前々日オッズで1番人気のゴールドシップ。単勝人気は割れている

写真拡大

【中央競馬・今週の狙い馬】

 今年1年を締めくくるドリームレース・有馬記念(12月28日/中山競馬場/芝2500m)。G1馬10頭という豪華メンバーがそろった。トリッキーなコース形態と相まって予想も難解だが、「夢」を買うのがこのレースの流儀。今年もあなたの、そして私の夢が走ります!

「ユメ」を買って万馬券

 時効ということでお許しを願いたい。初めて馬券を購入したのは大学時代。1回生のときである。そして万馬券なるものをゲットしたのはその年の暮れ、1987年のことだ。

 田舎に帰省していた僕は有馬記念の当日にウインズ広島にいた。学生生活を送っている関西では土曜日と日曜日は競馬場で過ごす。京都競馬場と阪神競馬場で生観戦というのが常である。場外馬券売り場に足を運んだのはその日が初めてだった。この空気はなんだろう。競馬場とは明らかに違う。エスカレーターで最上階へ行き着く途中で、独特の雰囲気に気がつく。レースが進むにつれて周りのおっちゃんたちの言葉や眼光がやたらと心に響く。

 競馬場ではパドックで馬を観て返し馬をチェック。買い目を考え馬券を買えばすぐにレースが始まり終わる。その繰り返しで、まるでスポーツをしているように身体を動かし続けてあっという間に夕刻を迎える。場外馬券売り場では、画像のなかの人馬を目で追う。空いた場所に座り込み“静”に徹する。一喜一憂する人生の先輩に交っていると狭い空間もいいものだなと感じ始めた。

 やっぱり1番人気のメリーナイスか。サクラスターオーも外せないだろう。あれこれ思いを巡らせているうちに今度は伏兵の劇走が怖くなる。1枠のハシケンエルドとミスターブランデー。4枠のユーワジェームスがとりわけ不気味に映る。学生の身で金はない。100円単位だ。人気馬を中心にありきたりの馬券を買う。馬単も馬連もない時代である。枠連の1-1を追加すると軸から外れたいかにも不自然な馬券に見えた。

 そうだ、ユーワジェームスを忘れてはいけない。隣りにはメジロデュレン、前年の菊花賞馬だ。その瞬間にハッとした。えっ、ユメ? 4枠2頭の馬名の1文字目を横に読めば“夢”になる。ドリームレース、有馬記念。4-4を買おう。即座に決めた。

 ゲートが開いた瞬間、メリーナイスが落馬。悲鳴が上がる周囲を左隣りのおっちゃんがひと声で沈める。「大丈夫、まだカシマ(同枠のカシマウイング)がおる!」。呼応するように「そうじゃ、そうじゃ」と声が続く。いい大人がこんなにひとつになれるものなか。気がつけば僕も声を出していた。故障したサクラスターオーの姿が痛々しい。ゴール寸前で白い帽子2頭が先頭に出た。「うわっ、1-1や」と思ったと同時にするすると青帽のユーワジェームスが交わす。それ以上の勢いでメジロデュレンが真っ先にゴール板を駆け抜けた。

 4-4……。ざわめく場内。カシマのおっちゃんに「これ、当たっていますよね?」と思わず馬券を見せていた。「おう。凄いのう、にいちゃん。これ万馬券じゃ」と背中を叩いて一緒に喜んでくれた。

 それから数年後には競馬記者となり、毎年の春と秋にウインズ広島での馬券教室で解説させていただくようになった。たくさんの皆さんのお陰で、いまも夢をかなえさせていただきながら生きている。感謝を胸に今年も有馬記念に臨みます。

中山・阪神に良績集中のゴールドシップが本命!

 頑固で奔放。我が道を直進する印象が年々強まるゴールドシップだが、実は一番素直なのではないか。なにしろ明白に中山競馬場と阪神競馬場に良績が集中している。ほかの馬が体力を使う勝負どころや直線の坂を涼しい顔で乗り切るのだから素晴らしい。身体の線がきれいで眼がいい。心身ともに申し分のない状態だろう。

 フェノーメノはここ2戦での力を出し切っていないことで今回は右肩上がりで挑める。好位で流れに乗りしぶとさを生かす。

 ジャスタウェイは条件を問われない本物の強さの持ち主。距離は微妙に適性より長いが内回りコースなら対応可能だ。

 ケタ外れのパワーを保持するエピファネイア。6つのコーナーをプラスに活用できればスピードを持続できるはず。

 3着候補でトゥザワールドに注目したい。この季節は合う。兄トゥザグローリーからグランプリ・銅メダリストの血を受け継いでいても不思議ではない。

藤村和彦(ふじむらかずひこ)競馬解説者。1992年から2010年までデイリースポーツ社で記者、デスクとして中央競馬を担当。現在は、週刊『競馬ブック』誌上での「藤村和彦のインタビュールーム」連載、ラジオ関西「競馬ノススメ」(毎週土曜16時30分〜17時)レギュラーなど、フリーで競馬予想、競馬解説、コラム執筆などの活動をしている。公式サイト/

(Photo by JRA)