遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第41回】

 Jプロツアー参戦4年目となるTeamUKYOを率いる片山右京が、日本人初の近代ツール・ド・フランス参戦を果たした今中大介を招き、計4回にわたって語り合った対談も最終回。最後は、TeamUKYOの将来について語り尽くす。

■片山右京×今中大介対談 【第4回】

―― 日本人チームとして欧州に挑もうとする片山右京さんにとって、究極の目標は何ですか?

片山:究極の目標は、「日本人の強い選手をどうやって育てるか」ということです。

今中:『鶏が先か、卵が先か』の話じゃないけれど、結局、そこに尽きちゃうんだよね。

片山:ヨーロッパに行ってみたけど(レースをしたら)遅かった......なんて、本末転倒ですからね。

今中:本当に自ら進んで追い込むことのできる選手じゃないと、強い選手には育たないですよね。ロードレースってものすごく苦しい競技で、何時間もその苦しみを味わい続けるから、どこかで妥協したくなるような人では、大成しない――。必要なのは、ガッツかな。

片山:ガッツって目に見えないからね。左胸にメーターでも付いていて、「ガッツ指数=9.8」とか光っていたら、誰にでも分かるんだけど。

今中:ガッツメーターね(笑)。たとえば、土井(雪広)君がTeamUKYOを強くしていったのと同じように、新城(幸也/チーム・ユーロップカー所属)君や別府(史之/トレック・ファクトリー・レーシング所属)君のような、本場の高いレベルを知っている人たちが周りにいて、彼らをお手本にすることで、若手が成長していけるような構図になればいいんですけどね。「自分たちは、ここまで行かなければいけないんだ」とか、「もうちょっと頑張ったら、もしかしたら少しは通用するようになるかも」というような、謙虚さと自信の両方を実感できる状況にならないといけない。

片山:選手って、どこで「化ける」かが分からないんですよね。自信がなくて、なかなか結果を残せなかった選手でも、何かの拍子で1回勝った瞬間に自信がついてガンガン行くから、どんどん強くなっていくことだってあるじゃないですか。

 僕はチームの代表として、ビジネスモデルを組み立てて選手たちを支える立場にはいるけれど、日々の練習の中で、「こいつは強くなりそうだな」とか、「ここをこうすればもっと成長するな」ということまでは分からない。そこはやはり、世界の頂点を経験している今中さんの目や、今も第一線の現役選手として走っている土井君からの視線じゃないと、判断できない部分だと思います。現実問題として、誰にでもたくさんチャンスをあげる――というわけにはいかないのが、難しいところです。

今中:さらに今の時代は、周囲に情報があまりにもたくさんあって、事前にいろんなことが分かりすぎてしまうから、チャレンジする前にあきらめちゃうのかもしれないですね。

片山:どんなスポーツでもそうだけど、悔しさとか、負けん気とか、何かをバネにしているほうが強かったりするでしょ? 僕の場合だって、レーシングスクールで英才教育を受けたわけじゃないけれど、F1まで行ったし、今中さんも自分で自転車を抱えてイタリアまで行って、ツール(・ド・フランス)を走るところまで行った。そんなふうに普段から、「あいつは負けん気が強いですよ」っていう部分を持っていなかったら、上には這い上がっていけないんじゃないかな。

 最近の子って、僕たちのころとはキャラクターが違っていて、本当は負けん気が強くて、悔しくて仕方がないのに、それを表面には出さなかったりする。

今中:でも、チーム内のライバル関係ってやっぱり出てくるし、出なきゃいけないとも思うんですよ。仲良しだと、どうしてもそこから這い上がっていく状況には、なかなかになりにくい。

片山:仲が良いうちは、本物じゃないかもね。

今中:そういう選手たちの上に、彼らを束ねていく絶対的な強さを持ったエースが別格として存在し、勝たなきゃいけないプレッシャーの中で戦い続ける経験や実力を見せつけられれば、(若手も)エースのために全力で働こうと思いますよ。そんなチームの中で頂点を目指している実感があって、そこで頑張り続ければ自分も何とかなると思ったら、選手たちもガムシャラになれるんじゃない?

片山:そういう経験をしたことのある選手って、うちのチームでは土井君しかいない。だから、定期的に今中さんが今のような話をTeamUKYOでしてくれると、選手たちにも大きな刺激になると思うんですよ。「クルマの世界ではね......」って僕がいくら言ってみたところで、「それはクルマの世界の話ですよ」って思われたら、それでおしまいだから。

今中:僕にできることがあれば、何でも言ってください。この間もサイクルモード(スポーツ自転車の総合展示会)で手伝ってくれた日大自転車部の選手たちと食事会で話をしていると、熱心にいろいろと聞いてくるんですよ。強くなれると思ったら、彼らは必死なんですよね。大学の方針や自分なりのやり方もあるだろうけど、「取り入れることができることなら、何でもやりたい」という強い意欲を感じました。

片山:どんどん火に薪を焼(く)べていくには、世界を知っている今中さんから彼らにどんどん話をしてあげないとダメなんですよ。そんな話をしてくれる大人って、なかなかいないんだもん。

今中:講義のような形式ではなくて、たとえば、ご飯を食べながら自然に話をできるようになるのが一番いいんでしょうね。

片山:今中さんの話は、すごくリアルなんですよ。なんといっても尊敬されているから。

今中:尊敬されているかどうかは怪しいけどね(笑)。

片山:うちの若い子に、「今中さんって知ってる?」って聞いたら、「あの自動車好きの人ですね。昔、自転車に乗っていたらしいけど」って言われたりしてね(笑)。俺だって、「お父さんから聞いたけど、片山さんって昔、自動車のレースをやってたんですね」って言われるくらいだから。

―― では、最後に2015年のTeamUKYOについて、それぞれひと言ずつお願いします。

片山:まずは、春のツアー・オブ・ジャパンで好成績を残したい。秋のジャパンカップは、今の僕たちにはまだレベルが高すぎて、優勝を狙うと言えるような状態ではないですから。

 そしてもうひとつ、絶対に落としちゃいけないのが、Jプロツアーの個人総合とチーム総合の両タイトル。ぶっちぎりで勝って、「日本ではTeamUKYOが名実ともにナンバーワンです」と言えるくらいじゃないと、「プロコンチネンタルを目指します」なんて、とても恥ずかしくて公言できない。だから、スタッフや選手たちにも、「そのために何が必要か、自分で考えてほしい。俺は2年後、3年後に必要となる橋を架けるために、土木工事を続ける。君たちは粛々(しゅくしゅく)と良いレースをして、俺たちやみんなに可能性を見せてくれ」と言っているんです。

今中:そのためには、頑張れる個人がひとりでもふたりでもズバ抜けた状態になってくれることが、2015年は求められると思います。たとえば土井君は、ブエルタ(・ア・エスパーニャ)を走っていたころの状態に自分を作り上げること――。大変な作業ですが、目標があれば、彼ならできると思います。それくらい強い気持ちで臨んで、ズバ抜けて強くなれば、他の選手たちもついてくる。スペインからも強力な選手が加入しますし、TeamUKYOへの期待感はすごくありますね。

片山:土井君がブエルタで走っていた時代のコンディションに戻れば、名実ともにTeamUKYOのエースとして活躍してくれるだろうし、土井君を(レースで)フリーにするために、今年から移籍してきた畑中(勇介)君が集団の中で若い選手たちをコントロールしてくれると思います。窪木(一茂)はトラックと掛け持ち(コラム「移籍1年目の窪木一茂が見る五輪の夢」参照)になるけれど、ロードに出るときにはスプリンターのエースとして期待しているし、住吉(宏太)や平井(栄一)、山本(隼)、湊(諒)という若手も伸びている。だから、2015年のTeamUKYOは日本人エースを中心に、若い選手たちが一丸となって動いていくことになります。

今中:そしてその先には、日本の既存のやり方ではない爆発的な力で、右京さんが目標を達成してくれる。多くの人がそれに期待しているし、求めています。なるべく一気に行けるように、そのためには周りの人たちの助けも必要ですが、もちろん、僕もできる限りの力を尽くします。なんといっても、それを束ねて進んでいける力が、右京さんにはあるんだから。

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira