遺伝子変異でトキソプラズマ原虫は抗原虫薬候補の耐性を獲得する -東大など
帯広畜産大学および東京大学は、5月29日、トキソプラズマ症の新規薬剤候補として期待される「こぶつきキナーゼ阻害剤」への耐性変異が、トキソプラズマ原虫の「TgMAPK1遺伝子」上に起こることを発見したと発表した。
同成果は、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程4年の杉達紀氏(日本学術振興会 特別研究員、帯広畜産大学 特別研究学生)、東大医科学研究所 感染・免疫部門 宿主寄生体学分野の小林郷介 助教(日本学術振興会 特別研究員:当時)、帯広畜産大学 原虫病研究センターの竹前等 特任研究員(東大大学院農学生命科学研究科 特任研究員:当時)、東大大学院農学生命科学研究科のゴン海燕 特任研究員(当時)、帯広畜産大学 原虫病研究センターの石和玲子 特任研究員(東京大学大学院農学生命科学研究科 特任研究員:当時)、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程3年の村越ふみ氏(日本学術振興会 特別研究員)、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程4年のFrances C. Recuenco氏、東大農学部 獣医学課程 学部6年の岩永達也氏(当時)、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の堀本泰介 准教授、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の明石博臣 特任教授、帯広畜産大学 原虫病研究センターの加藤健太郎 特任准教授(東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 准教授(委嘱))らによるもの。成果の詳細は「International Journal for Parasitology: Drugs and Drug Resistance」に掲載された。
トキソプラズマ原虫はトキソプラズマ症の病原原虫であり、ワクチンや潜伏感染に至った原虫を排除する特効薬は存在しない。そのため、トキソプラズマ症が起こる免疫抑制状態になった場合には、原虫の排除ができないため、予防的に薬剤を長期にわたって使用する必要があるため、原虫特異的な薬剤の開発が求められている。
プロテインキナーゼのATPと結合するポケットの入口にある「門番アミノ酸」の種類によって大きく感受性を変化させる阻害剤である「こぶつきキナーゼ阻害剤」は、これまでの研究から哺乳類のプロテインキナーゼには効果が少ないこと、ならびにトキソプラズマ原虫には影響を受けるプロテインキナーゼがあることが判明しているため、トキソプラズマ原虫に対して特異性高く増殖を阻害する新規薬剤候補として期待されている。
しかし、実際に薬剤としての可能性を評価するうえで、薬剤耐性が病原体に獲得されるのか、それはどのような仕組みで起こるのかについて知ることが重要であることから、今回、研究グループではトキソプラズマ原虫による”こぶつきキナーゼ阻害剤”への薬剤耐性が起こりうるのか、また、それがどのような変異によって、どのような仕組みで起こるのかについての研究を行った。
研究の結果、無作為突然変異を入れたトキソプラズマ原虫の中から薬剤に対して抵抗性の原虫株が得られたという。そこで、変異している箇所を見つけることを目的に、もとになっているトキソプラズマ原虫株と薬剤耐性株のゲノム配列を比較したところ、アミノ酸変異が耐性株の「Toxoplasma gondii Mitogen-activated kinase 1(TgMAPK1)遺伝子」に発見されたという。
さらに、その変異が原虫の薬剤耐性につながっていることを確かめるために、機能的な形でのTgMAPK1遺伝子を単離し、耐性株で見られた変異をいれてトキソプラズマ原虫の中で発現させたところ、薬剤耐性が獲得されることが確認されたほか、単離された機能的TgMAPK1遺伝子は、他の生物種のMAPK遺伝子ファミリーには見られない巨大な機能未知の配列が後半部分についていることが判明したという。
これまでの研究から、トキソプラズマ原虫には真核生物に保存されているMAPKを活性化する上流のシグナル遺伝子が欠如していることが報告され、トキソプラズマ原虫独自の制御を受けていることが示唆されていたが、今回結果は、それを裏付ける結果となったと研究グループでは説明する。
なお、研究グループは、今回の成果について、こぶつきキナーゼ阻害剤がトキソプラズマ特異的に作用する薬剤として開発が進められている中で、将来における耐性原虫の出現の予測と対策に対する知見を与えるものとなること、ならびに、さらなる予想外の耐性獲得変異の探索の重要性を示すものとなるとコメントしており、将来における耐性のできにくい薬剤開発につながることが期待されるとしている。
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同成果は、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程4年の杉達紀氏(日本学術振興会 特別研究員、帯広畜産大学 特別研究学生)、東大医科学研究所 感染・免疫部門 宿主寄生体学分野の小林郷介 助教(日本学術振興会 特別研究員:当時)、帯広畜産大学 原虫病研究センターの竹前等 特任研究員(東大大学院農学生命科学研究科 特任研究員:当時)、東大大学院農学生命科学研究科のゴン海燕 特任研究員(当時)、帯広畜産大学 原虫病研究センターの石和玲子 特任研究員(東京大学大学院農学生命科学研究科 特任研究員:当時)、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程3年の村越ふみ氏(日本学術振興会 特別研究員)、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程4年のFrances C. Recuenco氏、東大農学部 獣医学課程 学部6年の岩永達也氏(当時)、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の堀本泰介 准教授、東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の明石博臣 特任教授、帯広畜産大学 原虫病研究センターの加藤健太郎 特任准教授(東大大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 准教授(委嘱))らによるもの。成果の詳細は「International Journal for Parasitology: Drugs and Drug Resistance」に掲載された。
プロテインキナーゼのATPと結合するポケットの入口にある「門番アミノ酸」の種類によって大きく感受性を変化させる阻害剤である「こぶつきキナーゼ阻害剤」は、これまでの研究から哺乳類のプロテインキナーゼには効果が少ないこと、ならびにトキソプラズマ原虫には影響を受けるプロテインキナーゼがあることが判明しているため、トキソプラズマ原虫に対して特異性高く増殖を阻害する新規薬剤候補として期待されている。
しかし、実際に薬剤としての可能性を評価するうえで、薬剤耐性が病原体に獲得されるのか、それはどのような仕組みで起こるのかについて知ることが重要であることから、今回、研究グループではトキソプラズマ原虫による”こぶつきキナーゼ阻害剤”への薬剤耐性が起こりうるのか、また、それがどのような変異によって、どのような仕組みで起こるのかについての研究を行った。
研究の結果、無作為突然変異を入れたトキソプラズマ原虫の中から薬剤に対して抵抗性の原虫株が得られたという。そこで、変異している箇所を見つけることを目的に、もとになっているトキソプラズマ原虫株と薬剤耐性株のゲノム配列を比較したところ、アミノ酸変異が耐性株の「Toxoplasma gondii Mitogen-activated kinase 1(TgMAPK1)遺伝子」に発見されたという。
さらに、その変異が原虫の薬剤耐性につながっていることを確かめるために、機能的な形でのTgMAPK1遺伝子を単離し、耐性株で見られた変異をいれてトキソプラズマ原虫の中で発現させたところ、薬剤耐性が獲得されることが確認されたほか、単離された機能的TgMAPK1遺伝子は、他の生物種のMAPK遺伝子ファミリーには見られない巨大な機能未知の配列が後半部分についていることが判明したという。
これまでの研究から、トキソプラズマ原虫には真核生物に保存されているMAPKを活性化する上流のシグナル遺伝子が欠如していることが報告され、トキソプラズマ原虫独自の制御を受けていることが示唆されていたが、今回結果は、それを裏付ける結果となったと研究グループでは説明する。
なお、研究グループは、今回の成果について、こぶつきキナーゼ阻害剤がトキソプラズマ特異的に作用する薬剤として開発が進められている中で、将来における耐性原虫の出現の予測と対策に対する知見を与えるものとなること、ならびに、さらなる予想外の耐性獲得変異の探索の重要性を示すものとなるとコメントしており、将来における耐性のできにくい薬剤開発につながることが期待されるとしている。
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