高齢運転者、認知症ならば随時「免許取り消し」も 改正道交法、その狙いと懸念
道路交通法が2017年3月に改正されます。高齢運転者に「臨時認知機能検査」などが実施されるようになりますが、新制度に対する懸念の声も上がっています。
「3年に1度」から「違反したら随時」に
2017年3月12日(日)に道路交通法が改正され、そのなかで70歳以上の高齢運転者に対する運転免許制度が変わります。
これまで70歳以上の運転者には、3年に1度の免許更新時に適性試験や実車指導を行う3時間の高齢者講習が、75歳以上の運転者には2時間30分の高齢者講習と30分の認知機能検査が行われていました。今回の改正は大きなところで、75歳以上の運転者に対する「臨時認知機能検査」と「臨時高齢者講習」が新設されます。
「臨時認知機能検査」は、75歳以上の高齢運転者が、認知機能が低下したときに起こしやすい信号無視、通行区分違反、一時不停止などの違反行為をした場合に行われます。検査の内容はこれまでの認知機能検査と同じですが、ここで結果が以前よりも悪くなっている人は、「臨時高齢者講習」を受けることになります。
さらに、「臨時認知機能検査」で認知症のおそれがあると判定された人には、医師による診断を受けることが求められます。この結果、認知症と診断された人には、免許取り消し、または免許停止の措置が取られます。また、警察の求めに応じず「臨時認知機能検査」を受けなかった人も同様に、免許取り消し、または免許停止になります。
新制度では、違反行為をした場合の「臨時認知機能検査」「「臨時高齢者講習」が新設される(警察庁の資料をもとに乗りものニュース編集部で作成)。今回の高齢運転者に対する改正をかんたんにまとめると、75歳以上の運転者に対しては違反に応じて「臨時認知機能検査」や「臨時高齢者講習」が随時行われるようになります。また、免許更新時における高齢者講習の内容も、75歳未満の人全員と75歳以上で認知機能低下のおそれがない人は従来よりも簡略に、75歳以上で認知機能が低下しているおそれがある人と認知症のおそれがある人は、より高度になります。
認知機能に着目した新制度 運転をやめた人には何ができるか
警察庁は今回の新制度について、高齢運転者の認知機能を適切に把握し、認知症かどうか医師の判断を求める機会を増やし、事故の抑止につなげる狙いがあるといいます。全日本指定自動車教習所協会連合会によると、認知症と診断されたことによる運転免許取り消しなどの年間処分件数は、2009(平成21)年の228件から、2015年には1472件と約6.5倍に増加しています。
一方で、日本認知症学会をはじめとする4学会は合同で政府に対し2017年1月、改正道路交通法と高齢運転者の事故防止に向けた声明を発表しました。これによると、認知症の進行にともなう運転リスクは自明である一方で、ごく初期の認知症や軽度認知障害の人と一般高齢者のあいだで、運転行動の違いは必ずしも明らかではないといいます。運転不適格かどうかは、医学的診断に基づくのではなく、「実際の運転技能を実車テスト等により運転の専門家が判断する必要がある」といいます。
また声明では、運転を中止した人は生活範囲が狭まることなどから、公共交通の整備や、自動運転といった運転を代替する技術の開発により、運転中止者の「生活の質」が保証されるべきとしています。
今回の新制度が、事故を減らすだけでなく、運転を中止した高齢者に優しい社会づくりや、自動運転などの技術開発を推進することにつながっていくかもしれません。