航空機に搭載し、空中から発射される宇宙ロケットが存在します。地上から発射できる宇宙ロケットのほうが一般的であるなか、なぜわざわざ空中から発射するのでしょうか。

世界最大の翼幅を持つ巨大航空機、その役割は…?

 マイクロソフトの共同創業者として知られる実業家のポール・アレン氏が創設した、アメリカの宇宙ベンチャー企業ストラトローンチ・システムズが2017年5月末、長さ117mと世界最大の翼幅をもつ持つ航空機「ストラトローンチ」を公開しました。

 これは、機体に宇宙ロケットを搭載し空中で発射するための母機で、機体は双胴でボーイング747用のエンジンPW4056を6発搭載し、全長は約72mにもなります。


空中発射ロケットの母機となる航空機「ストラトローンチ」(画像:ストラトローンチ・システムズ)。

 翼幅117mという長さは、大型旅客機のエアバスA380が79.8m、大型輸送機のAn-225 「ムリヤ」が88.4mですので、「ストラトローンチ」の翼が他の大型機と比べてもいかに大きいかがわかります。

 また、機体の開発コストを抑えるために、ユナイテッド航空から中古で購入した2機のB747-400からエンジンをはじめ多くのパーツを流用しています。


世界最長の長さ117mの翼幅を持つ。

B747-400から流用したエンジンを6発搭載。

 前述のように、「ストラトローンチ」の用途は空中からロケットを発射するための母機です。これほど大きな母機を用意して、わざわざ空中からロケットを発射するのには、どのような理由があるのでしょうか。

空中発射ロケットのメリットとは?

 空中発射ロケットは母機が空中でロケットを発射するため、母機が離着陸する滑走路さえあれば発射が可能です。地上から発射する通常のロケットに比べ、発射場などの地上設備が不要で、コスト面で優位性があると言われています。

 また、地上からロケットを打ち上げる場合は気象条件が重要となりますが、天候が安定している成層圏からの発射は母機が離陸さえできれば可能となるため、地上の天候に左右されなくなります。そして、高高度では大気の密度や気圧が低くなるため、同出力のエンジンでも地上発射と比べてより重い機体を発射することが可能となります。

 ロケットの空中発射は、第二次世界大戦中にドイツで開発されたHs293のような航空機から発射するロケット噴射のミサイルにルーツがあると言えます。米ソ冷戦時代には、地上の弾道ミサイル発射基地が攻撃された場合の反撃措置の一環として、空中発射弾道ミサイルの研究開発が進みます。しかし、その後ミサイル発射基地の防御能力が向上したことや、航空機では地上基地や艦船に比べて必然的に搭載量が少なくなるため、研究開発は中止となりました。


開発計画が中止となった空中発射弾道ミサイル「スカイボルト」(画像:アメリカ空軍)。

 空中発射弾道ミサイルの研究は中止となりましたが、その技術を活かして空中発射ロケットの研究が進みます。

 アメリカ海軍の開発したロケット「パイロット2」はすべて打ち上げに失敗しましたが、アメリカのOSC(オービタル・サイエンシズ)社が開発した空中発射ロケット「ペガサス」は打ち上げ総数42回のうち37回で成功し、人工衛星打ち上げ用ロケットとして実用化されました。

立ちはだかるコストの問題、巨大化で解決?

 打ち上げコストが安くなると期待された空中発射ロケット「ペガサス」ですが、発射回数に関わらず母機の維持費は固定のため打ち上げ回数が増えないと、1回あたりの発射コストが高くなるというデメリットがありました。そして「ペガサス」は当初OCSが予想した受注数に至らなかっため、結果高コストとなり、さらに同社の弾道ミサイルを流用したより積載量の多い「ミノタウロスI」よりも高価になったため、その受注は減少したと言われています。


「ペガサス」を搭載した母機「スターゲイザー」。ベースはロッキード(現ロッキード・マーチン)L-1011「トライスター」(画像:NASA)。

「ストラトローンチ」が発射するロケットは、当初アメリカの宇宙ベンチャー企業スペースX社のロケットを使用する予定でしたが、同社のロケットでは長期的なビジネスモデルに合致しないとの理由で、契約が破談となりました。そして、今後は「ペガサス」を保有するOCSがロケットの開発を進めると発表しました。

「ペガサス」の低軌道への投入能力は、最新型の「ペガサスXL」で440kg。新たに開発する「ストラトローンチ」用ロケットは4500kgと、「ペガサス」の10倍以上の投入能力になっています。

 同ロケットは、2019年には初打ち上げを行う予定ですが、「ペガサス」では実現できなかった空中発射による低コスト化を、ロケットを巨大化する事でどこまで実現可能なのか、注目されるところです。

【写真】爆撃機B-52もかつては母機に


空中発射ロケット「ペガサス」の母機はかつて、爆撃機B-52BをNASAが改造した試験支援機NB-52Bが使用されていた。写真はB-52H(2017年、石津祐介撮影)