ダルビッシュ有にとって、今年は「通用する球」を吟味しながら、独自の配球を組み立てていく作業を繰り返す1年だった。そして、一定の「正解」を見出すことができた。
ダルビッシュのレギュラーシーズンの各試合の投球を、球種別に見てみよう。少し長い表だが、恐らく初公開。
不明他には敬遠(1回だけあった)、ピッチドアウトが含まれる。

Darvish2012-06


デビューのシアトル・マリナーズ=SEA戦のダルビッシュは、4シーム主体で投げていた。まずはオーソドックスに、というところか。しかし、その速球を5安打され自責点5。
ここから模索が始まる。次のミネソタ・ツインズ=MIN戦ではスライダーの比率が増えた。その次のデトロイト・タイガース=DET戦ではカッターが多くなった。試行錯誤が続いたのだ。
4月は4シーム、カッター、スライダーを主体とした組み立て。

5月に入ると、4シームとスライダーを中心にした配球。ここにスプリッター(フォーク)を交えるようになる。

6月に入ると、2シームの比率が増えてくる。ダルの2シームは150km/hを優に超し、威力では4シームと全く変わらない。

7月には、2シームが4シームよりも多くなる。しかし、このころから成績は急落する。実は2シームに各打者が手を出さなくなったのだ。2シームは見送られるとボールになることが多い。また、スライダーもボールになることが多くなり、投げる球が無くなってきたのだ。

8月前半、ダルはどん底。8/6の試合ではスライダーを6本も安打にされた。
8/12のDET戦から、ダルの配球にははっきりした変化が見える。カッターの比率が増えたのだ。

9月に入ると、ダルビッシュは安定したパフォーマンスを見せるようになるが、それはカッターの比率が上がったことと無縁ではないだろう。マリアノ・リベラではないが、カットボーラーのように多投し始めたのだ。スライダーも4シームも減少した。

もう一つ、効果的な使い方をし始めたのがスローカーブ。前半戦では120km/h前後のカーブを時折交えていたが、後半戦からは110km/hに満たないスローカーブをうまく使うようになった。気持ちのゆとりの表れでもあろう。
9月をERA2.21という好成績で終わったダルビッシュ。試行錯誤の果てに使える球と配球を見つけたのだ。

10/5のワイルドカードゲームは、今季のダルの集大成ともいうべき試合だったが、91球の投球のうち43球がカットボール。ここにダルビッシュが出した結論を見ることができる。

なお、ダルビッシュの球種で一番安打を打たれやすいのは、スプリッターだった。恐らくはコマンドの問題だと思う。しっかり落ちないと安打にされるのだ。ダルにとってはこの球はあくまで「目替わり」であり、ウィニングショットではない。



今年のダルビッシュは、3人の捕手に投げた。ナポリ、トレアルバ、ソトである。捕手が変わることで、ダルの成績が大きく変化したことは、すでに紹介したが、配球で見るとどうなるのか。

Darvish2012-07


わかりやすい結果が出た。ナポリは、4シームとスライダーを投げさせ、トレアルバは2シームの比率が高い。そしてソトは、カッターを多く投げさせる。
こう見ると、捕手がダルビッシュの投球を左右していたようにも見える。特に、ナポリがスライダーを多く投げさせたように思えるが、そうではないかもしれない。

昨年のNPBでの試合のデータを1つ出してみる。4Sと2Sを速球としてまとめて記録している。

Darvish2012-08


速球とスライダー主体。こうしてみると、今季のダルの春先の配球は、NPB時代とよく似ているのだ。

推測ではあるが、ダルビッシュは日本と同じスタイルで投球をはじめ、これが通用しないとみると、徐々に配球を変えていったのだろう。
MLBでは、投球の組み立ては投手が主導権を握っていると言われる。もちろん、捕手との話し合いはあっただろうが、あくまで主体的に投球スタイルを変えていったのではないか。

来季、ダルビッシュは確立した配球をキープするのか、変えていくのか、注目して見て行きたい。