トーゴ戦で代表初ゴールを決めた森本についての岡田監督の評である。
「今のところ、点に絡むこと以外は要求していないが、スタメンでやるには、やるべきことがたくさんある」
もちろん初召集なのだから、今後要求していくべきことは、多々あるのだろう。だが森本に岡崎以下のFWと同じことを要求したら、逆に彼を呼ぶ意味が薄れてしまう。特に今回の代表戦で、走行距離の測定などが行われているという話を聞くと、余計に心配になってくるのだ。

先日発売されたばかりの「史上最高バルセロナ世界最高の育成メソッド」という大仰なタイトルの本の構成を行った。著者はジョアン・サルバンス氏。カタルーニャ出身のスペイン人指導者で、育成にかけては定評のあるFCバルセロナ史上でも、最高の素材が集まったと言われたカンテラ下部組織を率いた経験の持ち主である。

ジョアンがバルセロナへやって来た最初のシーズンには、メキシコ代表のジオバニ・ドスサントスがいた。もちろんジオバニは別格の才能の持ち主だったが、エスパニョールを初めとするライバルクラブの関係者たちから「消えている時間が多過ぎる」という指摘を受けるのだ。ジョアンはジオバニと話し合い、試合から消えてしまっている時間を減らそうと目標を立てた。ただし「減らそう」は、あくまで「なくそう」ではなかった。
ジョアンは言うのだ。
「特別な仕事をする選手は、肝心な時に爆発的な力を発揮するために充電も必要になる。マークする相手を5分間で3回も4回も抜き去ることは不可能なのだ」

またボージャンと出会うと、早速GKと1対1の特別練習を課した。そしてジョアンは説明する。
「当時14歳でもボージャンは、もうFWとして生きていくことが決まっていた。GKとの1対1は既に彼のストロングポイントだった。でも彼の仕事は点を取ること。だからサイドチェンジのキックの精度を上げる暇があるなら、現実的に役に立つメニューに取り組ませた方が良かった」

先日日本代表と対戦したオランダ代表のファンマルバイク監督は、本田をスタメンに使わない岡田監督について「それはサッカー観の違いだろう」と話していたそうである。「我々は個々の選手たちの長所を生かそうと考えるから」

森本に守備のタスクを増やせば、チームとしての失点は減っても、逆にプレーの精度が落ちて得点が減ってしまう危険性もある。最前線から全方位でボールを追いかける岡崎が、オランダ戦で中村俊のスルーパスをトラップミスしたのも、ある意味では必然だった。逆に、あのオランダ戦も、攻勢だった前半のうちにしっかりと先制できていれば、また違った展開も考えられた。1つのゴールを奪うことが、何kmも走り回るのと同等以上の貢献になるという認識も必要だろう。

結局日本代表に、エリートコースを辿ったJのユースではなく、高校出身者が多いのも、こうした考え方に関係しているような気がする。Jのアカデミーは、15歳時点での総合力でユース昇格の成否を判断する。だがこの年代で技術、走力、判断力を満遍なく備えている選手は、平均的なサイズに偏りがちだ。

この傾向は、先日のU18全日本ユース選手権からも見て取れる。最前線にも最後尾にも、よく完成された平均サイズの選手が目立つ。一方高校は、ユースに残れなかった多少欠点を抱えた素材の受け皿となり、彼らの方が時間をかけて伸びてきているのかもしれない。
プロクラブや代表チームは、様々な特徴が絡んで魅力が出る。森本はカターニャで最前線にポジションを取り、一瞬の鋭い動きで得点機に絡んでいる。長距離走者には出来ない芸当である。(了)


加部究(かべ きわむ)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。近著に「大和魂のモダンサッカー」(双葉社)「忠成〜生まれ育った日本のために」(ゴマブックス)など。