胎児期の網膜における毛様体縁の概要を示す図。緑:神経網膜(網膜)、灰:網膜色素上皮(RPE)、青:毛様体縁。毛様体縁は、神経網膜とRPEの境界領域に存在する。ヒトの毛様体縁の役割は、ほとんど分かっていなかった(理化学研究所の発表資料より)

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 理化学研究所の桑原篤客員研究員・永樂元次ユニットリーダーらによる研究グループは、ヒトES細胞から、毛様体縁幹細胞ニッチを含む立体網膜(複合網膜組織)を作製することに成功した。

 ES細胞やiPS細胞は、すべての種類の体細胞に分化する能力を持っており、目的とする細胞へと分化させる分化誘導法の開発は、激しい国際競争のなかで進められている。

 今回の研究では、まず基底膜抽出物を使わずに、分化培養の初期にBMP(骨形成因子)と呼ばれるシグナル作用物質を添加することで、効率よく網膜組織へと分化誘導させることのできるBMP法を開発した。さらに、揺り戻し法と呼ばれる神経網膜とRPEの間を行ったり来たりさせる方法によって細胞集団の運命を揺さぶることで、複合網膜組織を安定して40%程度の効率で作製できるようにした。

 その結果、胎児型網膜とよく似た、毛様体縁を含む立体網膜を作製することに成功し、ヒト毛様体縁には幹細胞が存在しており、この幹細胞が増殖する機能を発揮することで網膜を試験管内で成長させることが分かった。

 今後は、本研究成果をヒトiPS細胞にも適用することで、網膜色素変性を対象とした再生医療の実現に繋がると期待されている。

 なお、この内容は2月19日に「Nature Communications」に掲載された。