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 両チームの置かれた状況を整理する。初戦に勝ったドイツ対負けたオランダという構図である。つまり、オランダはここで負けたらほぼ終了。ドイツはさっさとグループリーグ突破を確定させたい状況。なので、注目は絶対に負けられないオランダがどのような手をうってくるかということにある。まあ、何もしてこなかったんだけど。

 ■守備の差

 両チーム共に、できればボールを保持したいチームである。どちらかというと、オランダのほうがそのこだわりが強い印象がある。ボールを保持することで、守備の弱点を隠したいからだ。逆に、ドイツはボールを保持できないなら保持できないで、守備をセットすればいいだけのお話、、というくらいの戦術的な幅を持ち合わせている。

 共通して言えることは、両チームともビルドアップで相手にボールを奪われるような失態はしないということである。オランダは最初からドイルのCBからボールを奪えるという前提でチームを組んでいなかった。もともとそういうようにチームを組めないという事情もあるかもしれないが。

 対するドイツは、高い位置からプレスをかけ続けることで、ボールを奪えるという前提でチームを組んでいた。または、相手の攻撃の精度を下げることで、オランダのスペシャルな前線にいい形でボールを入れさせないようにと。初戦の試合でも、ドイツは高い位置からの守備をしていたので、これがデフォルトの形なんだと思う。

 しかし、20分過ぎになると、ドイツは守備の形をマイナーチェンジする。4-4-2で高い位置から守備をしていたのを、4-4-1-1でエジルをCBからデ・ヨングたちにぶつける変更。この変更によって、オランダのCBの選手が試合の組立を行う状況になり、攻撃の精度はどんどん下がることとなった。

 20分までのオランダのビルドアップはなかなかうまくいっていた。初戦でも見られた形だが、デ・ヨングのボールを受ける動きがなかなかグッドである。相手から離れたり、DFラインに加わったりと、壊し屋という面が強調される選手だが、こういう芸当もいつの間にかできるようになったようである。もちろん、ファン・ボメルも同じくCBのボールを引き出していた。

 だから、ドイツはプレスを外されてしまうことが多かった。なので、ボールを奪うよりも、ファン・ボメルたちにボールを入れさせないことを最初に考えて、相手のCBにボールを運ばせることは捨てる作戦に変えたわけである。もっと言えば、誰に試合を作らせるかを誘導したとも言える。デ・ヨングたちをフリーにするよりは、ハイティンハをフリーにしたほうがいいよねというお話。

 では、20分までのオランダの攻撃について見てみる。いい形はファン・ペルシーが裏へ飛び出した場面くらいしか記憶にない。相手のプレスは外せていたのに、これはどうなんだろうという気持ちになる。オランダの問題として、ファン・ボメルとデ・ヨングが試合を作れないとあるが、試合を見る限り、特筆すべき問題があるようには見えなかった。

 どちらかというと、スペシャルな前線にある。ボールを引き出す動きがまるでない。ボールを受けても特攻を繰り返すのみである。特に、チームメイトが相手にたくさんいるロッベンは、そろそろスタメンから外れてもおかしくない暴走を見せていた。ただし、チームの構造としても、SBの攻撃参加が自重されているようにも見えるし、ファン・ボメルが謎の攻撃参加でスナイデルの持ち場を消すという問題も見えるんだけど。

 ドイツに目を移すと、こちらは好き勝手にボールを運んでいた。オランダの前線の選手はただそこにいるだけの守備しかしないので、ボールと人を動かしながらスペースを見つけていくドイツ。一度だけだが、ケディラとシュバインシュタイガーの両方が相手のバイタルエリアでCBからボールを引き出そうとする場面があった。それくらいビルドアップの局面では余裕があったということである。

 オランダは前線の選手が戻ってこないので、ファン・ボメルとデ・ヨングは大忙しであった。高い位置から誰もプレスにいかないので、ファン・ボメルがロッベンを追い越して相手にプレスをかけると、ファン・ボメルのあけたスペースを誰もカバーしなかった。この仕組みをドイツに狙われたフシがある。つまり、DHがカバーリングや守備の負担で持ち場を離れた時に誰もカバーしてくれない問題。

 前半に2失点したオランダだが、両方ともかなり似通った崩され方であった。1失点目は相手に右サイドからの崩しにデ・ヨングとファン・ボメルがサイドにスライドして対応するが、誰もファン・ボメルの開けたスペースを埋めないので、その位置を相手に使われる。2失点目はファン・ボメルが今度はスライドしなかったら、そのスペースを使われて終わった。

 ファン・ボメルが悪いのかというと、チーム設計に問題がある。二人のDHでピッチの横幅をカバーするのは無茶がある。さらに、SHがろくに守備をしないので、ただでさえサイドのカバーリングもしないといけないDHコンビ。この状況でさらに試合を作れないと文句も言われたらやってられないだろう。もちろん、サイドを捨てて、バイタルエリアから中央の位置で相手の待つという選択もある。

 ただ、監督からすれば、守備的な選手を同時起用しているんだから、何とかしろということなのかもしれない。でも物理的に枚数が足りないので、どうしようもない。ちなみに、ポルトガルはこの位置を3センターとナニのヘルプでバイタルを開けないようにしっかりカバーリングしていた。

 こうなると、カイト待望論が起きるのも無理はない。彼なら間違い無くカバーリングをしてくれたはずであるし、相手の攻撃の侵入を止めてくれる場面もあったと思う。というわけで、時間の流れとともに、試合の流れは完全にドイツに傾き、さらに結果も出て、オランダからすると絶望的な前半が終わりを告げる。

 後半の頭から、オランダはファン・ボメル→ファン・デル・ファールト、sフェライ→フンテラールで攻撃的な采配をとる。なお、アフェライの位置にはファン・ペルシーが移動し、ファン・デル・ファールトはそのままファン・ボメルの位置に移動した。

 前半に比べると、オランダはエリア内に侵入する場面は増えたけれども、ノイアーを焦らせる場面はやはり単発。ファン・ペルシーのボレーくらいかな。エリア内に侵入できるようになった理由もドイツがそこまで攻撃に熱心でなくなった→相手の攻撃の精度が下がったことで、思い切った攻撃参加ができるようになったというのが大きい。

 特に左SBのヴィレムスは果敢な攻撃参加を見せる。また、ファン・デル・ファールトも少しは存在感を示した。前線に上がったときのファン・ボメルと比べると、やはり差がある。

 ドイツはボールを保持することを強めにして試合を最初からクローズさせにかかる。無理矢理に攻撃する必要もないし、攻撃に枚数をかけてカウンターをくらうのも馬鹿らしいよねと。なので、前半のような攻撃はなりをひそめ、その代わりにボールを保持することで相手の攻撃機会を削っていくドイツであった。

 守備の枚数が足りない!!なんて場面も少ないので、オランダの攻撃陣に対してしっかり対応することが出来た。失点を許した場面はファン・ペルシーの弾丸シュートが炸裂したわけだけど、あのようなボール運びを再現する雰囲気がまるでないのがオランダは切ないところ。最後には4-4-2で前線の枚数を増やしたけれど、問題はそこじゃないということで、最後までドイツの試合のペースを握られて終了。ロスタイムの時間の潰し方が両チームの差なんじゃないかなと思うような試合になってしまった。

 ■独り言

 南アフリカワールドカップの頃に比べると、後方から作れるようになっているんだけど、良くも悪くも前線の選手の個人技爆発待ちみたいなところがあって、さらに守備も熱心でないとすると、ちょっとチーム作りとして厳しいかなと。レアル・マドリーくらいに後方の選手だけで守備を固めれば状況は違うんだろうけどね。

 ドイツはえぐい。今までより、マリオ・ゴメスが幅広く動くようになっていてびびった。ポドルスキーが元気ないのが気にかかるけれど、全体として攻守に完成度が高い。無理をするしないの判断も試合ごとにしっかり行なっているので、先制点を許してしまう展開の試合が来てほしい。そうすれば、エンジン全開のドイツが見られるだろう。