そうならないように教えていかないといけないのだが、他の男性との競争なので彼女たちが耐えられるのかどうかも心配だ」

 女性社員が管理職になりたいという明確な意志を持たせて育てていくのは容易ではない。その上に今回の推進法の施行で新たな数値目標の設定を含む行動計画の策定業務などさらなる負担を押しつけることになる。

 そもそも推進法に関しては、数値目標について最低限目指すべき水準が示されていないことや情報公表は省令で列挙する14項目から最低一つを選択すれば足りるなど実効性については専門家の間からも疑義が出されている。

 さらに管理職の定義が曖昧であり、女性課長を増やそうと思えば部下を持たない肩書きだけの課長を増やすことが可能だが、数字を達成するための外向けに管理職を作ると、当該女性や周りの人たちにとってもマイナスの効果しかない。

 IT企業の人事部長は数字にこだわるよりも働き方そのものを変えていくことが重要だと指摘する。

 「当社は女性の活躍推進を積極的にやるのではなく、男女ともに働き方を変え、最大効率でパフォーマンスを追求することを目標にしている。現在、『時間と場所にとらわれない働き方』をテーマに在宅勤務の実施やITツールを駆使したテレビ会議、マネジャーが『会社に来ない日を1日設ける』取り組み、男女の時短社員の採用などを実施している。これらにトライすることで様々な働き方をする会社を実現し、結果的に女性も活躍できると考えている」

 女性の活躍を促すには時間と場所にこだわる従来の「働き方のルールを変えるべき」という指摘だ。そのためには「“ヒトに依存しない”業務の細分化をしていくべきであり、無駄な仕事を効率化していくために管理職が細分化された仕事をいかにマネジメントしていくかを考える視点が大事ではないか」(人事部長)

 管理職に育成するには、まず一定採用数を確保し、入社後の教育や仕事の与え方を通じた地道な育成努力を通じて達成されるものだ。

 大手通信会社の女性人事担当者は「一番問題なのはスキルや経験が未熟なままに出産・育児などのライフイベントを迎えてしまうことだ。育児に入る前に徹底してスキルを鍛える仕組みを作り、本人に自覚を促すことが大事だと思うが、誰もそのことに触れない」と嘆く。

 数値に追われることなく、女性の就業を継続し、いかに活躍する仕組みを作っていくか。女性活躍推進法の施行を前に、経営の観点を含めて個々の企業の事情を踏まえた課題を抽出し、それを行動計画に反映し、着実な達成を目指すべきだろう。
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-->溝上憲文(みぞうえ・のりふみ)
本誌編集委員・ジャーナリスト
1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開している。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「超・学歴社会」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「会社を利用してプロフェッショナルになる」(光文社)「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)、「2016年 残業代がゼロになる」(光文社)。近著に「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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