跡田直澄『郵貯消滅』
「郵貯」「消滅」という字が大きく躍る表紙は衝撃的だが、郵貯が消滅しなければ「日本国家そのものが潰(つぶ)れそう」という中身の議論は、さらに衝撃的である。

 一般人からすると、郵政民営化の必要性はわかりにくい。それ以上に不安すらある。郵便は、郵貯は、簡保は、どうなるのか?これに対して、本書は明確に言い切る。「郵便物は従来どおりにポストに投入すれば配達される」「すでに預けてある郵便貯金は満期まで全額保護される」「すでに掛けている簡保も契約どおりに満期がきたら年金の支払いを始めるし、現在年金を受け取っている人も、死ぬまで受け取りつづけることが出来る」

 では、なぜ郵政民営化なのか。それは現状の郵貯や簡保を廃止しなければ、遅くとも6年後、はやければ3年後には日本国家が破産してしまうから、とある。本書によれば、国家が破産したとき、「路頭に迷って、一家心中や強盗殺人という修羅場が巷にあふれるということになるかもしれない」。

 それでは、なぜ郵貯や簡保を廃止しなければ、日本国家が破産するのか。本書はこの問いに対して丁寧に答えていく。簡単に言えば、国民がせっせと郵便局に預け、そのお金を国家がじゃぶじゃぶ借りて使っていた、そして、「郵貯・簡保の膨張」が「国際の膨張」を引き起こし、いよいよたちゆかなくなった、ということである。さらに、国民が受け取っていた郵貯の高い利子は、実は、国民が払っていた税金だったということも本書で明らかにされる。つまり、郵貯というシステムによって、国民は国家によって完全に騙(だま)されていたわけである。
 
 郵政民営化の本当の目的を正しく知り、国家に騙されていた現実から目を覚ましたい人にお薦めする良書である。(PHP研究所、2005年5月刊、1365円)