2010年に長友佑都がイタリアのプロビンチャ(地方)のチーム、チェゼーナにやってきた時、人々は彼を暖かく迎えはしたが、どこかに違和感を覚えていた。

 チェゼーナのあるロマーニャ地方は、美味しい食べ物と、多くの名選手や監督(ザッケローニもこの地方出身だ)を輩出していることで有名である。チェゼーナの人はそれまで、日本人がサッカーをするところなど見たことがなかった。日本のスポーツといえば相撲しか思い浮かばなかった。

 しかしユウトはほんの数週間で、そんなロマーニャの人々の考えを完全に変えてしまった。彼はチェゼーナサポーターに愛され、サッカー選手として高く評価された。しかし、あまりにも高く評価されてしまったため、その半年後には大都会の名門チーム、インテルに引き抜かれてしまったのだ。

 インテルはチーム名の通り、非常にインターナショナルなチームでこれまで多くの国籍の選手がプレイしてきた。しかしここでも日本人選手は彼が初めてだった。インテルに来た長友はレジェンド、ハビエル・サネッティ(※)とも仲良くなり、ゴールを決めたあと彼と見せたお辞儀のパフォーマンスはインテリスタだけでなく、多くのサッカーファンの心に今も残っている。

※1995年から2014年までインテルに所属した元アルゼンチン代表のDF、MF。99年からはキャプテンを務めていた。

 2011年6月、インテルが長友を獲得した時、その金額は650万ユーロ(当時のレートで約7億5000万円)と決して安くはなかった。その1年半後には新たに契約を延長し、期間は2016年の6月までとなった。この合意はチームにとっても長友にとっても喜ばしいものだったが、しかしインテル自体の成績を見ると、めでたしめでたしとは言い難い状況だった。

 モウリーニョ・インテルがグランドスラムを成し遂げたのは、ほんの数年前(2010年)の話なのに、もう何十年も昔のことのように思える。チーム再生のプロジェクトは発進したかと思えばすぐにご破算となった。監督はティッシュペーパーのように、ほんの少し使っただけですぐに捨てられた。

 ベニテスはチームに溶け込めず、レオナルドは腰掛け程度。ガスペリーニは機能せず、ラニエリはすぐにギブアップ。ストラマチョーニは経験がなく、マッザーリは陰気すぎ......。こうしてインテルベンチにはまたロベルト・マンチーニ(※)が戻ってきた。

※現役時代はサンプドリアなどで活躍。引退後は指導者となり、マンチェスター・シティなどを指揮。インテル監督は2004〜2008年についで2度目。

 監督が目まぐるしく変わっていくインテルの中で、長友は常にピッチに立ってきた。昨シーズンまでのすべての監督は、いつも彼を重用していた。彼のキャップ数は、インテルの最初のシーズン、2011年の2月から6月までが19試合。その翌年は43試合、翌々年は35試合、そして4シーズン目となる昨季は36試合となる。つまり堂々のレギュラーだ。

 しかし、今シーズンはそれが一変してしまった。ここまで彼がプレイしたのはたったの14試合のみ。リーグ戦10試合、コッパ・イタリア1試合、ヨーロッパリーグ3試合。昨シーズンまでとの差は歴然としている。もちろん今シーズンはアジアカップがあり(かなり予想より早く終わってはしまったが......)、ケガに悩まされたことも影響したろう。

 2月8日のパレルモ戦で右太もも裏の筋肉を痛め、全治2ヵ月と診断された。しかし長友はリハビリを頑張り、3月の頭にはすでにプレイできる状態に戻っていた。しかし彼はその後もずっとベンチだ――。

 正直、マンチーニは、チームの調子が良くなくても、長友がその解決策になるとはあまり思っていないようだ。右サイドバックには通常ファン・ジェススを使い、左サイドにはダンブロージオ。その他、サイドバックにはジョナタン、カンパニャーロ、ドドもいる。長友にとっては決して楽観できる状況ではない。ポジションさえ確保できれば長友は活躍を見せられるだろうが、マンチーニはそうは思っていない。そのため長友は近い将来、新天地を目指す可能性が大いにある。そしてインテル側も、彼を売りに出す可能性がある。その根拠は大きく二つ。

1 マンチーニは長友をインテルに必要な選手とは思っていない。

2 もしこのタイミングで売らないと、2016年の6月には長友の移籍金はゼロとなってしまう。

 1ユーロも手に入らず選手を手放すことは、インテルのインドネシア人オーナー、エリック・トヒルもお気に召さないだろう。

 さて、そうなると長友はどこへ行くのか? 彼の代理人ロベルト佃氏は表向きには移籍を否定している。

「私はどこのチームからもコンタクトを受けていませんし、インテルのテクニカル・ディレクター、アウシリオ氏やマンチーニ監督とも、こうしたたぐいの話はしていません。ユウトはインテルで満足しており、彼から移籍したいと言ってきたことはありません。契約更新? それについての話し合いはまだしていませんが、期限の2016年6月はまだまだ先です。それまでには十分時間があります」

 しかし実際には長友がこの夏のカルチョメルカート(移籍市場)の対象になることはほぼ間違いないだろう。インテルは少し前からトリノ所属の25歳のサイドバック、マッテオ・ダルミアンの獲得に動いている。ダルミアンはすでにイタリア代表のレギュラーであり、年齢的にもビッグチームで活躍するに相応しい。

 ただトリノのウルバーノ・カイロ会長は、インテルがダルミアンを狙っていると知ると、たちまち2000万ユーロ(約26億円)に移籍金を釣り上げてきた。こういう場合の対処法としては、移籍金の一部に手持ちの選手をあてるというのが一般的だ。つまり長友がこの交換対象の選手になるかもしれないのだ。経験豊かで、すでにイタリアサッカーも熟知している長友のような選手を持つことは、トリノのジャンピエロ・ベントゥーラ監督もきっと歓迎するだろう。
 
 その他の可能性としてはプレミアリーグ行きも考えられる。伝統的にインテルは、イングランドのチームとの間に太いパイプを持っている。長友はスピーディーにサイドを上がり、ゴール前にクロスを出せる。ゴール前での空中戦が多いイングランドサッカーに適したスタイルで、イングランドではより活躍できるかもしれない。

 中でも可能性があるのが来シーズン久々にプレミアに戻ってくるワトフォードだ。ワトフォードは歌手のエルトン・ジョンが会長だったことでも有名だが、2011年からはウディネーゼなどのオーナーも務めるイタリアのポッツォ・ファミリーが経営している。つまり長友のことはよく知っているわけだ。こうなると長友はイギリスに行っても、結局イタリアとは完全には切れないことになる。彼もそれを悪くは思わないだろう。

 いずれにせよ、今夏、長友がインテルを離れる可能性は高いと言っていいだろう。

カルロ・ファッブリ●文text by Carlo Fabbri translation by Tonegawa Akiko