三浦カズ一色といっては言いすぎだが、凄い騒ぎだ。その50歳の誕生日にJ2がスタート。そして、開幕戦に先発出場を果たした。メディアの号令の元、絶賛ムード一色に覆われている世の中に対して、思わず問いたくなる。「凄い!」の内訳について、だ。

 50歳で現役を続けていることが凄いのか。

 50歳にしてJ2のレベルにあることが凄いのか。

 後者だとすれば、J3だったらどうなのか。さらにその下のJFLならどうなのか。

 50歳を過ぎてもプロとして現役を続けられる競技と言えばゴルフだ。シニアツアーへ参加する資格が生まれるのは50歳以上。青木功さんのように、70歳を過ぎても出場する選手がいるのは、サッカーのような激しいアクションを求められていないことが大きな理由だ。とはいえ、ゴルフとて、年齢を重ねれば、飛距離が落ちる。シニアツアーが存在せず、レギュラーツアーしか存在しなければ、50歳以上の選手がシード権を獲ることは難しくなる。ツアー選手ではいられなくなる。
 
 Jリーグも同じことだ。2部(J2)が存在しなければ、カズが50歳を過ぎても、なお現役でいることはないはずだ。数年前、Jリーガーではなくなっていたに違いない。
 
 逆に言えば、いまの仕組みが維持される限り、大きな怪我さえしなければ、3年後だって現役続行は可能だ。J3、あるいはJFLならば務まる可能性がある。プロにこだわらなければ、それより下の地域リーグ、都道府県リーグという選択肢もある。

 海外のリーグに目を転じれば、1部リーグから5部、6部リーグまである。3部ぐらいから、ギャラは出場給のみ。出来高払いだ。選手は次第にプロなのかアマチュアなのか、微妙な位置づけになっていく。一方、各クラブには1軍のみならず、2軍以下も存在する。10軍まであるクラブを取材したこともある。プレイする環境は永遠に用意されているのだ。

 そういっても言い過ぎではないのが、サッカーという競技の特徴だ。その恩恵にあずかっているのがカズ。カズも凄いけれど、それと併せて語られるべきは、サッカーの特性。50歳の選手が、いまなお現役でいることは、それほど驚くべき話ではない。

 驚くべきは、それが横浜FCというJ2のクラブだと言うことだ。50歳になったカズが、相変わらず高いレベルを維持していることに驚くのか、横浜FC、ひいてはJ2のレベルの低さについて驚くべきか。どちらかと言えば後者だろう。だが、そこに言及するとストーリー的には面白くない。

 横浜FCが敢えてカズを起用しているという見立ても可能だ。メディアが煽ってくれれば、その分だけ集客力は増大する。ホームの三ツ沢で行われた開幕戦(対松本)。集まった観衆は13244人だった。

 少なく見積もっても、その7割方はカズ目当て。これでは先発で使わないわけにはいかない。何かに多少、目を瞑っても、だ。

 横浜FCは、それで試合にも勝った。カズに待望のゴールが生まれなかったとはいえ、すべてが丸く収まった格好だ。しかし、もし敗れてもそれほど大きな問題ではない。長いシーズン(全42試合)の1敗だ。入場料収入と天秤に掛ければ、むしろ美味しい話になる。クラブの思考法として、優勝よりも健全経営を第1に考えれば、むしろ妥当な選択になるのだ。

 昇格、優勝は建前。本音は違う。なにより存在することを優先するクラブは少なくない。地域に根ざしたチームを謳えば、なおさら、身の丈に合ったクラブ経営が求められる。最も怖いのは消滅。1部に昇格しても補強せず、敢えて意図的に1年で2部に落とそうとするクラブさえある。

 かつてチャンピオンズリーグで、決勝トーナメントを湧かせたデポルティーボが、スペインリーグの一介のクラブに立ち位置を後退させた理由もそこにある。03−04、ベスト4に進出した直後、クラブは「拡大路線をいつまでも続けていくと、クラブ財政は破綻する」と判断。CLからの撤退を決断したのだった。あと1、2人補強すれば、欧州一の座を狙えたというのに、だ。