パナソニック、ライカ、シグマが来春発売するLマウントに対応したシステムカメラ「LUMIX S1」シリーズ(写真:パナソニック

パナソニックはドイツ・ケルンで現地時間9月26〜29日に開催されている「photokina 2018」で、独ライカ社および日本のレンズメーカー・シグマとの協業を発表。ライカが2014年に発表した、8本のレンズが揃えられているLEICA Lマウントを基本としたシステムカメラを構築する「LEICA L Mount Alliance」を発表した。

ライカはパナソニックとシグマにLマウントの技術仕様を供与し、それぞれに対応するシステムカメラおよびレンズを開発していく。また技術的な面でも、パナソニック、シグマがそれぞれの知見を持ち寄り、3社でリニューアルを施した「アップデートされたLマウント」だ。動画対応など様々な面で最新のトレンド、技術に適合したものとなる。

光学設計上の他社との違いに関しても「具体的な数字は言えない」としながら、ニコン、キヤノンがそれぞれに発表した「Zマウントシステム」「RFマウントシステム」に匹敵する潜在力があるという。

「Lマウントシステム」とは?

なお当面はこの3社で開発を進めていくとのことで、技術仕様の公開は予定されていない。互換レンズメーカーであるとともに、3層型CMOSセンサー「Foveon」採用のカメラメーカーでもあるシグマの山木和人社長は、具体的な製品発表は現時点では行えないとしながらも「当社はユニークな技術を搭載するカメラや多彩なレンズ群をLマウントベースで提供していくことで、Lマウントシステムをユーザーにとって興味深いものにすることに貢献できると考えています」と話した。

そしてパナソニックは3社でのアライアンスを発表直後、Lマウントに対応したシステムカメラとして「LUMIX S1」シリーズの開発意向を発表。発表は“開発意向表明”ではあるものの、開発プロジェクトは約2年前に始まっており、来年春には実際の製品が投入される予定だ(価格や細かなスペックは未定)。

最初に投入されるのはボディ2モデル、レンズ3本の構成。

ボディは約4700万画素CMOSセンサーを搭載するLUMIX S1Rと、2400万画素CMOSセンサー採用のLUMIX S1の2モデル構成。同時にLUMIX Sシリーズ向けに50mm/F1.4の単焦点レンズ、24-105mm、70-200mm(いずれもF値は非公開)の合計3本を発表した。

デジタルカメラ業界はスマートフォン内蔵カメラの高画質化に伴い、一部製品の特徴ある製品を除き市場を失った。そうした中でレンズ交換式カメラのみが、成長はしていないものの、市場規模を維持しているジャンルになっている。

その中での巨人は、言うまでもなくニコンとキヤノンだが、一眼レフカメラシステムを主力とする両者のシステムは、圧倒的な市場規模を持ちながらもマイナス成長が続いている。

CIPA(カメラ映像機器工業会)によると2007年のピーク時には年間約1億台が出荷されていたデジタルカメラだが、主にスマートフォンの影響でカジュアルなコンパクトカメラの売上台数減を中心に2015年までには年間約1300万台まで減少。

こうしたデジタルカメラ市場の縮退傾向は、とうとう一眼レフ市場にも及び始め、日本最古のカメラブランドであるニコンの決算発表にも大きな影響を与えている。ニコンは2018年3月期決算において、3四半期トータルで229億円の増益と好調さをアピールした。しかし、増益は構造改革の効果が出てきた側面が強く、デジタルカメラの売上減を主因とするコンシューマ向け製品の売上不振は根深い。33四半期トータルの収益が409億円減少しているのがその証拠だ。

業界トップのキヤノンも、新機種投入により昨年のレンズ交換式カメラが好調。2018年1〜3月期の決算ではコンパクトデジタルカメラの売上減を補ったとコメントしているが、デジタルカメラとプリンタを製造するイメージングシステムビジネスユニット(BU)は売上高が前年同期比で8.4%減、営業利益は15.5%も目減りした。

こうした中で、一眼レフカメラに代わって消費者が選んでいるミラーレス一眼のシステムを“プレミアムシフトさせていく”のが、業界全体のトレンドである。

“プレミアム・ミラーレス一眼”への流れ

パナソニックが10年前にphotokinaで発表した世界初のミラーレス一眼「LUMIX G1」がその先鞭だったが、小型・軽量のシステムから進んでいた一眼レフからミラーレス一眼への流れも、ソニーα7シリーズの大ヒットに伴い、35ミリフィルムサイズセンサー(フルフレームセンサー)を採用した“プレミアム・ミラーレス一眼”への流れが明確となった。

CIPA統計で年に5%ずつ成長しているミラーレス一眼市場だが、LUMIX Gシリーズが採用するマイクロフォーサーズ、あるいはソニーαシリーズやキヤノンEOS Mシリーズなどが採用するAPS-Cサイズセンサーのシステムは、今後大きな成長が望めない状況になってきている。その中で、唯一成長が続いているのがフルフレームセンサーを採用するミラーレス一眼だ。

パナソニック アプライアンス(AP)社の本間哲朗社長は「2年前ぐらいから、将来はフルフレームセンサーを搭載するプレミアム製品へのシフトが本格化していた」と話す。

「成長戦略を描くのであれば、フルフレームセンサー採用機へと踏み出すか、あるいは事業撤退するか、2つの選択肢しかない」と、参入に至った判断について話した。

もっとも、いくら成長市場とはいえ、ニコン、キヤノンという2大カメラメーカーが、フルフレームセンサー採用のミラーレス一眼システムを発表したばかり。キヤノンはすべて、ニコンも電子化以降のすべてのレンズを流用可能だ。ブランド認知の面でも圧倒的な存在であり、同じ電機メーカーであるソニーは、α7で市場を開拓したパイオニア。最後発メーカーには厳しい環境だ。

その中で、ライカとのアライアンス交渉をまとめ、新たにフルフレームセンサー採用機システムへの参入を決意した背景はどこにあるのだろうか?

本間社長がLUMIX S1のプロジェクトについて知ったのは、2016年はじめのことだったという。いや、移管してから“知った”というのは語弊がある。プロ向け映像機器事業とつながっていたLUMIX事業の部隊が本間氏に「自分たちをAVCネットワーク社から独立させてくれ」と自ら売り込んできたことが、AP社移管のきっかけだったからだ。

それまでAVCネットワーク社が管轄していたLUMIXシリーズが、AP社に移った頃と重なる。本間社長は「最初に話をされた時は“とんでもない無謀な話”だと思った」と、そのときの心境を率直に言葉にした。

「何それ?そんなことをやっているの?というのが感想。かつてSDカードの規格策定、ライセンスのプロジェクトに取り組み、カメラ業界の厳しさは十分に知っていた。それ故にプロジェクトに対しては厳しいコメントを出し、徹底した議論を繰り返してきた。一時はフルフレームセンサー採用機への投資を一時凍結し、本当にパナソニックの事業として成立するのかを議論したほどだ」

「GH4シリーズ」の発表が転機に

この風向きが変化したのは、軽量・コンパクト+動画撮影機能を訴求点に開発してきたLUMIX Gシリーズ、GHシリーズのコンセプトを、一気にプレミアム方向へとシフトさせた「GH4シリーズ」の発表だったという。GH4は欧米の一部マニア層へと訴求する製品となり、LUMIXブランドをプレミアム層、プロユースへと向かわせる可能性を感じ始めたという。

そこで戦略の見直し、投資の吟味が本格的に始まり、ライカとのLマウントライセンスへの交渉も始まった。前述したように“撤退しない”のであれば、成長する分野に向けての投資を行う必要があるからだ。

とはいえ、欧米市場におけるGH4は“小さな成功”でしかない。そこで本間氏がLUMIX Sシリーズの商品化を行う条件として設定したのが、GH4に続くマイクロフォーサーズフォーマットのプレミアム機である「GH5(動画・静止画ハイブリッド機」「GH5S(動画性能を重視したハイブリッド機)」の成功、それに「G9(静止画重視モデル)」が写真家コミュニティに対し、一定以上の評価を受けたうえで存在感を示すことだった。

結果は見事に出た。

2017年3月に発売した初のプロ向けミラーレス一眼GH5は、社内目標としていた数字の2倍を売り上げたのだ。業界全体ではマイナス成長となる中、2017年度上期(4〜9月)のデジタルカメラ事業全体の売り上げを前年同期比1.2倍(金額ベース)に押し上げる原動力になった。

そして2018年1月に発売したGH5SとG9も、GH5の勢いを得て2017年度(2017年4月〜2018年3月)を通してのレンズ交換式カメラ売り上げは、前年の3倍に増加したのだ。

実はこのLUMIX Gシリーズの成功は、主に米国市場、欧州市場でもたらされたもので、日本市場ではここまでの存在感を示せていないのだが、レンズ交換式カメラの市場が大きく動く中、フルフレームセンサー採用機への投資判断を決めるに十分な数字となったようだ。

目標は「10%のシェア」を取ること

ミラーレス一眼の市場で10年間勝負してきた。プロ向けのデジタルビデオカメラを含めた映像機器事業は40年の歴史がある。そこで培われたデジタル信号処理技術、イメージセンサー、手ぶれ補正技術、レンズ技術などに加え、プロフェッショナルの意見を聞きながら徹底して最適化した操作性や動画撮影機能が、われわれだけの独自性を引き出せる」(本間社長)


パナソニックは「LUMIX S1」シリーズでレンズ交換式カメラ市場への食い込みを狙う(写真:パナソニック

目標はフルフレームセンサーを採用するミラーレス一眼市場で10%のシェアを取ること。

「われわれには失うものは一切ない」という本間氏。既存システムのユーザーを多く抱えるニコン、キヤノンが、幅広いユーザー層を狙ったラインナップを揃えるのに対し、パナソニックはプレミアム製品、プロユースを意識した仕様に特化する。パナソニックは、大きなパラダイムシフトが起きつつあるレンズ交換式カメラ市場に一石を投じることになりそうだ。