「社員が健康になれば業績が伸びる」新ダイエットアプリを仕掛けるベンチャー企業のビジネス戦略
派手な広告展開が目を引くライザップを皮切りに、今やどこのスポーツジムもマンツーマン指導が花盛りだ。実際にやせるのであれば、数十万円を支払っても惜しくないという中高年が多いということだろう。
そうした中で、独自の健康管理ノウハウで注目されている企業がある。FiNCは2012年設立のまだ若い会社だ。扱う商材は健康。スマートフォンを使って、健康管理を行うサービスを展開、急速に業績を向上させている。
代表取締役副社長CFO・乗松文夫氏によると、同社の事業は元々は糖尿病の予防プログラムからスタートしたのだという。
「バランスのとれた食事をすることで、体が健康になり、体重も減る。当初は遺伝子解析や血液検査、生活習慣のアンケートでお客様の健康状態を解析し、それに応じた食事のメニューを考えるということをやっておりました」
ベンチャー企業らしく、FiNCも入り口には社員の目標が書かれている
そこからスマートフォンを使ったダイエット管理サービス『FiNCダイエット家庭教師』を開始する。
「60日間、パーソライズされたサポートを受けることができます。私たちのサービスの特徴は、1対1で、その人に合わせた指導を行っています。血液検査や遺伝子検査、生活習慣の徹底的なアンケートに基づいて行うので、効果的です。当然、指導員も大量に必要となるため、クラウドソーシングで栄養士やトレーナーなどの専門家を集めています。ヘルスケア関連業務を受発注するプラットフォーム『FiNCオンラインワークス』を通じて、指導者として活躍してもらっています」
遺伝子検査は口腔内粘膜を綿棒で取り、検査機関に送るだけ。肥満遺伝子の強度が判明する
ダイエットの基本は食事の管理だ。通常、スマートフォンのダイエットアプリは食事の内容を選択項目から選び、カロリーの自動計算をして目標値からオーバーしていないかどうかをチェックする。ただこのやり方では、入力が面倒な割にカロリー量は大雑把にしかわからず、食事内容のアドバイスもない。
「スマホで食事の写真をパチッと撮って送れば、それを専門家が見て判断してアドバイスをします。手間暇がかからない」
食事を写メして送ると、トレーナーから栄養の指導をされる
生活習慣の見直しもポイント制でわかりやすく管理
過度な食事制限や運動がないのも特徴だ。
「絶食に近いような食事制限やめちゃくちゃな筋トレのようなプログラムをやってらっしゃる他社さんもありますが、私どもでは運動は補完的なもので、食事の量・バランスと生活習慣の改善ですね」
現在、同社は個人から企業向けのプログラムに軸足を移しつつある。
「従業員が健康になることで、業務効率が上がり、業績も伸びるんですね。日本で社員の健康管理というとまだ会社のイメージアップとしてしか捉えていない会社が多いんですが、アメリカでは1ドルの健康投資が3ドルになってリターンするという企業のデータが出ています」
各個人に350項目のアンケートを行い、それを集計、分析することで部署ごとの健康状態を把握、生活習慣の改善を促す。
「運動習慣がない人が5人にひとりいますね、病気による欠勤早退で何十時間のロスが出ていますね、首肩こりの不調のある人で仕事に影響している人が何%いますね、といったことが集計できます。それをスコアで評価して部署間のランキングをつけ、私どもでメニューを作成します」
こうした分析を行うと、部署ごとの業績と従業員の健康状態との相関関係が明確になるのだそうだ。
「業績のいい部署はみんな健康的な生活をしていますね。健康や気力は業績に関係しますよ」
FiNCのプログラムでは、60日間、およそ2カ月で平均6.3?も減量するのだそうだ。66才の乗松氏もプログラムの体験者だ。
「私もこのプログラムを2カ月でちょうど5kgやせました。血液の数値も良くなり、それまで飲んでいた血圧降下剤もコレステロールを減らす薬もいらなくなりました」
特別なことはせず、食事の量と質をいくらか見直し、食べる順番を野菜→肉→炭水化物に変えたぐらいだという。
ぐうたらしているとあっという間に時間は過ぎる。ちょっとした生活習慣の見直しで健康にやせられるなら、それに越したことはない。FiNCには食品系企業などから協業の申し出が絶えない。注目の健康ベンチャーなのだ。
(取材・文/川口友万)
乗松文夫(のりまつ・ふみお)1949年生まれ。株式会社FiNC代表取締役副社長。株式会社みずほ銀行 常務執行役員(営業部門担当)を退任後、協和発酵フーズ株式会社 社長(現MCフードスペシャリティーズ株式会社、協和発酵キリン株式会社 常務執行役員(物流・購買部門担当)、ミヤコ化学株式会社 社長、社会システムデザイン株式会社 副社長などを歴任し、長年幅広い企業経営に携わっている。