【戸塚啓コラム】日本メディアでは報じられない武藤嘉紀のデビュー戦の真実
ドイツ在住の知人によれば、マインツの開幕戦は取材が大変だったそうだ。武藤嘉紀を目当てに日本のメディアが殺到し、いつもは穏やかなクラブの広報担当が表情を歪ませたという。
先週末に開幕した2015−16シーズンのブンデスリーガで、武藤嘉紀は日本メディアから熱い視線を注がれている。しかし新シーズンのマインツを客観的に見れば、補強ポイントは岡崎慎司の後釜だけではない。シャルケへ移籍したヨハネス・ガイスの抜けた中盤も、昨シーズン11位のチームには大きな関心事だ。
ところが、インゴルシュタットとの開幕戦に関する記事の多くは、チーム全体の現況を伝えていない。「武藤がスタメンから外れ、途中出場でリーガデビューを飾り、無得点に終わった」という事実を、武藤自身の言葉を交えて伝える記事がほとんどだった。
それが悪いとは言わない。
だが、インゴルシュタットの出来が昇格チームとは思えないほど素晴らしく、ガイスを失ったマインツの中盤が機能性を失っていた事実を明示しなければ、武藤が得点を奪えなかった核心には近づけないと思うのである。
残り15分を切った時点で、武藤は1トップとして送り込まれた。この時点で、インゴルシュタットは守備に軸足を置いていた。そもそもこの日の対戦相手には、長身選手が多い。高さと強さに優れる選手が揃っており、武藤にできることは非常に限られていた。
前を向いてボールを受けるどころか、ゴールに対して斜めの向きで受けることもなかった。この日のハイライトシーンを抽出すれば、チェイシングで相手DFを倒したシーンと、左サイドから持ち出したシーンのふたつしかなかった。
0対1のままスコアが動かないと、マルティン・シュミット監督は3枚目のカードを切った。センターバックの選手を、パワープレー要員として最前線へ配した。指揮官の采配はまったく奏功せず、マインツは0対1で敗れた。ホームの開幕戦を落とした。
この試合の敗戦に対して、武藤が物足りなさを残したところはない。彼にはチャンスがなかった、だから得点できなかった、というのがデビュー戦の真実である。
さて、2戦目以降である。
この先しばらくは、多くの日本メディアが武藤を追いかけるだろう。僕も早いうちにマインツへ行きたい。
現地へ行ったとしても、普通の空気感を作りたい、と思う。もう1試合、さらに1試合とゲームを重ねていき、それでも彼がリーグ戦でゴールを決められなかったら、日本のメディアは「まだか、まだか」と騒ぎ立てるに違いない。
果たしてそれが、武藤のためになるのか?答えは明らかである。
先週末に開幕した2015−16シーズンのブンデスリーガで、武藤嘉紀は日本メディアから熱い視線を注がれている。しかし新シーズンのマインツを客観的に見れば、補強ポイントは岡崎慎司の後釜だけではない。シャルケへ移籍したヨハネス・ガイスの抜けた中盤も、昨シーズン11位のチームには大きな関心事だ。
それが悪いとは言わない。
だが、インゴルシュタットの出来が昇格チームとは思えないほど素晴らしく、ガイスを失ったマインツの中盤が機能性を失っていた事実を明示しなければ、武藤が得点を奪えなかった核心には近づけないと思うのである。
残り15分を切った時点で、武藤は1トップとして送り込まれた。この時点で、インゴルシュタットは守備に軸足を置いていた。そもそもこの日の対戦相手には、長身選手が多い。高さと強さに優れる選手が揃っており、武藤にできることは非常に限られていた。
前を向いてボールを受けるどころか、ゴールに対して斜めの向きで受けることもなかった。この日のハイライトシーンを抽出すれば、チェイシングで相手DFを倒したシーンと、左サイドから持ち出したシーンのふたつしかなかった。
0対1のままスコアが動かないと、マルティン・シュミット監督は3枚目のカードを切った。センターバックの選手を、パワープレー要員として最前線へ配した。指揮官の采配はまったく奏功せず、マインツは0対1で敗れた。ホームの開幕戦を落とした。
この試合の敗戦に対して、武藤が物足りなさを残したところはない。彼にはチャンスがなかった、だから得点できなかった、というのがデビュー戦の真実である。
さて、2戦目以降である。
この先しばらくは、多くの日本メディアが武藤を追いかけるだろう。僕も早いうちにマインツへ行きたい。
現地へ行ったとしても、普通の空気感を作りたい、と思う。もう1試合、さらに1試合とゲームを重ねていき、それでも彼がリーグ戦でゴールを決められなかったら、日本のメディアは「まだか、まだか」と騒ぎ立てるに違いない。
果たしてそれが、武藤のためになるのか?答えは明らかである。
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している