閉鎖されていたメディアの一つであるMERYは、新体制のもと昨年11月21日に再スタートした。何が変わって何が変わっていないのか(写真は2017年3月13日、第三者委員会の報告を受けて記者会見するDeNAの首脳。撮影:尾形文繁)

若い女性を中心に大きな人気を誇ったウェブメディア「MERY」が、2017年11月21日に再開。それから2カ月近くが経過したが、現在の状況はどのようになっているのだろうか。
MERY(小学館とDeNAの合弁会社)の社長で小学館の副社長を兼任する山岸博氏、ペロリ創業者・中川綾太郎氏辞任後に社長を引き受け、現在は副社長を務めている江端浩人氏など新生MERYの関係者たちに話を聞いた。

まずはこれまでの経緯から振り返っておこう。

MERYが閉鎖されたのは2016年末のこと。閉鎖前のMERYは女性向けのファッション、コスメのメディアとして、ライバルの追従を許さないどころか、多くの若者向け女性誌が勢いを失う中、もっとも元気な女性媒体として注目を浴びていた。

かつて破竹ともいえる勢いがあった

注目を浴びていただけではない。女性向けファッションブランドの広告媒体としての優先順位はトップクラスとなり、少なくともネット媒体としては、他に比べる対象がないほどの圧倒的な存在になっていた。ところが、2016年秋以降、DeNAが運営していた医療・健康情報サイト「WELQ」による不正確な医療情報発信に端を発し、キュレーションプラットフォーム「DeNAパレット」全体の問題へと発展。そして、DeNAが買収した後も成長を続けていたペロリ運営の「MERY」にも飛び火。大量の画像の不正流用などが指摘され、サービス停止に追い込まれた。

加えてDeNAが設置した第三者委員会による報告で、ペロリ幹部が画像流用を直接指示したことなどが発覚。過去記事の削除や、無断使用した画像の著作権者に対する補償問題に追われた。

「WELQ問題」の背景にあったのは「過度なSEO(検索エンジン最適化)対策」だ。インターネット広告の仕組みが、ページビューや訪問者数などの指標値に偏りをもたらし、その偏った評価基準に対して、より効率的に数値を上げる工夫を重ねていったことによる副作用という面があった。

単純化して書くと、ネット媒体は、広告が見られたという数字さえ作っていけば、あるいはページにビューがあったという数字を作れば、それなりの広告価値を得られる。コンテンツの質という評価要素は比較的小さいため、ローコストに広告価値を高める手法として、当時数多く存在していたキュレーション系サイトは、質より量、内容の良し悪しよりもSEO対策に走っていた。


現在の「MERY」のスマホの画面イメージ(写真:MERY

これがDeNAだけの問題ではないことは、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が2017年8月(アドフラウドに関するもの)と12月(ブランドセーフティに関するもの)に出したステートメントを見ても明らかだ。

インターネット広告が、広告主の意思とは関係なく適切ではない場所で掲示されることで広告費を払ってブランド価値を下げるという本末転倒な事態を引き起こしたり、アドフラウド(広告詐欺)のように広告掲示の数字に関して”騙し”をしようとしたりする流れもあるが、そうしたゆがみが大きく噴出したのがWELQ問題だった。

MERYの問題は「掲載画像の無断流用」

その中で、実は上記のようなインターネット広告に関する好ましくない流れ(=過度なSEO対策)とは別の方向性を作り出せている媒体があった。それが若い女性の感性にあったコンテンツを生み出していたMERYである。

WELQの問題の本質は、SEOテクニックに偏った記事テーマ設定と内容の作り方、それに論旨をまるごと他サイトから引用してリライトしたり、複数の記事をひとつにまとめるだけでオリジナル記事としてしまうなどの”パクリ”だ。記事の質ではなく検索流入を最重要視し、内容の質に対するチェックも甘いことが問題だった。一方で、ファッション、ビューティ系の話題が主体のMERYは自身が読者層でもある若い女性たちがインターンとして、自由に自分のセンスを活かしたテーマ設定、記事内容とすることで同じ感覚を共有する女性たちを吸引していた。

MERYの記事に検索流入を目的としてSEOテクニックが施された記事がゼロだったわけではないが、その比率は低く、むしろ読者目線を活かしたボトムアップのコンテンツ製作体制がブームを作り出したと言える。

しかしながら、2016年秋以降、MERYには多くの画像無断流用が発覚。DeNAは、2017年8月に小学館との合弁によって「株式会社MERY」を設立。小学館が過半数の株式を引き受けることで、小学館および旧ペロリの主要メンバーが経営の核となる新生MERYが始動した。コンテンツ製作の鍵となる制作部門には、ペロリ時代のMERYで読者から慕われていた者も少なからず残っているという。

経緯の解説が長くなったが、ここから本題に移ろう。記事配信の再開を受け、MERY社長で小学館の副社長を兼任する山岸博氏、ペロリ創業者・中川綾太郎氏辞任後に社長を引き受け、現在は副社長を務めている江端浩人氏を取材し、何が変わり、何が変わっていないのかを明らかにしていきたい。

まず新生MERYと旧MERYの体制の違い。大きく分けると2つある。

ひとつは主に記事中で使用する画像などの著作権を確認し、権利者に使用許可をもらうようにしたこと。もうひとつは編集部の機能をMERY社内に置き、記事の校閲を行うことだ。こうした品質管理は、いずれも旧体制時には一切行われていなかった。新体制では編集部側からライターに何らかの指示をするわけではないが、記事内容の品質について事後チェックを行う機能を持たせたのである。

しかし、たった2つの違いではあるが、これは大きなコスト増要因である。ペロリが急成長した背景には、女子大生中心の筆者たちが”かわいいを発信したい”と思う気持ちを活かし、可能な限りシンプルに発信させる徹底したローコスト経営だった。

当時、ネット業界ではグローバルで”グロースハック(企業やサービスの成長を加速させるためのテクニック)”という言葉が流行していたが、ペロリ創業者の中川氏はまさにそうしたネット企業の立ち上げ方を上手に実践していたといえる。

同社のホームページに掲載されている「時給1000円〜」という募集条件に対しては、「女子大生のアルバイトとはいえ安すぎる」「こんな薄給ではファッションやコスメに投資できないではないか」という指摘もある。しかし、具体的な執筆本数ノルマなどはなく、出退勤は自由など本数やページ数を基本とした一般的な筆者の報酬とは異なる側面はあるようだ。

江端氏は「ライターとしてのキャリア開始時点の時給設定は、以前のインターンを取っていた頃と変わっていません。しかし、現在のMERYは入社後のライター育成、教育プログラムに力を入れており、経験を積むことで成長していけるようにしました。読者と同じ目線で良質な情報を届けるためには、ライターたちが主体的に”カワイイ情報を発信したい”というモチベーションを保つ必要があり、そうした環境の提供により記事の質が担保されています」と話す。

一定の指導・教育などを行った上で、MERY公認ライターとして登録。以前との違いは、MERY公認ライターは自宅などの遠隔地ではなく、千代田区の神田神保町にあるMERYのオフィス内で記事を執筆するルールになっていること。時給が同等とはいえ、オフィスなどに関わるコストは上昇していると考えるのが妥当だろう。

集められたMERY公認ライターの人数は1月中旬現在で100人程度。「体制を新たにしたMERYでもライターが自分目線でテーマを見つけ、自分が知りたいこと、興味を持っていることについて記事を書き、その記事にマッチする画像を選ぶというスタイルには手を加えていません」(江端氏)。

権利確認については小学館のノウハウを投入

一方で権利確認については小学館のノウハウを取り入れた。社長の山岸氏は「小学館には雑誌制作のノウハウがありますから、紙の雑誌と同じように校閲部門を通し、編集部側で文章、画像ともに内容や権利関係のチェックをして読者に配信していく仕組みとしました」と話す。

文章に関しては一般的な校閲や内容チェックと変わりない。たとえば紹介している商品やサービスが実在しているのか、お店はその場所にちゃんと存在しているのかなどだ。

画像に関してはライターがインスタグラム、ZOZOTOWN、HAIRといったサイトの画像を引用していることが多い。直接権利者に連絡できる場合はいいが、インスタグラムなどでは編集部側でライターが使用を希望する写真を掲載しているアカウントにコメントとして画像を使用したい旨を連絡しているという。先方からの連絡を待つというスタイルだ。

旧体制よりも効率は落ちる。「公開メッセージではなく直接メッセージを送る方がベターだろう」と江端氏も認める。しかし、インスタグラムのサービス仕様上、スパム対策のために同じアカウントからの大量のメッセージが禁じられている。「効率は悪いが、確実に権利者との連絡を取れる手段として現段階は地道に作業を進めていく」と江端氏は話す。

人気インスタグラマーの元には大量のコメントが付くこともあるため、コメント欄での連絡は「決してスムーズではない」と江端氏は話す。それだけ手間暇と時間が掛かるということだ。一方で「画像の無断利用は自分たちが起こしてしまった問題。信頼を獲得するためにも、まずは”やり過ぎ”というぐらいに細かく、しっかりと権利関係をクリアしていきたい」という。

しかし、たとえば10枚の画像が使われているとき、1枚でも権利がクリアできていなければ記事は掲載できないというルールだという。使用する画像の選択は”カワイイ”をテーマにするMERYにとって生命線であり、記事を書くライターの気持ちそのものを反映しているため、代替がきかない。このこともあって、1日の掲載記事数は旧MERYの半分以下となった。

1月中旬時点で公開されている記事数は1600本以上。閉鎖直前は約10万本あったことを考えれば、サイトの規模は比べるべくもない。まさにゼロからの再構築だ。

山岸氏、江端氏は「名前は同じ、アプリも同じものを引き継いでいるが、ゼロからの再構築。再ローンチではなく、新しいMERYを作り直している」状況であることを認めている。機能面でもBOX(自分、他利用者の”お気に入り”をリストとしてまとめて閲覧。MERY公認ライターのBOXもチェックできる)を新設するなど、新たな要素を盛り込んだ。

山岸氏は「ゼロからのスタート、ゼロからの記事の積み上げが必要なだけに、かなり厳しい数字を想定していたが、読者の反応は想定以上にいい。徐々にファンが戻ってきてくれている実感はある」と話す。

ただし、前述したように、編集部で1つずつの画像について使用許可を求め、すべて揃わなければ公開されない仕組みであるため、契約ライターが作成する記事は日々増えているものの、記事公開のペースは上がらないというジレンマがある。「記事を読んでくれる読者はいるが、累積本数が少なく日々の掲載ペースにも限界があるため、読み始めると関連記事へのリンクも含めて、すぐに読み終えてしまう」(江端氏)。

今後、2〜3カ月を目処に画像の使用許諾のプロセスを迅速にするために、どうコミュニケーションするかを工夫し、また独自で画像のストックを作っていくなどの工夫をしていくことで記事掲載のペースを上げる計画だという。

MERYは完全にボトムアップ

MERYコンテンツ本部・副本部長の藤井敬也氏は、小学館で女性誌を長年編集してきたが、MERYの記事の作り方は「通常の雑誌とは完全に異なる」と話す。「雑誌の場合、編集長がコンセプトを決め、ラインナップを作って、それを下に降ろしていく形で全体のコンテンツを構成します。どういった情報を発信するのか、その方向性はそこで”寄せ”られていく。しかし、MERYは完全にボトムアップで上からの指示はありません」。

ライターに記事のテーマ設定さえ行わないし、どういうテーマ設定が”キテいる”とか”コレが流行ってるから集中的に取り上げて”といった指示、管理もないという。「実際にMERYに関わるまでは、もっとライターの書く記事に編集部が関与していると思いました。ところが私もはじめて現場に入った時は驚いたほど何も指示せず、自由にさせています」(藤井氏)。

”カワイイをもっとたくさん発信したい”と考えて公認ライターをつとめている女の子たちの多くが読者層で、まったく同じ目線で記事テーマを選び、書き口、表現方法なども、「ライターひとりひとりで異なることが、MERYの魅力」と藤井氏は言う。「たとえば、どんなテーマ設定でもタイトルや文章の中にプチプラ(プチプライスの略語で価格が安いこと、転じて価格は安いのにカワイイこと)と入れれば、そこそこビューは取れます。でもMERYの場合、筆者自身がプチプラだと思わなければキーワードとしては入りませんし、そもそも”プチプラでビューを取る”という意識がない。”カワイイ”の定義は女の子ごとに違う。多様な女の子たちに、それぞれが考えるカワイイを発信する環境、場を提供しているのがMERYということです」。

もっとも、自由に書かせるとは言っても、中身についてまったくノータッチではない。旧MERY時代に学生アルバイトで記事執筆をはじめ、そのままペロリに入社。サイト休止後も退職せずに復活を待っていたという女性社員に話を聞いた。

「契約ライターとして採用されると、著作権や書き方などについて必要な研修を受けるようになりました。校閲や編集のチェックも入ります。しかし、記事の内容に指示や制約はなく自由に自分が興味を持っていることについて記事を書ける環境が提供されています」

そう話すこの女性社員は、編集者としてテーマ設定や書き口を指導するのではなく、掲載記事のカテゴリバランスの偏りや、記事テーマを探すためのちょっとした気付きを与えることが主な役割だという。

「”これはイケてる。絶対に面白い”という自分の中の確信があって、一番面白いものがここで作れる。上から目線でシーズンに合わせたトレンドを作るのではなく、日常生活の中での喜怒哀楽や友人との楽しい時間などから記事の切り口を見つけて発信していく」(同じ女性社員)

そのやり方をアドバイスすることで、ライターの個性を活かし、校閲と編集を入れた後にもMERYらしさを失わずにいられるのだと説明した。

かつて若い女性たちを虜にしたMERYは、記事制作のプロセスとして、より洗練され、また社会的にも馴染みやすい形で二度目の立ち上げが行われているように見える。

読者の信頼を高めさえすれば…

しかし、コストアップになっているうえ、爆発的なページビューの創出をできているわけではない。こうした中で、以前のように広告主を引きつけることはできるだろうか。

「収益が得られるかどうかの前に、読者の信頼を取り戻すことがもっとも大切。質を高め、読者の信頼を高めさえすれば、結果として広告主からの信頼も得られる。その上で、以前と同じような価値を認めてもらい、ブランドの再認識をしてもらえれば、最終的にビジネスにつなげていけると考えています」(江端氏)

もっとも、旧MERYが読者の心を捉えていた時代と現在では市場環境は変化している。とりわけ、若い女性を対象としたファッション、コスメ情報との接触点は、オーソライズされた雑誌スタイルのメディアからインスタグラムへと変化してきた。MERYはそうしたSNS時代と雑誌時代、両方の発信スタイルをミックスした媒体とも言える。

藤井氏は次のように言う。

「確かにMERYが果たしていた役割を、現在のインスタグラムが取って代わった部分も少なからずあります。しかし、インスタグラムはあくまでも”写真が集まる場”。ハッシュタグやフォローする相手で情報をある程度選別できるとはいえ、情報が整理されているとは言えませんし、知りたい情報へと簡単には辿り着けません。写真をきっかけに”知りたい”と思っても、なかなかそれができない。欲しい商品がどこに売っているのか、もっと詳細な情報はどこにあるのか、あるいはその場所に行きたいけれど住所はどこなのか?など、わからないことが多いのでMERYの出番はあります」

「インスタグラムと似た視点で探すことができ、雑誌のように整理された情報に辿り着くことができる」という位置取りができるかどうか。そこが新生MERYの課題である。