遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第37回】

 選手のユニフォームを彩る、大小様々に散りばめられたスポンサーロゴ――。TeamUKYOをスポンサードしている企業のひとつに、国内最大手の地図情報会社『ZENRIN(ゼンリン)』がある。彼らはなぜ、自転車ロードレースチーム、そしてTeamUKYOをサポートしているのか、話を聞いてみた。

 TeamUKYOで活動する選手たちの姿を眺めたとき、大きく目に飛び込んでくる文字がある。彼らのユニフォームの胸に大書されている、『ZENRIN(ゼンリン)』という6文字のアルファベットだ。この文字は、胸部と同様の大きさで背中にも配置され、両袖や太もも部分にも記されている。

 おそらく、特別に勘が良い人ではなくとも、この文字を目にした人の大半が、「ああ、あのゼンリンか」と思い当たるのではないだろうか――。そう、これは国内最大の地図制作企業『株式会社ゼンリン』のロゴだ。同社広報室長の寺本広幸氏によれば、同社のブランドネーム浸透率は日本国内ではおそらく80〜90パーセントになるだろう、という。

 ゼンリンと、TeamUKYO代表・片山右京の交流の起源は、1990年代後半にさかのぼる。片山がF1を引退してル・マン24時間レースに参戦していた時代、当時副社長だった林秀美氏(現顧問)と意気投合し、それ以来、現在に至るまでゼンリンと片山右京は、スポンサー企業と選手・チーム代表という枠組みを超えた強い絆(きずな)で結ばれている。ちなみに、片山が2002年のダカールラリーに参戦した際には、林氏がナビゲーターを務めている。

 ゼンリンがTeamUKYOを応援する理由は、企業名の認知やブランドイメージ向上など、通常の広報・広告活動に加え、企業内部の士気向上という狙いもあるという。

「弊社は、『情報を地図化する世界一の企業を目指す』というビジョンを持っています。その観点から、アスリートたちが頂点を目指す姿には、おおいに共感するところがあるんです。片山右京さんの自転車チームも、最高峰のツール・ド・フランスに向かって戦っていて、その姿勢に対して我々は、住む世界が違っていても同じ目標を持った者同士として、心から応援をしています。

 右京さんや選手・スタッフの方々の、自分たちの目指す目標に向けてひたむきに戦うチャレンジスピリットを、社員のモチベーションにつなげていきたい......。実際に、多くの社員が右京さんたちの活動に励まされ、『自分たちも、それぞれの分野でトップを目指そう』と奮起していますし、それこそが彼らを支援する大きな理由のひとつなんです」(寺本氏)

 もちろん、企業が広告を打って支援する以上、その世界に対して何らかのビジネスチャンスを見い出してもいる。寺本氏によれば、自転車ユーザーに対する地図案内は、大きな可能性を秘めているという。

「移動する物に対しては、ルート案内や位置情報が必要不可欠です。自動車でいえば、カーナビ事業は誰しも簡単に想像できると思いますし、歩行者に対しても、スマホの地図や歩行者ナビというコンテンツに我々は地図を提供しています。では、自動車と歩行者の次は何かというと、自転車に乗った方に対してルート案内をする――というビジネスが生まれてきます。

 環境にも優しい『自転車』という乗り物は、近年、その様々な長所が改めて見直されており、都市交通の重要な要素として、自転車道の整備も各地で検討されていると聞きます。競技用自転車に限らず、ツーリングや気軽なサイクリングを楽しむ方々にも、立ち寄りコースの案内やビューポイントの紹介、お店情報など、今後は様々なコンテンツが必要不可欠になってくるのではないでしょうか」

 国内での知名度は充分に浸透しているゼンリンだが、日本国外でのビジネスは今後の大きな目標であり、課題でもある。その事業展開に向けて、TeamUKYOが、『ZENRIN』の大きなロゴを配したユニフォームでヨーロッパのレースを走ることは、大きな意義があるはずだ。

「欧州やアジアの方々が弊社の名前を聞いたとしても、『ZENRINってなんだ?』と、感じると思うんですよ。だから、まずはそこの周知からですね」

 寺本氏も、自分たちの現状をそのように把握したうえで、TeamUKYOの本場欧州での活動は自社の将来的な世界展開の大きな一助になる――と考えている。

「ヨーロッパでの自転車レースは、幅広い認知と長い歴史がある競技ですから、そこに参戦しているチームのウェアに『ZENRIN』と大きく記されていれば、それだけで大きなメデイア露出になるし、訴求効果があると思います。沿道の観戦者やテレビを観ている方々へ訴求することは、ビジネスのブランディングにも大いにつながります。

 TeamUKYOの他のスポンサーの皆様と比較して、弊社が特別に大きなブランド力を持っているわけでもないのに、選手のウェアの胸や背中に、あんなに大きくロゴを入れていただけているのは、長年のパートナーとして信頼関係を築かせていただいたおかげだと喜んでいるんです。

 そのジャージを着た選手が世界の頂点のレースを走って、世界各国の方々がご覧になる......と想像しただけで、本当に身震いがしますよ。だから、選手のみなさんにはヨーロッパのレースで走っていただかないと、我々としても困るんです(笑)。冗談はおいておくとしても、世界一を目指す彼らの夢には、弊社全員が心から応援をしているんです」

 片山右京とTeamUKYOの活動に強い共感をおぼえ、同じ高みを目指して夢を抱く者たちは、戦う場所が異なるビジネスの世界にもいるのだ。

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira