ALFEEは「伝統」だった(写真は第32回大会の模様。Wikimedia Commonsより)

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見所のシーンだったのに、なぜ......お茶の間からそんな落胆の声が漏れ聞こえてきそうだ。

2017年1月29日の「第36回 大阪国際女子マラソン」での一幕、先頭集団の順位が入れ替わる、まさにその時。テレビのスピーカーから流れてきたのは、実況音声ではなく、ロックバンド「THE ALFEE」(以下、「ALFEE」)の曲だった。ツイッターなどでは、少なからぬ視聴者が「歌、いらんだろ」「レース展開が頭に入ってこない」とブーイングを飛ばしていた。

ギターソロ、アウトロまで入ったフルコーラス

ロンドン五輪代表の重友梨佐選手(29)が、5年ぶりの優勝を果たした17年大会。一番の見どころは、何といっても重友選手の驚異的な追い上げだった。重友選手はレース序盤、先頭集団から大きく離れていた。

しかし、粘り強くペースを保ち続け、20キロを過ぎてギアチェンジ。前の選手を次々と抜き去り、29キロ付近で2位の加藤岬選手をとらえた。

勢いを落とさず、トップの堀江美里選手を猛追。35キロ付近で追い越し、そのままゴールインした。多くの視聴者が、重友選手と堀江選手の熾烈な先頭争いを、テレビの前で固唾を飲んで見守っていたはずだ。

そんなシーンに思わぬ「横やり」が入った。重友選手が大阪城公園に入り、2位の加藤選手をとらえるシーンの直前だ。実況音声が途切れ、ALFEEの大会イメージソング『創造への楔(くさび)』が流れ始めたのだ。

ギターソロ、アウトロ(終結部)まで入ったフルコーラス。画面下に歌詞のテロップも表示される中、カメラは約4分間、重友選手が加藤選手に迫る様子を映しだしていた。まるで、マラソンシーンを使った音楽PV(プロモーションビデオ)のような風情すら漂っている。

そして、曲がフェードアウトし、「さぁ、2位が変わろうとしています」と実況音声が戻った瞬間、重友選手が2位に躍り出た。ALFEEの曲が流れたのは、まさにレースの変わり目となる追い上げの場面だったわけだ。

そのためか、ツイッターには

「萎える展開」
「レース展開が全然頭に入ってこなかった」
「歌、いらんだろ」

とブーイングが相次いだ。

「これがなければ大阪国際女子マラソンではない」の声も

一方で、

「この大会の伝統なのに」
「これがなければ大阪国際女子マラソンではない」

といった反論も少なくない。

というのも、ALFEEは1987年の第6回大会から30年にわたって大会のイメージソングを提供しているためだ(編注:95年は阪神・淡路大震災のため大会中止)。

第6回大会の『夢よ急げ』から、第23回大会(2004年)の『夜明けの星を目指して』までが収録されたベストアルバム『夢よ急げ -大阪国際女子マラソンイメージソング・アルバム-』も04年に発売されている。

曲が流れるタイミングも30年間ずっと変わらない。先頭集団が大阪城公園に差しかかる、あの場面だ。

産経スポーツ電子版の記事(17年1月30日付け)は「大阪城公園内は複雑なルートのため当時は中継電波などが途切れやすかったそうで...ならばどうする? となってそこはカンテレ。その難しさを逆手にとってその間だけでも『音楽を流そう』となったらしい」と1987年当時のエピソードを紹介している。

つまり、29歳の重友選手の生まれる前から、大阪国際女子マラソンにALFEEの曲は欠かせなくなっていたというわけだ。