【福田正博フォーメーション進化論】

 日本代表は9月3日のW杯アジア2次予選で、カンボジアに3−0で勝利。勝ち点3を上積みした。

 代表監督の仕事において、勝利することが最大の責務なのだから評価すべきではあるが、試合内容は不満が残るものだった。対戦相手の技量を考えれば、3ゴールしか奪えなかったという現実に不安を覚える。

 W杯アジア2次予選の初戦だった6月のシンガポール戦は、引いてゴール前を固める相手に対して中央からの攻撃に終始していたが、カンボジア戦は同じように引いて守る相手に対して、無理に縦に急ぐことはなく、サイドを使いながら崩そうとした。戦術的な面から見れば改善を試みていたと思うが、今度はサイド攻撃ばかりになり、中央を使う意識が見られなかった。

 サッカーにおいて、攻撃は実はシンプルな側面もある。カンボジア戦のように、ゴール前を固めている相手に対して、中央を何回も使うことで相手の意識を中央に向けさせて守備陣を真ん中に集結させ、そのうえでサイドを使えば、サイドにできたスペースをより効果的に使える。

 その逆も然りで、サイドに相手の守備選手を引っ張り出すことができれば、中央にスペースができるのだから、今度はゴール前のスペースを活用すればいい。

 しかし、カンボジア戦の日本代表は右サイドから本田圭佑と酒井宏樹のコンビネーションで何度か崩してはいたが、中央へのドリブル突破や、中央への縦パスをあまり使わなかったので、相手の守備ブロックを大きく揺さぶることができていなかった。

 さらに、ターゲットとなる背の高いFWがいないことで、サイドを崩してクロスを入れても、サイド攻撃の威力は半減していた。

 サイドからのクロスでゴールを狙うのであれば、ゴール前には1トップのFWに加えてトップ下のほか、ボランチのどちらかとできればもうひとりがゴール前に連動して入るようにするべきであり、何よりも1トップには高さが武器の選手を起用すべきだろう。

 また、カンボジア戦に臨むにあたって、ハリルホジッチ監督はミドルレンジからのシュートを中盤の選手に意識させると言っていたが、所属クラブでミドルシュートを打つことが少ない日本人選手にそれを求めても、すぐにシュートが決まるはずがない。

 現在の日本代表は海外組が多く、「選手個々のシュートに対する意識は高い」と思われているかもしれないが、実際は違う。海外組の多くの選手が、所属クラブで求められているプレーは、味方のためにスペースを作ったり、ハードワークで守備をすること。それはつまり、チームのための献身的なプレーだ。彼らはその部分で評価されていることが多いのであって、積極的にシュートを打つことで評価されているわけではない。

 所属クラブで求められていないことを日本代表で急に求められても、その試合での意識は変わるかもしれないが、普段から重きを置いていないプレーの技術がすぐに向上することは難しい。実際、カンボジア戦の日本のミドルシュートの精度は高いとはいえず、タイミングの悪いシュートになってしまっていた。

 さらに、海外組は増えているが、守りを固める相手を崩すことが常のバルセロナやバイエルンのようなビッグクラブに所属する日本人選手はいない。サイドを使ったり、中央を突くプレーや、ドリブルで仕掛けたり、ミドルシュートを狙ったり、後方から前線に飛び込むプレーなど、引いて守る相手の守備を混乱させる攻撃のバリエーションを身につけている選手は少ない。

 そのため、選手が自分たちで戦況を見きわめてプレーするというより、ハリルホジッチ監督に指示された通りの攻撃に終始してしまったという印象だ。そのこともまた、引いて守る格下相手にゴール数を増やせなかった要因だろう。

 また、もっとも不安を覚えたのは、いまの日本代表に「余裕」を感じられないことだ。

 6月のW杯2次予選のシンガポール戦でスコアレスドローに終わり、8月の東アジアカップでは最下位。このためカンボジア戦では、ハリルホジッチ監督が選手以上に大きなプレッシャーを背負っていたように映った。そして、監督の「これ以上は絶対に失敗できない」というメンタリティは、先発メンバーのリストにも表れていた。

 4−2−3−1のワントップは岡崎慎司。3の両サイドは右が本田圭佑、左に武藤嘉紀。引いて守る相手に対して、高さが特長のFWやドリブラーを起用すればアクセントになって効果的であり、そのことを知識と経験が豊富なハリルホジッチ監督が考えないはずはない。にもかかわらず、ドリブル突破が得意な宇佐美貴史や原口元気を先発で使わず、GKの西川周作と武藤以外はW杯ブラジル大会と同じメンバーを起用した。

 つまり、本来は勝負にこだわってさまざまな策を講じる監督が、「代表経験の浅い選手を使って再び勝ち点を取りこぼしたら......と考えるほど追い込まれている」と思ってしまうような先発メンバーだった。

 そのため、今回招集した選手たちの長所を生かすための布陣を考える余裕もなかったのではないか。そして、監督が感じていたプレッシャーは、選手にも伝染していたのではないだろうか。とくに前半、「ゴールを奪わなくては」というプレッシャーから日本は本来の動きが見られなかった。

 9月8日には、次のアフガニスタン戦がイランのテヘランで行なわれる。その試合では、余裕をもって多くのゴールを決める日本代表を見たい。

 日本の個の力は、ブラジルやアルゼンチン、ドイツやスペインなどの強豪国より劣るのだから、ハリルホジッチ監督には、チーム力を最大限に引き出すために、日本人選手個々の長所を生かして、それをうまくまとめるマネジメント力を発揮してもらいたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro