竹井聖寿被告の裁判員裁判が行われた千葉地裁(写真/掬茶)

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 千葉県柏市で2014年3月3日の夜に発生した、連続通り魔事件。この翌々日に逮捕されたのは近所に一人暮らしをしていた無職、竹井聖寿被告(25)であった。捜査員から任意同行を求められた際、チェスの“詰み”を意味する「チェックメイト」とつぶやいたことや、連行される際に「ヤフーチャット万歳」と叫んだことなどが当時大きく報じられている。そんな竹井被告に対する裁判員裁判が5月27日から千葉地裁でスタートした。

 逮捕当時はテンションの高さ注目を浴びていたが竹井被告であったが、この日の201号法廷には、黒いスーツを着用し、背中をまるめてうつむきながら、おとなしく現れた。髪の毛はマッシュルームカットが伸びたようになり、藤岡弘を彷彿とさせる長くてカールしたもみあげが印象的だ。罪状認否でもテンション高く何か言い出すのではと思いきや「(起訴状に)間違いはありません」とすべて認めた。

 起訴状によれば竹井被告は事件の日、通行人から金品を強奪しようと目論み、刃渡り21.9センチメートルのシースナイフ(さや入りのナイフ)、手錠2つ、催涙スプレーを持ち、帽子にマスク、サングラスという変装をして外へ出た。当時住んでいた自宅アパート近くの路上で、自転車に乗った男性Aさん(25)にナイフを示しながら金品を奪おうとしたが、逃げられてしまう。このときAさんはナイフを手で掴んだため全治2週間のケガを負った。

 その直後、通りかかった池間博也さん(31)に対し殺意を持って頸部や背部を複数回ナイフで刺して殺害。現金1万数千円が入ったバッグを奪った。さらに車に乗っているBさん(44)からも金品を強奪しようと車を停めさせナイフの刃先を向けながら「いま、人を一人殺してきた。降りろ、カネを払え」と告げ、現金3300円程度が入った財布を奪う。

 これでもまだ終わらない。池間さんを救助するため、運転していた車を降りて駆け寄ったCさん(47)の車を奪おうと、運転席に乗り込み発進しようとした。これに気づいて車に戻ったCさんに対して「うおー!」と叫び声を上げながらナイフを向け脅迫。ゴルフクラブなどが積まれた車をそのまま奪って逃走した。

 以上、Aさんに対する強盗致傷、池間さんに対する強盗殺人、Cさん、Dさんに対する強盗で起訴されているほか、逮捕時の捜索で竹井被告の自宅アパートから大麻0.197グラムが発見されたという大麻取締法違反でも起訴されている。逃走後はコンビニに車を乗り捨てラブホテルに一泊し、血の付いた衣類やナイフをホテルの枕カバーに入れて隠し、これを持ってタクシーで自宅アパートに戻ったという。

統合失調症で責任能力が減退

 被告は起訴事実をすべて認めてはいるが、弁護側冒頭陳述では“責任能力に問題アリ”の主張が繰り出された。

「竹井さんには刑罰を受ける責任があります。しかし竹井さんが犯行に及んだのは統合失調症にかかっていた背景がありました。当時統合失調症の影響で、自分の犯した行為が悪いか判断できる能力と、行動を思いとどまる能力が、著しく減退していたとまでは言わないものの、ある程度減退していたのです」(弁護側冒頭陳述)

 その上で、一連の強盗や強盗殺人などが、「テロ行為」のための準備だったとも主張。

「犯行に及んだ動機は2つあります。ひとつは生活費のほか、バスジャックののちハイジャックをしてスカイツリーに突っ込むための準備資金にすること。もうひとつはネットに依存していた生活のため、チャット仲間に存在を誇示するため、何か大きな事を今やらなければ、と思ったんです。幼少期から竹井さんは人間関係を築くことが上手くなく、中学校のころは友人がいませんでした。自身の存在を示し、寂しさを打ち消せるのがインターネット空間でした…」(同)

 だが、「ネット仲間にハイジャックの話をすることで注目を集めようとしたのに、かえってチャット仲間から浮いた存在に」(同)なってしまったことから、仲間から冷遇されることを恐れて犯行に及んだ、というのである。

 一方、検察側冒頭陳述からは、竹井被告の当時の経済事情が明らかに。

「事件の1年前から現場近くのアパートで一人暮らしを始めましたが、まもなく生活保護を受給するようになりました。事件の半月ほど前にはネットのチャット仲間であり親しい間柄の『ロクモンセン六問銭』にウソの儲け話を持ちかけ65万を受け取りました。しかし、この金を被告は刺青代などに次々と使い、2月末には生活保護費11万を受け取ったものの、事件当時には所持金が1万数千円になっていました」(検察側冒頭陳述)

 荒唐無稽なテロ計画を強盗で得たお金で実現させようとしていた竹井被告は責任能力に問題があるのだ……という弁護側の主張に対し、あくまでも金欲しさのための犯行である、というのが検察側の主張である。弁護側の言い分によれば竹井被告は友人が少なかったという。しかし数少ない大事な友人であるはずの六問銭から65万円もだまし取っているのだから、竹井被告自身が友人を軽く見ているのではないか。そりゃ友人たちも距離を置きたくはなるだろう。

 初公判の午後には、最初の強盗の被害者Aさんが証人出廷した。

「自転車を走らせていたら前方から呼ぶ声がするので近くで停まると、ナイフをこちらに向けてきた。『殺すよ』と言っていたと思う。金かと思い『お金ですか』と言うと『それもそうだけど、こっちに来てくれ』と言われた。ついていくと本当に殺されると思ったので、ナイフを手で持って払って、自転車で逃げました。ナイフを投げられるのではと思い、まっすぐに走らず、ジグザグに走らせて柏警察に行きました」(Aさん)

 竹井被告の逮捕まで「犯人が捕まってないので狙われるんじゃないかと思い、家から出られなかった」というAさん。こうした告白を、竹井被告は無表情で微動だにせず聞いていた。  
 判決で検察側、弁護側、どちらの主張が受け入れられるのか。引き続き公判を追ってゆく。

著者プロフィール

ライター

高橋ユキ

福岡県生まれ。2005年、女性4人の裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。著作『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)などを発表。近著に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)