誰も作らないから創ったNichePhone! ケータイ販売員から起業して目指すは繋がりやすい社会 - フューチャーモデル 曲亮氏

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フューチャーモデル 代表取締役社長の曲亮氏(35歳)。
・SIMフリー携帯電話「NichePhone-S 4G」
・複数の翻訳エンジンを搭載した翻訳機「ez:commu」「PERARK」
など、大手企業が扱わない数々のIoTデバイスを手がける起業家だ。

曲氏の生まれは中国遼寧省大連市。高校を卒業してすぐに日本に来たという。
国際大学を卒業したのち、東京・秋葉原の家電量販店で携帯電話の販売員として勤務。
2009年に、起業し、フューチャーモデルを設立した。


■日本へ! 起業以前の学生時代とは?
曲氏、
「当時、おばさんが日本にいて、ちょうど高校を卒業したときでした。
高校は映画を撮影したりする芸術系の学校で、芸術系の大学へ進学することを考えていましたが、高校時代は全寮制でけっこう遊んでいたこともあり、大学に行ってもあまり意味がないなと思えてきたのです。

そんなときに、おばさんから『日本に来ないか?』と、声をかけてきてくれたのです。

私の日本への印象は、アニメとか、先端技術とか、非常に優れたテクノロジーの国だと感じていました。
当時、私が持っているもので一番大事にしていたのは、日本製のウォークマンだったこともあり、
日本に行きたいという気持ちが凄く強く湧き、日本へ来ました。」

曲氏は、流ちょうに日本語を話す。その日本語は、学生時代に携帯電話の販売員をしていた頃に覚えたという。

曲氏
「大学は群馬県で学費は、すべて自分で払っていました。携帯販売員の時給は、スタート時で1200円でした。
当時、レストランのバイト代は良くても850円。それが最初から1時間1200円でしたので、これはやらない理由はないということで、やりました。
最終的には、時給1700円までになりました。」

こうして就いた販売員の仕事は、客とのやり取りが必要不可欠だ。
効率よく日本語も学ぶことができた。


■華麗なる転身!販売員からデバイスメーカー社長へ

起業当時や製品への思いを語る曲氏(右)


フューチャーモデルの起業は、販売員の延長のようなかたちだったという。

今からおよそ10年前、曲氏が東京・秋葉原の家電量販店で携帯電話の販売員をしていた頃、アクセサリーコーナーにあるケースを見ていて、
ひらめいた
「これはチャンスだ!」
と。

当時は、まだiPhoneのアクセサリーを提供している会社は少なかった。
そこでアクセサリーの仕入れ先をネットや知り合いを通して調べて、アクセサリーの販売で2009年に起業したという。

曲氏
「当時、ひとつの端末が発売されると、アクセサリーであれば何でも売れる時代だったということも勿論あります。
ただ、自分の人生を考えると、家族を安心させ、生活を安定させたいというのが一番にありました。」
曲社長の読みはピタリと当たった。
アクセサリーは飛ぶように売れた。

大手キャリアにOEM提供も行っていたことで、会社も大きくすることができた。
特に手帳型ケースは大人気となり、最高で年間300万ピースも売れたという。


■誰もやらなかった小さい携帯電話!だからNichePhone-S

SIMフリー携帯電話「NichePhone-S」について語る曲氏


2017年11月、曲氏が最初に販売したSIMフリー携帯電話は、無駄なものを削ぎ落したカードサイズの「NichePhone-S」だ。
Wi-Fiテザリング機能を備え、2台目の携帯電話としての利用を想定している。

曲氏
「スマートフォンが多機能化していく中、
日本のユーザーはセカンド携帯に何を求めているのか?
それを考えたとき、小さく、機能を絞った携帯電話を出したほうが良いと考えました。

それは当時、誰もやらなかったこと。
だから“NichePhone(ニッチフォン)”と名付けたのです。」

NichePhone-Sを発売する2年ほど前から、アクセサリーの売上は少しずつ落ちきていたという。
ケース販売の先行きも厳しくなりつつある時期だった。

iPhoneやAndroidスマートフォンを分解するほどモバイル好きだった曲氏は、趣味の延長で、NichePhone-Sを発売することを決意したという。
曲氏は、携帯電話の販売員をしていたこともあり、携帯電話やモバイル機器については、社長業をしているとは思えないほど詳しい。それもそのはずで、iPhoneやAndroidスマートフォンの構造や仕組みを知るため、ネットで調べたり、実機を分解したりして、研究をしていたという。

曲氏は、
「試行錯誤を繰り返しながら、本体の中を見るのが楽しいのです。」と、語る。


NichePhone-S 4G (左)とNichePhone-S(右)


NichePhone-Sは、そんな曲氏と同じようにモバイルが好きなユーザーの心を動かし、売れた。
そして2018年9月14日に、後継機となる4Gに対応した「NichePhone-S 4G」の発売につながっていった。

セカンド携帯というコンセプトは、今、華開こうとしている。
今年の秋冬モデルで、NTTドコモが同じようなコンセプトの「カードケータイ KY-01L」を発表した。
KY-01Lは、電子ペーパーディスプレイを採用した薄型・軽量な携帯電話だ。

曲氏
「ドコモがカードサイズ端末を発売したのは、凄く良いことだと思いました。
理由ですが
1つめは、市場がつくれること。2つめは、NichePhoneとまったく違う端末だったからです。」

セカンド携帯市場は、まだ決して大きな市場ではない。
NTTドコモの参入は、市場の拡大を牽引してくれる効果があるという。
市場が拡大すれば、方向性の異なるNichePhone-Sのニーズも大きくなると考えているようだ。
実際、すでにインターネット上で、NichePhone-SとKY-01Lを比較した記事もいくつかあがっている。

曲氏
「初代のNichePhone-Sは、日本語入力が使いづらいとの声を聞きました。
そこでNichePhone-S 4Gでは日本語入力システムを新たに開発し、搭載しています。
少しずつ使いやすさも進化させています。」

今後のNichePhoneについて曲氏は
「断捨離という言葉がありますが、NichePhoneはシンプルというのが一番の売りです。
アプリを付けたり、カメラ機能を付けたり、GPS機能を付けたりすると、端末としてのコンセプトが壊れてしまうことが考えられます。」という。

実は現在、通話し放題を考えているそうで、社内では、どうしたら「安価な通話し放題」を提供できるのかを検討しているそう。

通話し放題は、すでに大手キャリアで提供されているが、利用料金が高い。
曲氏は、もっと価格を下げたいようだ。
犯罪に使われることを防ぐための本人認証の必要もあるという。
こうしたことを考慮すると、通話し放題の提供は、かなりハードルが高いようだ。


■翻訳機でなく、翻訳サービスを提供したい
フューチャーモデルは、SIMフリー携帯電話NichePhoneだけでなく、AI自動翻訳機「ez:commu (イージーコミュ)」も提供している。ez:commuは4つの翻訳サービスに同時アクセスして、AIが文脈、分野、言語を独自のアルゴリズムで解析し、最適な翻訳サービスを提供する画期的な翻訳機だ。


AI自動翻訳機「ez:commu」


曲氏は、翻訳機はキッカケであり、ビッグデータの活用も含めた翻訳サービスこそが本流だという。

曲氏
「私は、ez:commuを翻訳機というよりは、翻訳サービスとみています。
言葉の壁をなくす方が重要だと考えるからです。

スマートフォンに翻訳アプリを入れる方もいますが、クラウドを使う翻訳サービスの方が精度的に優れています。
また翻訳機だけの市場をみると、それほど大きくはないとも思っています。
ですから、翻訳機という機器だけでなく、
何が一番翻訳されたのか? など、翻訳でのビッグデータを活用するビジネスにも目を向けているのです。」

将来を見据えながらez:commuの展開も積極的に行っている。
曲氏
「世界遺産がある自治体の方で(ez:commuを)使いたいという話が現在、持ち上がっています。いろいろなところから話が来ています。」



曲氏の持つ将来のビジョンとは何だろう?

曲氏
「繋がりやすい社会を実現することです。

通話と翻訳端末を通じて、繋がることは少しづつではあるものの実現できたかなと思います。

これまで得たノウハウを応用し、まだまだ様々な人や産業を繋げたいと考えています。

繋がる分野が増えることで、さらに繋がりやすいサービスが生み出せるはずです。

それを目指してやっていきたい。」

フューチャーモデル


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm、関口哲司