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週に何度でも、好きな場所で働けるモバイルワークを導入

近年、労働人口の減少や長時間労働の問題など、ワーク・ライフ・バランスの見直しを求める日本政府によって“働き方改革”が推進されている。さまざまなモノがネットワークにつながり、デジタル化が加速したことで働き方が多様化する今、大手菓子メーカーのカルビー株式会社(以下、カルビー)が時代の潮流に乗って、新たに導入したモバイルワーク制度に注目が集まっている。

カルビーが4月1日から、自宅に限らず、近所のカフェなど場所を問わず勤務することができる「モバイルワーク」という働き方を開始。多くの社員を抱えるカルビーが取り組むモバイルワークの概要や導入の経緯について、カルビー執行役員・人事総務本部本部長の江木忍氏(以下、江木氏)に話を聞いた。

カルビー株式会社・執行役員人事総務本部本部長・江木忍氏


「弊社のモバイルワークは、新卒入社3年以内の社員を除いた、オフィスワークの社員が利用できる制度です。モバイルワークの申請に必要なのは、直属の上司の許可のみなので、人事部の認可などの面倒な手続きはありません」(江木氏)

モバイルワーク制度の利用を求める従業員が申請書を直属の上司に提出し“社外でも自立して仕事ができる人物”と認められた社員に制度の利用許可が下り、週に何度でもモバイルワークが可能になるという。

「実際にモバイルワークをする際は、その旨と予定の業務内容を上司にメールで前日までに連絡を入れるだけ。当日には『これから仕事を始めます』と、上司に一通メールを送ります。その翌日に仕事の成果を簡単に報告するまでが、モバイルワークの基本的な流れです」

それぞれの一日のスケジュールは部署ごとに自社内のシステムで共有している。7年前からフリーアドレス制度を実施しているため、社員の所在は同システムでの把握が習慣化しているという。

「会社から支給されたノートPCとスマホがあれば滞りなく仕事ができる状態になっているので、特別なシステムは導入していません。また、モバイルワークしている日に会議がある場合はスマホを使ってテレカン(遠隔地会議)で参加するなど、個人個人が柔軟に対応していますね」

どこでも自由に仕事ができる時代、さまざまなデバイスを最大限に活用できるのも、モバイルワークの特徴なのだ。そのほかにも、同制度には多くのメリットがあるという。

通勤時間の節約や集中力アップなど利用社員にはメリット、管理職の不安は?

「1つ目のメリットは、通勤時間の節約になること。従業員の中には、通勤に往復で3時間かかる社員もいるので、出社する必要がなければ、そのぶん業務やプライベートな時間にあてることができます。また、自分だけで仕事をしていると外的要因が少なく、予定通りに業務が終わるという声もあるんです」

毎朝満員電車に揺られるビジネスマンにとって、通勤を避け好きな場所で仕事ができるモバイルワークは、夢のような制度かもしれない。

また、カルビーは、女性が働き続けるための環境整備や女性管理職の割合を増やすなど、積極的に女性活用を進めている。モバイルワークには、彼女たちにとっても多くのメリットがある、と、江木氏。

「子育て中の女性社員には、学校の授業参観や送迎など子どもに関わる用事がたくさんあります。弊社の制度ならば“半日モバイルワーク”もできるので、午前中は在宅勤務をして、午後は子どもの学校行事にあてられるなど、とても好評ですね」

制度の導入から1ヵ月が経ったが、現状ではモバイルワークのデメリットは感じていないとのこと。その一方で、制度導入の際には部下の仕事ぶりを確認できないなど、管理職側の不安の声はなかったのだろうか?

「弊社では2010年からフリーアドレス制度を導入しています。本社ではダーツシステムで自動的に座席を決めるため、固定のデスクはありません。部下の姿が見えないのは日常茶飯事なので、オフィスにいても在宅勤務でもそれほど違いはないんです」

カルビーのオフィス内観


フリーアドレス制度を皮切りに、2014年4月から週に2日を上限にした在宅勤務を実施。そののち、今回のモバイルワーク導入に至った。フリーアドレスから段階を踏んでの改革だったため、従業員のモバイルワークへの理解も早かったという。

「もちろん、モバイルワークに関する社内Q&Aを作成し、利用者に共有しています。そのほかセキュリティ面では、自社でも情報管理を徹底し、一部をアウトソーシングしています。ただ、セキュリティ面での課題を挙げるとすれば、自宅以外での作業中にディスプレイを覗き見されないよう注意し、トイレに立ったときにPCを持ち歩くなどの対応を心がけるなど、今後も啓発していく必要がありますね」

モバイルワークならではの課題はあるものの、従業員の人事面談をおこない改善点や社員のニーズに耳を傾けていく予定だ。

働き方改革実現の糸口は、経営トップの地道な努力にあり

カルビーはモバイルワークのほかにも、フレックスタイム制度や、早帰りデーの実施など、多様な働き方を導入している。こうした柔軟性の高い勤務形態を実現した背景には、同社が推し進めている「働き方改革」が深く関係している。

「2009年に、トップが松本(代表取締役会長兼CEO)と伊藤(代表取締役社長兼COO)という新体制に変わりました。これをきっかけに、従業員の働き方に関する方針も大きく変わり、その一環として採用されたのがモバイルワークだったのです」

モバイルワーク制度の導入には通勤時間を節約し、オフィス以外で効率よく働くことで、生産性の向上を目的としている。そのほかの勤務制度についても、目的は同じ。事実、経営トップが変わった2009年以降、増収増益。業績は右肩上がりだという。

「2010年に人事考課を廃止したので、弊社は効率よく仕事をして成果をあげた人を評価する完全成果型に変わりました。モバイルワークの場合は、いつどこで仕事をするかは自由ですが、本当に成果が上がっているかどうかは結果で評価します」

モバイルワークで個人の成果が上がらない場合は、許可を取り下げるなどの措置もあるという。カルビーが従業員の働き方と生産性の関係を重視する理由を、江木氏はこう語る。

「弊社の人事がめざす姿は『自立的に成長し成果を出し続ける人・組織』です。人の成長には充実した“自分の時間”が必要です。効率良く仕事をして自由になった時間を、趣味の時間や健康のために使うことが人を成長させ、ひいては企業の成長につなげるのが、大きな目標です」

カルビーでは、新体制になって以降、松本会長、伊藤社長を含めた経営幹部が全事業所の従業員と対話をする「タウンホールミーティング」を開催している。その際、経営方針をはじめ、ワーク・ライフ・バランスの大切さや、ダイバーシティの実現に向けた施策を説明するなどの取り組みも行っている。

タウンホールミーティングの様子


「タウンホールミーティングでは、経営上層部が、粘り強く“働き方”について啓発し、従業員からの質問にも答えます。何度も経営方針を共有することでモバイルワークのような新たな制度の導入にも、従業員側の理解が進みやすくなっています」

唐突に新しい制度を導入しても、制度本来の目的が伝わっていなければ宝の持ち腐れ。“人と企業の成長”という大きな目標を達成するためには、地道な努力が必須なのだ。

「今後も、働き方改革としてさまざまな制度を導入していく予定です。人事の制度や仕組み作りに終わりはないので、在宅勤務制度がモバイルワークになったように、もっともっと進化させていきたいですね」

人の数だけ働き方が存在する未来型の企業、その急先鋒としてカルビーが名を連ねる日も近い。

筆者:Kayo Majima (Seidansha)