消費税の引き上げ法案が、8月にも参議院で可決・成立する見込みとなった。民自公の3党合意の威力だ。
 今回の消費税率引き上げの最大のナゾは、政府試算で、社会保障拡充のためには2兆7000億円しかかからないのに、なぜ消費税5%分、13兆5000億円も増税をしなければならないのかという点だった。このナゾの答えらしきものが見えてきた。

 自民党のホームページに掲載されているコラムに、修正協議で自民党が何をしたのかが記されている。
 「消費税の引き上げに際しては、経済状況を勘案することとし、その判断にあたってはわが党の主張により、法案の景気条項に『成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分するなど、わが国経済の成長に向けた施策を検討する』ことを盛り込みました」。つまり、自民党は消費税の引き上げ前に、防災及び減災を目的に公共事業をどんとん積み増そうとしているのだ。

 民主党と自民党の大きな差の一つが公共事業だった。民主党政権は「コンクリートから人へ」が基本なので、公共事業を抑制する方向で考える。一方、自民党は、景気対策の公共事業が得意技だ。私自身は、いまの時期の公共事業拡大に反対しない。デフレのまま消費税の引き上げを迎えたら、給与減に負担増が重なることでモノが売れなくなり、日本経済が恐慌に陥ってしまうからだ。
 ただし、財源を増税に頼って公共投資を打ってはいけない。景気対策は金融緩和を中心にしなくてはいけないのだ。ギリシャと同じ道を歩んでしまうからだ。
 ギリシャは、景気が低迷する中で、消費税率を'09年の18%から、段階的に23%まで引き上げている。しかし、年率7%ものマイナス成長が止まっていない。金融緩和ができないからだ。もしギリシャが通貨増発に踏み切ることができれば、自国通貨安から輸出の拡大や観光客の増加がもたらされて、経済は回復していく。しかし、ギリシャはユーロに加盟して独自通貨を持たないから、金融緩和ができないのだ。

 それに対して、我が国は独自通貨を持っているのだから、危険な消費税増税に踏み切らなくても、円を増発すればよい。なぜそれができないのか。
 ある国会議員は「金融緩和なんてアメリカが許してくれるはずがないでしょう」と言った。本当にアメリカから圧力が加わっているのかどうかはわからないが、確かに円安はアメリカにとって不利になるし、いまの民主党政権は、アメリカに抵抗できない。その証拠がオスプレイだ。
 沖縄県の仲井真知事は、オスプレイ配備の説明に来た森本防衛大臣に対して、「もしこのまま配備を強行するのであれば、全基地閉鎖を考えざるを得ない」と断言した。にもかかわらず、政府はオスプレイ容認の姿勢を変えていない。これも、対米全面服従路線を採る自民党と同じ戦略なのだ。

 小沢グループの離党によって、民主党は自民党との政策の違いがほとんどなくなってしまった。小沢グルーは、反増税・脱原発を訴えているが、世論調査で小沢グループへの支持は広がっていない。結局、今回の政局は、政治を自民党長期政権時代に巻き戻す効果しか持たなかったことになる。野田総理大臣を一番高く評価しているのは、官僚と官僚主導政治をやってきた自民党だろう。