【平成27年度指導者研修会】工藤 公康監督(前編)「球界きっての理論派になった理由」
12月5日、東京都高校野球連盟は海城高校講堂にて指導者研修会を開催した。今年は2年連続の日本一に導いた福岡ソフトバンクホークスの工藤 公康監督(2009年インタビュー 【前編】 【後編】)を招き、講演が行われた。東京都の指導者を中心に350人ほどが集まった講演会は大きく盛り上がった。今回は講演会の一部を紹介していきたい。
工藤監督が人間形成を重視した背景会場の様子今年1年を振り返って工藤 公康監督は、「僕は、これまで指導者経験はないですし、ホークスの選手のことを知りませんでした。この1年は、選手のことをよく知ること。そして選手の能力を引き出すことに焦点を当て、選手たちに接しました」と振り返る。
工藤監督の講演の前半の話は、人間形成について。野球界では人間形成が大事にされているが、工藤監督も大事だと考えている。その背景を紹介すると、工藤監督は1982年にプロ入りを果たし、当時の球団専務だった根本 陸雄氏に「野球選手である前に、社会人であれ」と訓示を受けた。野球選手として、どうしても活躍をしたい、多くのお金を稼ぎたいという部分に気持ちが向きがちだが、工藤監督がプロ入りした数年後、若くして球界を去る選手の姿を目の当たりにして、根本氏のアドバイスが有益なものであったと気づく。
「立派に社会人をやっている選手もいれば、華やかさが忘れられない、ちゃんとした社会人になれない選手もいましたね」と振り返る。
そして自身は2010年に現役を引退して、その後4年間、解説者として活動する中、一般社会と関わることが多くなった。この活動期間こそ非常に大きく、「人間教育が大切であり、プロ野球選手は人から見られている職業」であることを痛感し、ソフトバンクホークス監督就任後、ガム、ツバの吐き捨て、不精ひげ、金髪、茶髪は禁止など決まりを作った。
講演中の工藤監督を見ると、折り目正しく関係者に挨拶する姿が印象的であった。講演会後は東京都の指導者が集まって行われた懇親会においても、工藤監督の話を聞こうと集まった指導者が大勢いたが、懇親会が終わると、工藤監督は1人1人にがっしりと握手を交わしていた。1人1人に向き合う。これこそ工藤監督がこだわっている「人としての接し方」である。
[page_break:野球を始めた時から理論派]野球を始めた時から理論派指導者へ語り掛ける工藤 公康監督(福岡ソフトバンクホークス)
工藤監督は球界きっての理論派。引退してからも筑波大学の大学院に通うなど、勉強を欠かさない。その根底は中学時代にあった。
工藤監督の中学時代の野球部の指導者は野球経験がなく、指導ができていなかった。必然的に自分で野球の研究をして、技術を習得するようになった。工藤監督は雑誌の(選手の)連続写真を見ながら、それを参考にして、プロ野球選手が「投球には背筋を鍛えたほうが良い」といえば、背筋を鍛える取り組みをした。当時の工藤少年は知識があり、行動力旺盛な少年だったのある。
そしてさらに理論派になったきっかけは、プロ入り時のこと。当時の投手コーチから「右肩を開くな」「腕を後ろに残せ」といった技術的な指導を受けた。しかし曖昧すぎて、意味が分からないので教えてくださいとコーチに質問した工藤監督。しかしコーチの回答は「いいから俺の言う通りにしろ」といった強制的な指示であった。この時、工藤監督は「この人から教えてもらうのは難しいと思い、自分から調べるようになりました」
コーチの言葉をうのみにするのではなく、「右肩を開くな」の定義は何なのか?と自ら研究するようになった。この研究心が投球のメカニックを専門的に勉強をしたり、独自の練習法を編み出しながら、プロで29年間プレーする礎を築いたのだ。
[page_break:技術的な欠点は多岐にわたるところから説明]技術的な欠点は多岐にわたるところから説明身振り手振りで解説する工藤公康監督(福岡ソフトバンクホークス)
こうして工藤監督は「肩の開きが早い」などを技術的な欠点を断片的に指摘するのではなく、どういう背景でその欠点になっているのかをしっかりと説明する。たとえばオーバースローでコントロールを乱しやすい選手に対して、下半身が使えていないと説明されると、(選手が)なぜ下半身を使えていないのか?という疑問に対して、踏み込んで解説できる指導者が少ないと工藤監督は指摘する。
下半身が使えていない投手は股関節が硬い投手が多いが、股関節を使って投げようとしても投げられない。何故かといえば、それを支えて投げるだけの筋力がないから。じゃあ股関節を鍛えるにはどんな練習をすればよいのか?
下半身が使えていない現状を説明をして、そのためのトレーニングもアドバイスする。技術的な欠点を克服するにはそこまで落とし込んで指導することが大切だと工藤監督は話す。現在、工藤監督は今秋のキャンプでホークスの投手陣に自転車のチューブを使って、これを腰の付近に巻き付け、低い態勢のままシャドーピッチングするという練習を取り入れている。
「僕が現役時代に取り入れていた練習が多いですね。古典的な練習が多いと思いますが、僕は効果があると思って、選手たちにもやらせています」
また一般的に球持ちが良い(投げる時に、できるだけ球を持ち、打者に近い位置でリリースする)投手は、良い投手といわれている。そうすることで体の負担が小さいだけではなく、速いボールを投げられるからである。では、それができない投手は何が原因なのか?そのための矯正方法、練習法は何なのか?というところまで工藤監督は説明する。
この講演では、投手のメカニックについてさらに具体的に説明していた。ここまで踏み込んで説明できるのは、工藤監督が普段から科学的な根拠を持って、野球を追求しているからだ。
プロ野球界に何十年も身を置く人物が真剣に語るとここまで理論的に野球を語れるものなのか...と驚くことばかりであった。工藤監督も、指導者研修会後に、「今まではできなかったが、今回はこういった形だったので、真剣に話をさせていただいた」というように、高度な話の講演となった。
後編では技術を鍛えるために、体作りの大事さや目的設定の大事さについて語っていただきました!お楽しみに!