2015年シーズン最初のプレシーズンテストが、毎年恒例のマレーシア・セパンサーキットで2月4日から6日まで三日間のスケジュールで行なわれた。

 この三日間のテストでは、2013年と14年を連覇した21歳のチャンピオン、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が初日に最速タイムを記録。二日目には、3年ぶりの王座奪回に向けて捲土重来を期すホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が、唯一の1分59秒台に入れた。

 最終日の三日目は、ふたたびマルケスがトップ。1分59秒の壁を破り、非公式記録ながらセパンサーキット史上最速となる1分58秒867というタイムに到達した。

 このタイムには、MotoGPの公式サプライヤーとしてタイヤを提供するブリヂストンのモータースポーツタイヤ開発マネジャー、青木信治氏も驚きを隠さなかった。

「午前中はタイムアタックに最適なコンディションだったので、何名かの選手が59秒に入れるだろうと想像していました。しかし、まさか58秒台に入るとは......」と、やや絶句気味ながらも、自分たちのタイヤ開発の成果を予想以上に引き出してくれたマルケスの超絶的な走りに、思わず笑みがこぼれていた。

 当のマルケスは、このタイムアタックでのパフォーマンスもさることながら、三日間のテストで課題にしていたブレーキングとコーナーの進入、旋回にかけての挙動を改善できたことが大きな収穫だった、と話した。

「その領域はとてもよくなったのでハッピーなんだけど、コーナーの立ち上がりに課題が残った。バイクを引き起こして立ち上がっていく過程の中ほどで、加速でロスをしているんだ。その部分で、エッジグリップとトラクションがよくなれば、かなりの強さを発揮できると思う。次のテストでも試すアイテムはあるので、楽しみだよ」

 マルケスは2013年にMotoGPクラスへステップアップしてきた際に、それまでの選手たちとは異質な、独特のライディングスタイルで世界中を驚かせた。暴れるマシンに柔軟に対応し、どんな挙動でも完璧に乗りこなしてしまう才能は、たぐいまれな天性の技術だ。

「重要なのは、2015年仕様のバイクは、さらに改善できる余地がまだまだある、ということなんだ」

 マルケス自身は無邪気に笑いながらそう話すが、これらのコメントから、彼の飛び抜けた技術が、さらに一段高いステージへ向かいつつあるということがうかがえた。

 また、この日の走行では、選手たちはレース本番を想定したロングランも実施した。そこで最も水準の高い走りを見せたのは、マルケスのチームメイト、ダニ・ペドロサだった。毎年、あと少しのところでチャンピオンを逃してきたペドロサは、現在29歳。王座獲得へ、そろそろ正念場といっていい年齢にさしかかりつつある。

 午前中のタイムアタックでペドロサは、マルケスからわずか0.139秒差の1分59秒006を記録した。マルケスのタイムがなければ、セパンサーキットの非公式最速になっていたはずのラップタイムだ。

「ちょっと失敗してしまったのでこのタイムになったけど、それがなければ58秒には入っていたと思うよ。ミスしてこの数字だから、まあ、いいんじゃないかな」と相好を崩すペドロサの機嫌がいいのは、20周のロングランで誰よりも高水準のラップを刻むことができたからだ。

 10周回にわたって2分00秒をコンスタントに維持した走りは、内容でマルケスを上回る。ペドロサからベストタイムで0.395秒差の1分59秒401だったバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)も、この高いパフォーマンスは一頭地を抜いていた、と素直に認めている。

「レースシミュレーションでは、ダニが一番良かった。僕たちもそんなに離れてはいないけれども、もし今日が決勝レースだったならば、ホンダが勝っていただろうね。今年のダニは、去年よりも強いと思うよ」

 一方、ロッシは自分たち自身のテスト内容に関しては、初日に課題として挙げたブレーキングからコーナー進入が改善した、とその成果を挙げた。さらにロッシは、自分よりも年下のライバルたちとチャンピオン争いを続けるために、間もなく36歳になる現在も、ライディングフォームの改造に積極的に取り組み続けている。

「ライディングは、いまでも見直している。高い水準で争い続けようと思うと、方法はそれしかないんだ。去年は大きく前進することができた。でも、まだ改善する余地はある」

 ロッシのチームメイト、ロレンソもまた、自分自身の復活とチャンピオン奪回に向けて着々と地固めを続けている。今回のテストには、身体を絞り込んでベストのコンディションで乗りこんできた。

 ロレンソは、二日目にトップタイムを記録した際には「他のライダーと比較しても、大きなアドバンテージを感じるのは本当に久しぶりだ。こんな感覚、久しく感じたことがなかったよ」と、心身ともに大きな自信を取り戻しつつあることを強くアピールした。

 セパンサーキットで三日間にわたって行なわれた今回のテストでは、マルケスが予想どおりの圧倒的な速さを見せた一方で、それを追うペドロサ、ロッシ、ロレンソたちもそれぞれに自分たちの長所を伸ばし、今まで以上の強さを発揮しつつある。2015年シーズンも、この「4強」が互いにしのぎを削りあいながら、さらに激しく緊張感にみちた戦いを繰り広げてゆくのだろう。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira