滋賀学園高等学校(滋賀)【後編】
前編では、滋賀学園の今秋の近畿大会での戦いぶりや、現在の主力選手の紹介をしてきたが、後編では来年に向けたチームの構想などを伺いました!
毎年増える沖縄組。1年生バッテリーを奮起した2年生が盛り立てる1年生ながら3番・捕手を務める後藤 克基(滋賀学園高等学校)
快進撃を見せた滋賀学園にはここ3年、毎年沖縄出身の新入生がいる。山口 達也監督が沖縄に行った際、知人の紹介で「内地、本土に行きたい」という希望を持っていた添盛 空(3年)を受け入れたのがその始まり。ただしこの時点で添盛が知っていた滋賀学園の情報は高校案内のパンフレットだけ。どんな校舎かも知らなければ、土地勘もない。
環境も変わって、気候も寒く、さらには学校には、知り合いは一人もいない。そんな中で、周りとうまくやっていけるかは未知数だったが、それでも、成績も人間性も優秀な添盛は何の問題もなくチームに溶け込んだ。帰省出来るのは年末年始ぐらいだが「滋賀学園は楽しい」という噂はすぐに島で広まった。
翌年(現2年生)には2人、今年はさらに増えて5人が遠路はるばる海を越え滋賀学園の門を叩いた。現チームのレギュラーではエース・神村 月光とショートを守る小浜 崚史(1年)もそうだ。
その神村と1年生バッテリーを組む後藤 克基は夏も正捕手を務め、打者としても3番を任されチームの中心を担った。神戸中央シニア出身で中学1年の秋、まだ知名度がそれほど高くない時期に、レガースやプロテクターを着けたキャッチャーとしての姿が様になっていると山口監督が一目惚れ。現在はタイガースカップ以来となる甲子園での試合に向けて「インパクトのある3番バッター、どんな時でも冷静なキャッチャーになれるように」と練習に励んでいる。
4番・馬越 大地(滋賀学園高等学校)
後藤のあとを打つ馬越 大地は身長178cm、体重82kgという体型に加えて頭の上でバットをグルグル回してタイミングを取り、足を高く上げるフォームは見るからに4番タイプ。ただ大阪桐蔭戦(試合レポート)では先頭打者として打席に入った4回、追い込まれてから高めの球をうまくライト線へ流し打つ技ありのツーベースヒット。8回の第4打席ではフルカウントから変化球に体勢を崩されながらもちょこんと合わせてレフト前に運ぶなど器用さも併せ持つ。
切り込み隊長を務める徳留 魁人(2年)は上背のある左打者。大阪桐蔭戦でも第1打席の初球をライト前ヒットにしたように積極性が持ち味で1番打者ながらじっくり球筋を見てということはしない。一度は1年秋にレギュラーをつかんだ黒子役・井川 翔(2年)が攻守に渋い働きでチームを支え、5番を打つ松岡 立城(2年)は誰よりも練習熱心で飛距離は馬越以上。
試合中に右太ももの肉離れを起こしたキャプテン・今谷 真一郎(2年)がベンチを温める間に代わってレフトに入った山口 竜輝(2年)が台頭。新チーム結成直後はスタメンのほとんどを1年生が占めるかと思われたが、上級生の意地を見せ2年生が奮起。キャプテンがスタメン落ちの危機に瀕するほどチームは成長している。
スタンドでも「自分達も楽しく保護者といっしょに盛り上がってメンバーを後押し出来る応援を目指してやってます。周りの人が見てて楽しいと思える応援を」と仲松 秀大(2年)を中心にノリの良い応援がグラウンド、ベンチと一体となって戦う。
[page_break:見えない力に後押しされ甲子園での初得点、初勝利を誓う]見えない力に後押しされ甲子園での初得点、初勝利を誓うリストのトレーニンングの様子(滋賀学園高等学校)
早朝から夜遅くまで馬越と共にずっと練習していたのが山田 偉琉(2年)。現在はケガもあってベンチを外れているが、今夏の北大津戦では1点を追う15回裏、二死三塁から気迫のヘッドスライディングで同点となる適時内野安打をもぎ取りチームを救った。そのさらに前、やはり1点を追う9回裏には沖縄からの道を切り開いた添盛がタイムリーで試合を振り出しに戻している。
秋の近畿大会でも、滋賀県3位通過のため初戦は1位校である大阪商大堺との対戦となったが、エースと4番が活躍しチームに勢いをもたらすと、次戦で報徳学園・主島の球筋を打席で見ていたため、その後に対戦した龍谷大平安の市岡 奏馬(2年)、大阪桐蔭の高山 優希(2年)の両左腕に対しても落ち着いて挑むことが出来た。
要所要所で見えない力に後押しされる野球部の創部は1999年、元々は女子校だったが校名変更、共学化に合わせて創設された。それから10年後の2009年夏に甲子園初出場を果たしており、春の選抜出場は来春が初めて。現チームは甲子園初出場のチームと比べて「力量ははるかに上。チームの落ち着いた雰囲気はそっくり」というのが山口監督の見た印象。
初めて聖地の土を踏んだ2009年夏は、初戦で智辯和歌山と対戦し、後に中日からドラフト1位指名を受ける岡田 俊哉に2安打完封負け。全国の高い壁に跳ね返された。甲子園ではまだ校歌を響かせるどころかホームベースを踏むことも出来ていない。近畿で2つ勝つ、が合言葉だったチームの目標はすでに「甲子園での初得点と初勝利」に上方修正されている。まだまだ歴史の浅い新興勢力だが、今後永きに渡る栄光の歴史を築くべく甲子園で新たな一歩を刻む。
(取材・文=小中 翔太)
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