ついに決定した2020年東京五輪エンブレム。最終候補4作品および、ネット上で応募者がそれぞれ公開した自作品などを見るにつけ、最終的に選ばれた「組市松紋」の見事さが際立ってきます。

ご存じのように、オリンピックにはエンブレムとは別にオリンピックシンボルというものがあります。いわゆる五輪、5色の輪のことです。一方で、パラリンピックにもパラリンピックシンボルというものがあります。かつては5色の曲線でしたが、現在は赤・青・緑の3色の曲線がシンボルマークとされています。これは「スリー・アギトス」と呼ばれ、世界の国旗でもっとも多く採用されている3色を用い、人間の「動き」を表現したものだといいます。

<三色の曲線による、パラリンピックシンボル>
赤・青・緑のいわゆる三原色を用いている点や、人間の動きを表現している点など、パラリンピックシンボルの成りたちは「五輪」とはまったく無関係のものです。しかし、複数の色の同じ形のパーツが組み合わさっているという点において、どうしても同じようなものとして比較をしてしまう向きはあるでしょう。そのとき、オリンピックシンボルは5つパーツがあるのに、パラリンピックシンボルは3つしかパーツがないことに不足を感じてしまうのではないでしょうか。パラリンピックには何か五輪と比して「不足」でもあるかのようなイメージを持たせやすいシンボルとなっている。

今回決まったエンブレムは、そうした「不足」をまったく感じさせないものであり、かつオリンピックとパラリンピックをひとつ同じものとして等しく扱う意識が強く示されたものでした。制作者からは、それぞれのエンブレムに45個の同じ数のパーツを用いているというコンセプト説明がありましたが、オリンピックとパラリンピックを等しく扱おうとすればこその発想です。風神・雷神のように対になるものを示すのではなく、ふたつを等しく扱いながら誤認を避けることは、デザインとしても挑戦的なものだったはずです。

そして、45個のパーツで組み上げた形も同一性という意味で秀逸でした。ふたつのエンブレムは「輪」と「曲線」を成し、オリンピックシンボルとパラリンピックシンボルを模したものになっています。一見して誤認することのない、まったく異なる形状です。しかし、これを平面ではなく球体としてイメージしてみてください。藍色のボールに白い光のスポットが当たったようなものを想像すると、オリンピックエンブレムは正面から光を当てた場合であり、パラリンピックエンブレムは斜め上から光を当てた場合であり、同じ形のものを少しだけ違う角度から見たに過ぎないものであることがイメージされてきます。

応募作品などを見たときに感じるのは、多くの作品が「オリンピックエンブレムを考えた上で、似たような別物としてパラリンピックエンブレムを考案している」という点です。形を反転させたり、色を変えたり、パーツの数を増やしたり減らしたり。それはエンブレムとして区別をつける意味合いのデザインワークではありますが、結果的にオリンピックとパラリンピックの「違い」を強調する行為になっています。ふたつは別物ですよ、と。

その点で「組市松紋」は色も同じ、パーツの数も同じで、ふたつの大会の「同一性」を強調するものになっています。先に述べたように「球体として考えればふたつは同じモノをほんの少し別の角度から見たに過ぎない」ことも含め、オリンピックもパラリンピックも同じものなんだというメッセージが込められているととらえられるでしょう。

「組市松紋」はやがて訪れるであろう、オリンピックとパラリンピックの区別なく、誰もが等しくスポーツの祭典を楽しむことができる未来を強く意識したエンブレムです。それは極めて未来的・先進的な発想であり、「区別」することだけを考えて制作されたエンブレムとは決定的に異なる部分でしょう。オリンピックとパラリンピックが融合し、ひとつの大会となる未来像を描いたものとして、高く評価されるべきものと考えます。そうした未来像へ向かって、東京五輪の運営主体である日本・東京も邁進していこう、そんなフラッグシップとなるエンブレムではないでしょうか。

<「同一性」を強調し、オリンピックとパラリンピックをひとつ同じものとしてとらえた組市松紋エンブレム>
(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)