【大会特別コラム】謙虚に一歩ずつ前進する全国屈指の名門校・大阪桐蔭
強さだけではなく、注目度も全国屈指の名門・大阪桐蔭。今年の戦いぶり、そして来年へ向けての課題に迫った。
周囲を圧倒する動きを見せても、指揮官が求めるハードルには達していない永廣 知紀(大阪桐蔭)
シートノックでは洗練された動きで圧倒。そして打撃では次々と長打を連発。攻守において高いレベルに到達している今年の大阪桐蔭。だが西谷 浩一監督がこのチームに対して、褒めるような言葉は一切発しない。勝っても、「まだこのままでは勝てません、ここまで来たのが不思議なくらいですから」と手厳しいコメントだ。
ピンチを抑えても、「その過程がダメ。打撃力が良いチームならばもっと点を取られてもおかしくない」と抑えたことを褒めるのではなく、ピンチを作ったことを指摘する。また昨年からレギュラーで出場している二塁手・永廣 知紀、三塁手・吉澤 一翔、遊撃手・中山 遥斗に対しては「守備は歴代の選手と比べれば下手な方ですよ」。これほど厳しい言葉を投げかけるのは、すべて全国制覇を基本目標に置いているため。「だから僕は選手に求めるハードルはかなり高いですね。そのハードルを乗り越えないと全国制覇はないですから」
2014年夏、4度目の夏の甲子園全国制覇を果たした大阪桐蔭。過去10年の中で夏優勝を3回果たしている。その3度の甲子園優勝に導いたのが西谷監督。優勝できるチームがどんなチームなのかというのを知っている。だからこそ厳しくなるのだ。
今年は夏の甲子園出場を逃し、そこからスタートしたナイン。夏休みの練習中では、「強い打球を打つ」ことを求め、練習を重ねてきた。秋の大会の勝ち上がりを見ると圧巻だ。1回戦〜5回戦までの5試合はそれぞれ10得点以上。そして準決勝では宿敵・履正社と対戦し、最速148キロ左腕・寺島 成輝から2点を奪い、そしてエースの高山 優希が寺島との投げ合いを制し2対1で勝利し、近畿大会出場を決めたのであった。決勝戦では大阪商大堺に5対6で惜しくも敗れたが、近畿大会では1回戦で近江兄弟社に11対1で圧勝すると、準々決勝では智辯学園の好投手・村上 頌樹から9得点を挙げる。
今年の打線の中心は1番中山、2番永廣、3番吉澤、そして186センチ80キロの大型打者・4番三井 健右。この4人がつながったときの破壊力は脅威だった。またこの試合でエース高山は4失点を喫したが、完投勝利。西谷監督は「点差が開いても緩急を使えていて、試合をしっかりとまとめあげてくれた」と評価するコメント。まだ課題は多いと話していたが、一歩ずつ前進していた。
近畿大会準決勝は明石商に5対3で競り勝ち、決勝戦の滋賀学園戦では1年生エース・神村 月光の前に大苦戦。8回まで1対1だったが、9回表に2点を勝ち越し、その裏、高山が1点を失ったものの見事に守りきり、12年ぶりの近畿王者となり久しぶりの神宮大会出場が決まった。この試合の後、西谷監督は、「秋は毎試合勉強。このままでは全国では勝てないと思います。しっかり勉強していきたいと思います」と語ったように、満足する様子はなかった。
全国制覇を遂げたチームと比べると、まだまだ力が及ばないとみていたのであろう。我々からすれば、「やっぱり大阪桐蔭は強いな。打撃、守備もすごい」と思うかもしれないが、自分達はまだまだと思って上達を目指しているのである。大阪桐蔭が継続的に強さを維持できるのは、慢心しないという点が最大の要因ではないだろうか。
[page_break:課題が多く出た明治神宮大会]課題が多く出た明治神宮大会香川 麗爾(大阪桐蔭)
そして迎えた明治神宮大会。初戦の相手は関東大会王者の木更津総合だった。この試合、大阪桐蔭ナインはいきなり苦戦を強いられる。先発の高山が1番峯村 貴希の先頭打者本塁打を浴び、さらに一死満塁のピンチを招いたのだ。結果的にはこのピンチを凌ぎ切ったものの、不安を感じさせる立ち上がりとなった。しかし2回裏、その不安を振り払うかの如く栗林 佑磨が逆転3ランを放ち、この3点を機に、大阪桐蔭は終始優位に試合を進めていき、5対2で勝利を収めた。
だが西谷監督は試合内容について「このままではダメです」と相変わらず厳しいコメント。そして準決勝の高松商戦では先発の岩本 悠生が登板したが、守りのミスが重なり、5回まで5失点。さらに2番手の香川 麗爾も打ち込まれ、1対7まで点差が広がり、あわやコールドと思わせた。だが7回、8回に反撃を開始し、6対7まで追い上げたのはさすがと言うべき攻撃内容だった。そして9回表にはエース高山が登板。
「最後の1イニングなのだから、思い切っていってこい!」と送り出すと、高山は目いっぱい腕を振り、140キロ後半の速球を連発。そして最後は150キロを計測するなど球場の雰囲気を一変させ、6対7で敗れたものの試合後もざわついた雰囲気となっていた。高山はこの試合で150キロを投げられるポテンシャルの高さを示した。そのスピードボールには、高松商ナインも「見たことがないボールでした」と脱帽するだけだった。
西谷監督は選手に対して厳しいコメントを残しながらも、明治神宮大会という全国舞台でハイレベルな舞台を経験したことに収穫を感じている様子だった。木更津総合戦では栗林、高松商戦では松山 心といった下位を打つ選手が本塁打を打ったことについて、「もともと力のある選手たちですから、こういう舞台で打てたことは次につながるでしょう」と評価していた。
準決勝では岩本以外にも、井上 大輔、香川、徳山 壮磨と1年生投手3名が経験できたことも来年につながると収穫に挙げていた。
[page_break:全国制覇するために必要不可欠なピースはエース高山の覚醒]全国制覇するために必要不可欠なピースはエース高山の覚醒高山 優希(大阪桐蔭)
そんな大阪桐蔭の課題は明らかだ。高松商戦では守備ミスによる失点が目立った。西谷監督は「表現が悪いですが、今まではごまかしができていましたが、それが出てしまいましたよね。冬の間に鍛え直します」と守備力の向上をテーマに掲げた。そして高山以外の投手陣も、登板の度に失点を喫していることが多い。秋では経験的な意味合いで登板させることが多かったが、選抜、春、夏ではやはり勝てる投球が求められる。エース高山の負担を軽減するべく、神宮大会準決勝で登板した4投手、またベンチ入りできなかった投手たちの更なる底上げが試される。
来シーズンに向けて、盤石な守備力が築かれればもっと点数は抑えられる。さらに控え投手陣も整備されれば、来春はもっと盤石な戦いを見せられるはず。何より西谷監督をはじめとした首脳陣が厳しくチームを引き締めており、選手たちも今の実力ではまだ勝てないと自覚をしながら戦っている。これほどの強豪がおごらず、謙虚に前進をしているのである。これほど怖いものはない。
また甲子園で優勝するための最後のピースとして、大エースの存在が必要だ。今年の選抜優勝の敦賀気比には平沼 翔太(2015年インタビュー)がいて、選手権優勝の東海大相模には小笠原 慎之介(関連コラム)がいた。この役割を期待されるのは当然、エース・高山だ。現時点での力量、安定感は高校生としてはハイレベルで見ていて安心できる投手だが、春ではもう一段回レベルアップし、高山が出てきたらもう打てないと思わせる投球を見せることが求められる。
そういった意味で高松商戦で見せた剛速球連発の投球は、まさにそんな雰囲気があった。速球で打者を圧倒するピッチングが継続的にできたとき、大阪桐蔭の甲子園優勝はかなり近づいてくるのではないだろうか。
(文=河嶋 宗一)
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