学生の窓口編集部

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おとなになっても楽しめる水族館。なかでも人気の高いラッコは「しかたなく」貝を食べているのはご存じでしょうか?

ウニやホタテなど高級食材ばかり食べているラッコは、なんてグルメな動物! と思われがちですが、じつは泳ぎがヘタすぎてほとんどの魚に逃げられる始末……やむを得ず貝類が主食になったのです。眠っているあいだに潮に流されて遭難したり、毛づくろいを怠るとおぼれてしまう、かわいい容姿から想像できないほど苦労の多い動物なのです。

■泳ぎがヘタな食いしん坊

愛嬌ある姿で人気のラッコは、分類上はネコの仲間。ただし系譜は非常にフクザツで、

 ・ネコ目(もく)

 ・イヌ亜目(あもく)

 ・クマ下目

 ・イタチ科

 ・カワウソ亜科

の「ラッコ属」と、クマ? カワウソ? いったいナニモノ? な血筋を持つ動物です。顔立ちやひとなつっこい性格からイヌの仲間に思ったひとも少なくないでしょうが、犬はネコ目イヌ亜目なのでこれも正解。ラッコの手のひらにはネコともイヌと同じ柔らかい肉球があることからも、親戚と呼べる関係なのがわかります。

なぜ貝ばかり食べているのでしょうか? ウニ、アワビ、ホタテなど高級食材ばかりを狙うのはグルメだからではなく、ラッコは泳ぎが大の苦手… さかなを捕って食べようとしても、逃げられてしまうからなのです。

ラッコの潜水時間は1〜2分程度と言われ、海で暮らすほ乳類のなかではズバ抜けて短時間……10〜20分は楽勝で潜れるアザラシと比べて10分の1程度ですから、エサを捕るのに大変不利な条件です。水族館では魚もフツウに与えられていますが、泳ぎがヘタすぎるため、自然界のラッコは魚捕りがヘタ。加えて皮下脂肪が極端に少なく、体温維持のために1日に体重の4分の1ものエサが必要なため、ラッコにとって食料の確保は頭の痛い話題。そのため容易に捕まえられる貝類が主食となったのです。

あお向けになって海面に浮かび、おなかのうえで石を使ってたたき割る姿はなんともかわいらしいのですが、普段のマイ石は「わきの下」のポケットに収納、ここにエサを入れておくこともあるようで、ちょっとクサそうすね…。

■ラッコは「毛」が命

海面に浮かび気ままな生活をしているように見えるラッコは、じつは人間が勝手に思っているだけの偏見。毛づくろいをサボればおぼれてしまうし、眠るときは「命づな」が必要、と、気苦労の絶えない動物なのです。

皮下脂肪の少ないラッコは、それだけでも水に浮きにくい構造なので、毛のあいだにたまった空気が浮力の元。そのため1平方センチあたり10万本と、ほ乳類のなかでももっとも「毛深い」動物といわれています。太いガードヘアーの下にはアンダーファーという柔らかい毛があり、ここにためた空気の層が浮力と同時に、寒さをしのぐ断熱材にもなっているのです。

ただし毛が多くても汚れてしまうと空気をためることができず、浮かばないどころか凍死の危険もあるため、毛づくろいは重要な仕事。足やおなかを「吹く」姿は、毛に空気を送り込んでいるのです。

眠るときも命がけで、潮に流され、目が覚めたら知らない場所に、なんてこともあるため、海草をからだに巻きつけ「命づな」つきで眠る様子も観察されています。水族館では安心しているのでしょうか、なにも巻かずに漂う、半身だけ上陸して眠るようですが、からだを縛ったままでは熟睡できそうにもありませんね。泳ぎがヘタ、浮かんでいるのもひと苦労、寝るにも注意が必要なのに海で暮らすラッコは、タフを超えてマゾな生き物なのかもしれません。

■まとめ

 ・水族館の人気者ラッコは、ネコの仲間

 ・手のひらにはプニプニの肉球がある

 ・ラッコが貝を食べているのは、泳ぎがヘタ過ぎて魚に逃げられた結果

 ・ほ乳類でもっとも毛深いといわれる動物で、毛の間にためた空気によって水に浮かぶ

(関口 寿/ガリレオワークス)