日本ハムの大谷翔平が高いレベルでの「二刀流」を見せはじめている。まず、ここまでの大谷の成績を見てみたい。

投手成績/8試合/1勝4敗/69奪三振/防御率3.34
打者成績/26試合/打率.348/8本塁打/19打点
※成績はすべて5月20日現在

 昨シーズンは物足りなかった打者・大谷の成績が魅力的だ。本塁打はパ・リーグ3位で、明らかに少ない打席数を考えれば驚異的といえる。

 一方、投手の方では、防御率だけを見れば勝ち数と負け数が逆転していても不思議ではなく、完投数2もリーグトップ。しかし、最近4試合は3失点、4失点、4失点、5失点と乱調気味だ。いったい、昨年の最多勝投手に何が起きているのだろうか。

 解説者の岩本勉氏に、ここまでの大谷のピッチングについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「まず、開幕直後は打線の援護に恵まれませんでしたが、これは二刀流の弊害かもしれません。大谷の登板試合には、打席に大谷がいない。つまり、自分を援護することができないわけです。去年は、打線に大谷の名前がなくても、近藤健介などの活躍があって大きな問題にはなりませんでしたが、今年は大谷が打線の中心ですからね。大谷が打線にいないと、チームとしての得点能力が劣ってしまう」

 岩本氏は、大谷のピッチング自体には「問題が起きているとは思っていない」と話す。

「結果は伴っていませんが、去年と変わらず強いボールを投げています。160キロも連発していますし、ここまでは順調にきていると思います。なにより故障せずにやっていることが、すごいことだと思います。ただ、ピッチングが去年と変わっていないところで......そこで苦しんでいるように思います。ピッチャーって、毎年、マイナーチェンジする必要があるんです。たとえば、球種の順番を変えたり、相手の嫌がるところで攻めるのか、それとも自分の強いところで攻めるのか......とか。そこの瞬時の選択判断の処理速度をマウンドで上げていかないといけません。今、大谷は高いレベルの壁にぶつかっている最中です。一流のピッチャーになるための関門を通過中で、投球術を学んでいる最中なんですよ」

 ところで、今シーズンの大谷の投球データを眺めていて目を引いたのが、ストレートの被打率だ。昨年は.206だったが、今年のストレートの被打率は.283と悪化している。岩本氏は、「今年は打者にうまくやられている試合が多いですよね」と言って、5月15日の西武戦(札幌ドーム)での試合を例に出した。

 大谷はこの試合で自己最速となる162キロを2度計測した。結局、160キロ以上の球は7球あったが、6回を投げて7安打、5四球、5失点で敗戦投手となった。

 ちなみに今シーズン、西武戦の成績は0勝2敗、防御率6.00。昨年が5勝1敗、防御率1.71、一昨年が3勝1敗、防御率1.34。要するに、相手に研究されてきたということなのか。

「去年まではパワーで押し切ってアウトが取れていました。でも、今年は打者が大谷に対しての準備ができているわけです。大谷との対戦回数が増え、160キロのボールを体が覚えるようになった。15日の試合で印象的だったのは、メヒアが161キロの球を無理に引っ張ることなく、ライトフェンスを直撃した同点の二塁打です。あれは振り遅れではなく、ストレートは捕手寄りのポイントでいい、という準備があったから右手で押し込めた。そういう意味で、今年は大谷からヒットを打った選手のしてやったりの顔が多いですよね。事前の準備があって、想定内のバッティングができているからだと思いますね」

 また岩本氏は、「ピッチャーとしての生活時間が少ないことの影響が出てきたのかな」と言った。

「ピッチャーは、登板翌日は疲れを取り、そこから次の登板に向けて、逆算して練習をしていきます。出場しない試合でも、相手を観察して頭の中でピッチングするのも、ひとつの練習です。ところが、彼はその時間、打席にいるわけです。体を休める時間が少ないというのではなく、頭の中でのピッチャーとしての生活時間が圧倒的にほかの投手より少ない。それに対して打者たちは去年より大谷への準備をして打席に立つわけです。ただ、僕は心配していません。いずれは通らなければならない道ですし、大谷が若いうちに、それもシーズン序盤にこの苦しみが来てよかったと思います」

 この話を聞いて、あらためて大谷翔平のすごさを知った。大谷は打者として過ごす時間が少ないのに、日本ハム打線の軸として欠かせない存在になっている。また同時に、大谷の160キロが打たれ始めたことで、「僕たちはプロですから。160キロがくるとわかっていれば打てますよ」と言っていたプロの打者たちのすごさを再認識するのだった。

 はたして、「投手・大谷」と「打者・大谷」が並び立ったときに、どんな数字が並ぶのか。大谷翔平はやはり、夢のスケールが大きい野球選手なのである。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya