明徳義塾高等学校 古賀 優大選手「探究の『肩』と研究の『リード』で真の『女房役』へ」

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 2002年夏の甲子園全国制覇捕手の筧 裕次郎(元オリックス・バファローズ)やオリックス・バファローズの女房役として活躍する伊藤 光。最近でも拓殖大の新主将に就任した杉原 賢吾など好捕手を輩出する明徳義塾(高知)で、現在正捕手を務めるのが古賀 優大(2年)である。二塁送球1.8秒台の高校球界屈指の強肩に加え、最近はリード面でも成長著しい古賀が語る「女房役」の流儀とは?高知県須崎市の明徳義塾野球部寮「青雲寮」で話を聴いた。

運命の「捕手途中出場」から明徳義塾で飛躍

古賀 優大選手(明徳義塾高等学校)

 2013年5月のゴールデンウィーク。春の高知県大会決勝戦で高知商に敗れ、春季四国大会出場を3年ぶりに逃した明徳義塾野球部・佐藤 洋部長は、夏の体験練習会参加に見合う中学生選手を探すべく、四国内のある中学硬式野球練習試合に足を運んでいた。

 そこで目に留まったのは福岡県のフレッシュリーグ「友愛野球クラブ」投手を務め最終回に捕手で出てきたある選手。矢のような二塁送球にひと目で惹かれた佐藤部長は当初予定していた選手でなく、その選手に体験練習会参加を「捕手」として要請する。「最初はびっくりしましたけど、やるなら捕手として高いレベルに立って、自分のレベルを上げることに挑戦する価値があると思いました」

 その後、2014年に明徳義塾の門を叩いた男こそ、現在、背番号「2」を背負う古賀 優大。そんな彼にチャンスは意外と早くやってくる。入寮翌日、新入生だけが参加したノックと打撃練習で手ごたえを得ると、翌日、サブグラウンドの練習では馬淵 史郎監督から直々に声がかかる。

「お前、メイングラウンドでノックを受けろ」

 そして5月の県総体では早くもベンチ入り。途中、右ひざの痛みに悩まされたことで高知大会・甲子園のメンバーからは外れたが、「次のメンバーとして考えているからな」と指揮官からの激励を受け、帯同メンバーとして甲子園にも同行した。

 加えて、2学年上・岸 潤一郎(現:拓殖大1年・2013年インタビュー)の存在も古賀にとっては幸いだった。時たま巡ってくるブルペンでの捕球で「ストレートはなんとかつかめるが、カットボールなどにはミットが捕球時に垂れてしまう」課題を無言のうちに伝えられ、1年冬には水野 克哉(現:中部大1年)らからグラブさばきや捕球のタイミングなど細部に渡って指導を受けたことにより、キャッチング技術は飛躍的に向上した。

[page_break:悔しさを重ね、最後の冷静さで初甲子園へ]悔しさを重ね、最後の冷静さで初甲子園へ

古賀 優大選手(明徳義塾高等学校)

 こうして1年秋の県大会途中から正捕手の座を確保した古賀だったが、彼を待っていたのは苦難の連続だった。秋季四国大会準決勝・今治西戦では「打たれたボールの後に単調になってさらに打たれてしまった」リードと、最終回の好機に打てなかったことで敗戦。結果、センバツ出場を逃すことに。

 自信をつかんだはずの2015年春も、県大会決勝戦で日隈 ジュリアス(東京ヤクルト4位指名)擁する高知中央に、また四国大会初戦でも「頭が真っ白になってリードがわからず」秋の四国王者・英明に完敗に終わる。

「明徳義塾、6年連続の夏の甲子園出場、危うし」周囲のプレッシャーを受けながら、それでも古賀は再び前を向いて、飛田 登志貴、七俵 龍也、佐田 涼介の3年生右腕3枚とコミュニケーションを重ね、より各投手の特徴を頭に入れる。

 迎えた高知大会決勝でそれは活きた。宿敵・高知戦。5点リードで迎えた8回裏「また単調になっているのかな」と思いつつ6点を奪われ一挙逆転を許し、投手も飛田から七俵へ。そして迎えた打者は4番・捕手の榮枝 裕貴(2年)。今までなら頭が真っ白になっていた場面だったが、ここで古賀は冷静さを取り戻す。「七俵さんは飛田さんより変化球でカウントが取れる投手。そして捕手の榮枝ならストレートを狙っているはず。だから変化球で勝負しよう」結果は三塁ゴロ。ここを1点ビハインドで止めたことが9回表二死からの大逆転につながる。

「やっと甲子園に行ける」。古賀 優大にとって初甲子園は、土壇場でのリード面での成長なくして語れないものだった。

[page_break:強肩を際立たせる探究の「古賀流ステップワーク」/ 研究のリードを磨き「真の女房役」に]強肩を際立たせる探究の「古賀流ステップワーク」

古賀 優大選手(明徳義塾高等学校)

 1年秋からマスクを被っている古賀だが、その特徴を語る上で欠かせないのは二塁送球に代表される遠投100メートルの強肩である。この肩についても古賀は高校入学後、時間をかけて様々なアプローチから試行錯誤を積んできた。「以前はボールの持ち替えとかに気を遣っていましたけど、高校生レベルで二塁盗塁が刺せる1秒台に乗せるには、脚の運びをいかにスムーズにできるかがボールの質を決めると思っています」

 練習ではティーと同じ距離からボールを投げてもらい、送球フォームと脚の運びを見ながらのネットスローに取り組む古賀。では、そのステップワークを実演してもらおう。

 捕球して、前に進むようにステップを踏みながら半身になって「1〜2」のリズムで送球。通常系である、捕球して、バックステップを踏み、送球体勢を作って投げる「1・2〜3」のリズムと比べると明らかに速い。

「脚を捕球した後、左足を右足の前にするようにステップすれば、同時に身体は半身になってグローブと腕の位置も自然と送球体勢になるんです。自分も最初はバックステップしてしまって、二塁への距離も遠くなって刺せないことが続いていたんですが、1年冬の練習で馬淵監督や佐藤部長からそこの指摘を受け、1個ずつ意識して取り組んだことで、送球タイムも上がってきました。フットワークもよくなると送球の正確性も出てくると思います」

 自身も手ごたえを語る通り、二塁送球タイムは2014年の2.0〜2.1秒台から2015年は常時1.9秒台、時に1.8秒台に突入。もちろん豊富な練習量が前提にはなるが、この「ステップワーク論」は他の高校生捕手にとっても大いに参考となる金言である。

研究のリードを磨き「真の女房役」に

 こうして高校球界注目の捕手として迎える2016年。ただし、古賀 優大は「強肩捕手」の名だけに留まっているつもりはない。敦賀気比(福井)の前に初戦敗退に終わり「3打席目、4打席目になるにつれて、リードの手がなくなって反省ばかりだった」2015夏の甲子園。中野 恭聖(2年)が主戦に戻り「インコースを使うことを心がけ」県大会は切り抜けるも、インコースの抜け球が多くなった四国大会では苦心のリードを強いられ、高松商(香川)との決勝戦ではけん制を入れきれず、まさかの3盗塁を許して完敗を喫した2015秋。

 これらの苦い経験を通じ、彼は秋の公式戦を終えるとすぐ、再びのリード研究に勤しんでいる。「いろいろなDVDを見直し、TVでもいろいろなプロ野球や、世界野球プレミア12の試合を見て、プロの捕手のリードと自分のリードを答え合わせしながら考えています。このままだったらセンバツに出ても恥をかくだけなので、個々のレベルアップをしていかないといけないです」

 目標はもちろん、1月29日の発表を待つセンバツに出るだけではない。地を這うような努力の先にある、越えるべき場所を目指して。「高松商が明治神宮大会で勝ったのだから、僕らもと思っています。そのためにもこの冬が勝負です」と力強く意気込む古賀 優大の視線には明徳義塾・四国の盟主奪還、真の女房役、そして夏の先にある夢実現への未来予想図がしっかりと見えている。

(取材・文/寺下 友徳)

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