麻也のゴールじゃない!みんなのゴールだ!

ついにその一歩を刻んだザックJAPANブラジルへの道、2年以上に及ぶ長いアジア予選。3次予選の相手はウズベキスタン、タジキスタン、北朝鮮。このグループで上位2位に入れば最終予選進出が決まる仕組みです。顔ぶれを見れば日本にとっては決して難しい戦いではありません。しかし、実力や実績だけでは決まらない、相手も何かを起こそうと死力を尽くすのが予選。そのことを再確認させるように、初戦・北朝鮮戦も非常に厳しいものとなりました。

後半アディショナルタイムに入ってもなお0-0。相手はエースのチョン・テセを下げ完全に引き分け狙いの体制。日本が放つ雨アラレ、いや台風の大雨のようなシュートの嵐。しかし、そのシュートは相手GKの堅守に阻まれ、クロスバーに阻まれ、日本が自ら枠外に打ち上げゴールに届くことはありません。押しまくった内容に対して、結果だけがそぐわない…そんな結末を予感した人もいたことでしょう。

しかし、日本は決めた。後半49分、右のショートコーナーから乾坤一擲のヘッドを叩き込んだのは吉田麻也。溜まっていたマグマが弾けるように、爆発するスタジアムの興奮。その瞬間、僕はこんなことを考えていました。これは吉田のゴールではない、みんなのゴールだと。それまでの攻撃で相手に与えたダメージ、味方の送る精度の高いクロス、長身のハーフナー・マイクを抑えることに意識を削がれ吉田まで手が回らない相手の守備、そして5万人の拍手と声と圧力。日本の勝利を諦めない力があの1点を搾り取ったように思うのです。

そして、何よりも拭い去れない「吉田じゃないだろう」という思い。本田△・長友らの離脱もあり、若干手薄になった陣容。にしても、吉田じゃないだろうと。吉田に期待されるのは、守ればオウンゴール、攻めればレッドカード、イキイキするのは試合後のブログ更新。日本を代表する右SBのおつきとして、荷物を運んだり、ご飯を作ったりする姿にこそ、吉田本来の魅力があるはず。それが日本の救世主とか、神様・仏様・マヤの神様なんて持ち上げられるのは、どうにもおさまりがよくありません。

「残り1分ザック救った 麻也Vヘッド」「劇弾!日本W杯へ辛勝発進 ロスタイムの麻也」「ロスタイムまたザック救った吉田Vヘッド」「ロスタイムV弾 麻也だぁ〜」などと激賞する新聞各紙。アジアカップ・ヨルダン戦でもロスタイム同点ヘッドがあったことを考えれば、本人もそろそろ「ロスタイムに強い奇跡の男です」なんて考え始める頃。ここはぜひ、そうした浮ついた気持ちを抑え「吉田は最後にボールが当たった人」という認識でいきたいもの。

FIFA公式サイトでも当初、得点者を「Michihiro YASUDA」 としていたように、誰が得点したかなんてことは「オランダ在住の日本人Y●S●DA」程度のザックリとした認識で十分。あれは全員のチカラ、全員で奪ったゴール。たまたま最後に吉田麻也の頭に反射しただけの「みんなのゴール」だと、僕は思うのです。吉田さんのことは忘れて、次戦もまた全員のチカラで勝利をつかんでいきたいものですね。

ということで、苦しい戦いを全員のチカラで制した「ワールドカップ・アジア3次予選 日本VS北朝鮮戦」をチェックしていきましょう。



◆吉田さんが調子に乗るので、あまりエサをやりすぎないでください!

降りしきる雨。台風こそそれたものの、大粒の雨が濡らすスタジアム。それでも集まった大観衆は、雨をものともしません。むしろ熱気で火照る身体を冷やすのにちょうどいいとでもいうように、雨を受けながら大声援を送ります。

そんな雨がまたひとつ明らかにしたのは、日本を率い、初のワールドカップ予選に挑むザックの智将ぶり。雨が激しくなった時間、ザックはどこから出したか帽子を着用。あのフワッとした髪型を雨から守るため、ザックは鉄壁の守備を頭に敷いていたのです。あらゆる状況を想定したザックの備えに、お茶の間の信頼感も一層増していきます。

そんな雨中の試合。日本は長友を欠く左SBに駒野を、本田△を欠く中央に柏木を起用。この日限定着用となる「アジア王者」のゴールドカラー入りユニフォームを身にまとい、いつもの4-2-3-1で勝利を狙います。一方、北朝鮮はチョン・テセ、アン・ヨンハ、リャン・ヨンギら日本でもおなじみの選手が名を連ねた編成。攻撃は基本的にチョン・テセ頼りで、意識は守備に比重を置いてきます。日本がボールを持てば、すかさず10人が自陣に帰ってゴール前を固め、引き分けでもヨシという狙い。

攻勢を仕掛けるもフィニッシュの精度を欠いたこの日の日本。前半21分には柏木がクロスバーを叩くシュート(その前にオフサイド)、前半24分には柏木がこの日初のシュートをゴール上へふかし、前半26分の内田のシュートは気持ちよく空に舞い上がり、前半32分の李のヘッドはGK正面をつき、前半33分の香川のシュートを枠をとらえられず。ついには前半46分、相手ゴール前でこぼれてきたラッキーチャンスも、柏木が天高く打ち上げてフイに。シュート以外は相手を圧倒していただけに、勿体ない前半となります。

↓前半0-0の展開にはザックも苛立ちを隠せない!


どうでもいいけど、ヘアゴムといい顔といい運動量といい、柏木はなでしこの川澄ちゃんにソックリだな…。

選手としての格やここ一番の決定力を考えて、男・川澄ちゃんと呼ぼう…。

後半に入っても変わらない日本の攻勢。キャプテン長谷部が「点を取るぞ」という意気込みを示すオープニングシュートを放ち口火を切ります。後半5分にはスーパーマンのように勢いよく飛び込む岡崎のダイビングヘッド。後半10分には相手エリア内で「今野が吉田に頭突き」をかましたところ、何故か北朝鮮のリ・グァンチョンにイエローカードが出る珍プレーなどで、徐々に試合が盛り上がっていきます。

後半15分に男・川澄ちゃんに代えて清武を投入し、後半25分には李を下げてハーフナー・マイクを投入した日本。代わった2選手はチームを活性化させ、後半19分の清武のシュート、後半29分のクロスバーを叩くハーフナー・マイクのシュートなどチャンスを生み出していきます。特にハーフナー・マイクは、お茶の間のオジサン・オバサンたちに「この人ハーフなの?」「え、ハーフじゃないの!」「清々しいほどの外国人ですね…」という強い衝撃を与え、A代表デビュー戦としては十分すぎる存在感を示しました。

そして試合の流れを大きく変えたのが後半38分のプレー。こぼれ球を遠藤とパク・クァンリョンが奪い合った場面のこと。パクのスパイクの裏を見せたスライディングが危険と見なされ、何と一発退場に。実況や解説も「顔に入った!」「顔に入りました!」と連呼する危険なプレーで、北朝鮮は10人になってしまったのです。

↓よく見ると顔には入っていませんが危険なプレーです!


実況:「(この顔は…)スパイクが顔に入ったようです!」
解説:「(この顔は…)スパイクが顔に入りましたね!」
審判:「(この顔は…)スパイクが顔に入ってるじゃないか!」
相手:「(この顔は…)俺、そんなに強く蹴りました?」

※誤解です。スパイクは入っていません。


数的有利となったことで、どうしても勝ちたくなったこの試合。しかし、なかなか割れないゴール。前半途中に右足を痛め、ゴールキックを味方DFに蹴らせるような状態にもかかわらず、北朝鮮のGKリ・ミョングッが本当に足が痛いのか疑わしくなるスーパープレイの連発でゴールを死守。ついに試合は0-0のままアディショナルタイムに突入し、北朝鮮はチョン・テセも下げて完全に引き分け狙いの体制。

そこからの長い長い5分。スタンドまで飛び込む内田の豪快なシュート、クリアと見紛うばかりに大胆にコースを外した岡崎のシュート、清武の飛び出しからエリア内でボールを受けた香川のシュート、クロスバーを叩く今野のシュート、すらして隅に飛ばすも防がれた香川のヘッド…わずか数分で北朝鮮ゴールを何度脅かしたことか。まるでボクシングの怒涛のラッシュを見るかのように、日本は耐える北朝鮮のガードを少しずつこじあけ、押し広げ、ゴールへねじ込もうと攻めまくります。そして迎えた後半48分17秒!

↓右ショートコーナーから吉田のヘッドで日本劇的先制&劇的決勝弾!



俺だ俺だとダッシュする吉田!

ピッチ上の選手より早く吉田に抱きつく槙野!

飛び蹴り、パンチ、ボディプレスを見舞う味方!

吠えるザック!飛ぶ通訳!

うなだれるチョン・テセ!

ガックリと座り込むリ・ミョングッ!


この日の得点で、日本の伝統である「点を取って試合を決めるDF」にまた一歩近づいた吉田。しかし、それは日本伝統のDF像の半分にすぎません。自分のしょーもないプレーで相手に点をやり、何故か自分でそれを取り返してこそ、日本代表のセンターバック。マッチアップしたチョン・テセをほぼ完全に封じ込めたあたりはちょっと頑張りすぎであり、先日語った「ワザとシュートを撃たせて悔しがらせる」という予告とも食い違っています。次回はもう少し、お笑い面の強化を意識してもらいたいものですね。

ということで試合以外の部分について採点です。

GK川島 4.0
ピンチらしいピンチ、つまりドヤ顔の機会はほとんどなかった。

DF駒野 4.5
ジュビロでの好調ぶりから、ひょっとして長友から再びポジションを奪うのか?という期待感を醸し出していたが、そんなことはなかった。その切なさが小さな笑いを生んだ。

DF内田 5.5
シュートをクロスを上空へと打ち上げる姿は、この夏最後の花火大会のようだった。熱心なファンの「ウッチーのクロスがお空に飛んで行ったのは台風の影響だよ!」「風、強かったね」「上空で舞ってる!」という力説ぶりが微笑ましかったので、採点は若干オマケ。

DF今野 6.0
吉田を悶絶させて、何故か相手にイエローを食らわす魔法の頭突きは、ぜひまた見てみたい。

DF吉田 5.0
ヒーローとなった瞬間、若干の「イラッ感」から3.0くらいまで採点を下げてしまったが、その後「ピッチ外で喜びすぎたことにより、試合再開時にピッチに入れてもらえない」という吉田らしさを発揮。やっぱり吉田だな、という安心感に採点も急上昇。

MF長谷部 5.0
プレーそっちのけで目を引いたのが妙に真っ黒い肌。最近、ドイツ人セクシーモデルからモテモテと評判なので、美女とビーチでイチャイチャしているのではないかという強い疑念が残る。今後の行動に注視したい。

MF遠藤 6.0
いつも失敗気味のヘアカットだが、今回は切りすぎたことにより、いつも以上に不思議な感じになっていた。プロゴルファー石川遼クンとの「美容院でどんな注文しているの?」という対談企画の実現が待たれる。

MF柏木 5.5
「ミスを恐れずやりたい」という意気込みで試合にのぞんだところ、本当にミスだらけとなるダチョウ倶楽部的な笑いを取った。「真面目っぽく見えるかなと思って」黒髪に染め直してきたあたりも、「不真面目そうに見える原因は髪じゃないぞ!」というツッコミを引き出すナイスボケ。

MF香川 4.5
取り立てて目立ったところはナシ。サッカー部分も物足りなかったので、次戦以降での奮起が期待される。この日は台風が通過した香川県のほうが目立っていた。

MF岡崎 5.5

後半頭に見せたスーパーマンのような飛び込みと、後半終了間際に見せたライダーキックのような飛び込み。スーパースローでゆっくり飛んでいく岡崎の姿は、それだけで絵になる。

※交代選手

MF清武 4.5
決勝アシストを決めるなど、普通にサッカーだけしていた印象。風貌的には「熱狂的長渕剛ファン」という感じのチョビヒゲがいい味出しているので、そのあたりを活かしたワイルドキャラを確立したい。

FWハーフナー・マイク 5.0

ハーフではない。

監督ザッケローニ 6.0
経験豊富という触れ込みだが、冷戦沈着どころかめちゃくちゃ顔に出るタイプであることが徐々に明らかになってきた。前半折り返しの際のマフィア顔は、拳銃を握らせたら2・3人は撃ち殺すであろうと予感させるもので、正直怖い。そして、喜んでいるときの顔は、スタッフさんの世界陸上並みのジャンプとあいまって、正直カワいい。

※追記
FW李 5.0
存在を忘れていた。お詫びの甘目採点で許してもらいたい。



さぁ、まずは1勝!6日のウズベキスタン戦もこの勢いで勝利してくださいね!