中国・上海にあるベビー用品専門店での風景。中国製と日本製のメリーズが横並びになっている(記者撮影)

トイレタリー国内首位の花王に、不安要因が出てきた。

花王は2月4日、2018年12月期決算を発表した(国際会計基準)。売上高1兆5080億円(前期比1.2%増)、営業利益2077億円(同1.4%増)と堅調ながら、期初に会社が公表していた売上高1兆5400億円、営業利益2150億円には届かなかった。

想定外だった2つの出来事

会社計画に未達だったいちばんの要因は、これまで業績の牽引役だった子ども用紙おむつ「メリーズ」が失速したことだ。メリーズは同社を代表する製品で、主要カテゴリーの1つである「ヒューマンヘルスケア事業」の売上高2677億円のうち約半分を占める。

このヒューマンヘルスケア事業は、2017年12月期に前期比7.8%増と好調。ところが、2018年12月期は同4.8%減と減速した。花王は製品ごとの具体的な販売実績を公表していないが、同社の澤田道隆社長は同日に行われた決算会見の席上で、「メリーズの日本での売り上げは前期実績を下回った」と、業績の下押し要因となったことを認めた。

好調だったメリーズが、ここにきて陰りが出始めているのはなぜか。理由は、花王が事前に予測しなかった2つの出来事が降りかかっているためだ。

その1つが、中国政府によるソーシャルバイヤー(転売業者)に対する規制だ。今年1月に現地で「中華人民共和国電子商務法」(通称:EC法)が施行され、ソーシャルバイヤーには営業許可証の取得や納税義務が課されることになった。これにより、昨年後半からソーシャルバイヤーは日本製品の買い控えを続けている。「EC法をにらんだ動きが昨年9月から始まり、とくに年末にかけ、顕著に出てきた」(澤田社長)。メリーズはソーシャルバイヤーから人気が高い製品のため、買い控えが販売に打撃を与えたとみられる。

予測しなかった出来事の2つ目が、ソーシャルバイヤーによる在庫の「たたき売り」である。ソーシャルバイヤーはメリーズの在庫を大量に抱えており、「その在庫を吐き出すために、個人商取引が行われているECサイトにどんどん出品した」(花王の広報)。すると、花王が正規ルートのプラットフォーマー(IT企業)を通じてECサイトで販売する製品と価格差が広がり始めた。  

プラットフォーマーは花王に対し値下げ圧力をかけてきたが、「メリーズのブランド力維持のため、それには答えなかった」(澤田社長)ため、ECサイトでの販売数量が減少した。

ソーシャルバイヤーへの規制に伴うメリーズの販売への影響は、今2019年12月期も続きそうだ。そのマイナス要因を補うために必要となってくるのが、中国現地での販売強化である。


花王の澤田道隆社長は「もう一段差別化していきたい」と強調する(記者撮影)

そこで花王は2つの矢を放つ。1つは、中国向けに新技術を先出しするということ。海外の母親が紙オムツに求めるニーズは、日本人の母親とやや異なる。例えば、中国では紙おむつが直接肌に触れるのを嫌い、おむつ自体をはかせない母親もいる。そこで求められるのが、通気性のよい紙おむつ花王は技術の詳細を明らかにしていないが、こういった現地の需要に合致した製品を開発するために、新技術を投入していく。

またもう1つの矢が、メリーズのラインナップの拡張だ。今までメリーズはプレミアム製品として売っていたが、より価格帯の高いハイプレミアム製品をラインナップにそろえる予定。「現地企業が作る紙おむつでも、メリーズの1.5倍の価格をつける製品も登場している。われわれは、もう一段差別化していきたい」と、澤田社長は強調する。花王は新技術を生かしたハイプレミアムの新製品を年内に販売する計画だ。

ユニ・チャームの影響は軽微

一方で、競合のユニ・チャームは2月14日に2018年12月期決算(国際会計基準)を発表。売上高6882億円(前期比7.3%増)、コア営業利益951億円(同9.5%増)と、従来の会社計画を上回る着地となった。ユニ・チャームにおいて、子ども用紙おむつはパーソナルケア事業の売上高5992億円のうち約4割を占めるとみられ、こちらも同社を代表する主力製品である。

花王の紙おむつはソーシャルバイヤーの注目の的であるため、規制強化の影響が直撃したが、比較すると現地での人気が劣るユニ・チャームの製品には影響がなかった。

今後の販売強化に向け、ユニ・チャームはメード・イン・チャイナ(現地生産)の高価格帯紙おむつを年内に投入予定。かつて、ユニ・チャームは生産コストが安い中国製の中・低価格帯製品を展開していたが、日本製で安全・安心を訴求した花王の攻勢に押され、顧客を奪われてしまった。

今、中国ではユニ・チャームのハイプレミアム製品「ナチュラルムーニー」が受け入れられている。日本ブランドであることが浸透しているため、中国製でも勝負できるという算段だ。

花王の澤田社長は、「メリーズは以前、おむつ界の『エルメス』と言われていた。最近はそこまで評価してもらえていない。世界最高品質の製品として認めてもらいたい」と語る。とはいえ、ライバルが販売拡大策に乗り出していることもあり、成長路線に戻すのは容易ではない。今期はメリーズ、そして花王にとって勝負の1年になりそうだ。