サウジアラビア戦、ピッチでは何が起きていたのか【写真:Yukihito Taguchi】

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ボール支配率で大きく下回ったサウジ戦、指揮官や出場選手たちの証言を基に紐解く

 日本代表は21日のアジアカップ16強サウジアラビア戦で1-0と勝利し、ベトナムが待つ24日の準々決勝に駒を進めた。

 日本が僅差で競り勝った一方、ボール支配率は日本が「23.7%」と低く、サウジアラビアの「76.3%」を大きく下回っている。果たして、ピッチでは何が起きていたのか。指揮官や出場選手たちの証言を基に紐解く。

 序盤からサウジアラビアがボールを支配したなか、日本は守備ブロックを下げすぎずに一定の高さを保ちつつ、ハーフウェーライン付近から連動したプレスでボールを奪いにかかった。上手くプレスをかいくぐられる場面も散見されたが、DF吉田麻也(サウサンプトン)らを中心に最終ラインで食い止めるなど粘り強く対応。そうして迎えた前半20分、日本が左コーナーキックを獲得し、MF柴崎岳(ヘタフェ)の正確なキックからDF冨安健洋(シント=トロイデン)が頭で合わせて先制ゴールを奪った。

 日本のリードは試合の構図をより鮮明化させる。サウジアラビアは攻勢を強め、日本は守勢に回った。後半に入ると両軍とも陣形が間延びし始め、日本にとってはカウンターを仕掛ける格好の条件が揃った一方、運動量の低下とともに前線からのプレスが弱まり、相手にボールを持たれる時間が続く。結果的に日本は相手の猛攻を凌ぎ、虎の子の1点を守り抜いて1-0で逃げ切った。

「いやあ、苦しい試合でしたね、今までないんじゃないですか、ここまで握られるのは」

 そう語ったのはDF長友佑都(ガラタサライ)だ。アジアの戦いにおいて、ボール支配率は日本が大抵上回るものの、今回は立場が逆転し、受けに転じた。もっともチーム全体としてこの展開は織り込み済みで、選手たちも一様に“想定内”を強調している。

相手にボールを保持されるも割り切って対応 “クロスに怖さなし”も共有

 森保一監督が試合後の会見で「ボールを保持しながら、危険な攻撃を仕掛けてくるチームであることはスカウティングで分かっていた」と振り返れば、MF柴崎岳(ヘタフェ)も「テクニックに優れているのは分かっていたし、ある程度の握られる展開は予想していた」と語る。

 相手にボールを長い時間保持されるなかで、ピッチ内の選手たちは何を思っていたのか。話を総合すれば、“最後の部分”をケアできていれば全く問題ないという認識だったようだ。

「最終的な部分の怖さがなかった。そこを集中してケアできれば問題ないと話し合っていた」(長友)
「基本的に、最後のところは守れているというイメージ。ある程度は割り切って守れた」(MF遠藤航/シント=トロイデン)
「ペナルティーエリアに入られて怖いところもあまりなかったと思う」(MF堂安律/フローニンゲン)

 その一方で“相手のクロスに怖さなし”という感覚も選手たちは共有していた。最終ラインを統率したキャプテンのDF吉田麻也(サウサンプトン)が「クロスはそんなに怖くなかった」と語り、司令塔・柴崎の言葉もそれを裏付ける。

「彼らは中央突破に強みがあるし、クロスはそんなに怖くないと思ったので、なるべく中をやられないようにとは思った」

選手たちが警戒したのはボール支配率ではなく… サウジ戦で見られた日本の誤算

 ボール支配率は相手に圧倒されたが、日本が防戦一方だったわけではない。「アグレッシブにプレッシャーをかける。選手たちは良い入りをしてくれた」と指揮官が語るとおり、序盤からプレスの強度は高かった。しかし、日本がリードしてからサウジアラビアが攻撃の比重を高め、その後の構図ができ上がった形だ。

 ボールを保持して得点を狙うサウジアラビア、攻撃を受けながらも虎視眈々とカウンターを狙う日本。そのなかで日本はボール支配率ではなく、最終ライン裏のスペースに意識を向けていた。相手の1トップを務めたFWファハド・アル・ムワラドは爆発的なスピードを武器としており、わずかなスペースも命取りになる。

「とにかく19番(アル・ムワラド)の裏に抜けるスペースに気をつけること」(吉田)
「速い選手の裏のケア」(長友)

 日本に誤算があったとすれば、追加点を決められなかったことだろう。とりわけ相手が前がかりとなった後半、カウンターからゴールに迫っている。しかし、パスのタイミングがワンテンポ遅く、ラストパスの精度を欠く場面もあり、日本にとっては決定的な2点目が奪えずに苦しい展開が続いた。

「追加点を決めるチャンスはあった。試合を締められなかった課題はある」(柴崎)
「理想はもう1点を取ること。もう少しボールを奪ってカウンターの回数を増やすのが理想だった」(遠藤)

相手のボール支配、ある程度までもともと許容範囲 「メンタル的に崩れなかった」

 そうした状況のなかでも日本が崩れなかったのは、相手にある程度ボールを持たせているという共通理解があったからに他ならない。2点目を奪えていれば、日本にとっては理想に近い展開だった。

「僕らとしては(ボールを)握らせているという状況でメンタル的に崩れなかった」(長友)
「最後のところでは守れていたので、回されているというのは違うんじゃないかな」(DF塩谷司/アル・アイン)
「チームとして、戦い方はブレていなかったと思う」(柴崎)

 そうした複数の要因が重なり、結果的にボール支配率は大差となった。想定以上にボールを持たれたという側面はあったものの、ある程度まではもともと許容範囲だったのだ。柴崎も「誰かがはみ出していたこともなかったし、チームが一つの生き物のような感覚でやれたのは収穫」と振り返っている。

 日本のボール支配率「23.7%」――その裏にはチームとして共通意識を持ち、最後まで役割を完遂した男たちの姿があった。(Football ZONE web編集部・大木 勇 / Isamu Oki)