最新型スカイラインは、以前ここで紹介したヤツ(第15回参照)の次の世代にあたる。今回でなんと13代目! 初代スカイラインの発売は60年近くも前の1957年で、日本車ではトヨタ・クラウンに次いで長い歴史を持つ。継続は力なり。クルマにかぎらず長い歴史を持つ商品ということは、ずーっと一定以上の支持を受けてきたことを意味するわけで、それだけでツボではある。

 さて、この13代目スカイラインの日本発売は今年の2月。まずは"350GTハイブリッド"のみでのスタートだった。それは「最速ハイブリッド」を自認する高性能に加えて、世界初の「ステアbyワイヤ」と、最新ハイテクがテンコ盛り。ただ、このときに取り上げなかったのは、人間とクルマがつながる動力&操作系にハイテク効きすぎで、ワタシのようなオタクには「俺が操っている!」と実感できるツボが薄かったからだ。

 しかし、その後に追加された200GT-tは2.0リッターターボ。ハイブリッドではない。それまで全車標準だったステアbyワイヤ(室内のステアリングと前輪が切り離されて、完全電子制御で舵を切る)もオプション設定となった。今回の取材車もステアbyワイヤは非装着で、いわば最新の「素カイライン」である。

 ちなみに、この200GT-tのエンジンはオートマとセットで独ダイムラーから供給される。こういう業務提携は今やめずらしいものではないが、スカイラインみたいな看板商品の心臓を他社から......とは、日本企業の伝統的価値観では本来ありえない。ただ、とてつもなく複雑・高度化したクルマの要素技術をすべて自社でまかなうのはメチャ大変。10数年前にゴーン体制になってからの日産は、よくも悪くも、こういうクールな経営法が目立つ。

 というわけで、最新の素カイラインは、事前の期待どおりのツボな日産だった。最初のハイブリッドモデルでは気づかなかったが、こうしてハイテク抜きで味わうと、ボディはカッキーンと硬質。足まわりはいかにも精度高くて滑らか。「歴史的名車」とワタシが勝手に認定している先代スカイラインからバカマジメに正統進化している。基本的にはスパッと水平姿勢で曲がる現代風キャラだが、ブレーキを踏めばジワッとフロントが沈んで、微妙な操作にも精緻に反応して、手やお尻に繊細な接地感が伝わって......と、アナログな職人技がそこはかとなく薫るのがステキ。

 ダイムラーエンジンは同じドイツのBMWのそれより低音ザラザラ系で、美声ではないが迫力はある。オートマも滑らかさより変速のキレ優先なのが、スカイラインの走りにマッチしていて、乗るほどに「細かいところまで好き者エンジニアの配慮が行き届いているなあ」と感じさせるのがツボである。

 この200GT-tは前記のとおり、現行モデルとしてはハイテク少なめの素カイラインだが、最近話題のレーダーを駆使した事前察知安全性だけは主要グレードに標準となる。

 この種の安全技術では、海外ではボルボやメルセデス、日本ではスバルのアイサイトあたりが有名だが、じつは日産のそれもお世辞ぬきで世界トップ級。スカイラインでは前後左右のほぼ360度にレーダー網を張りめぐらせて、前方についてはアクセルとブレーキも自動制御する。

 たとえば前のクルマに近づきすぎた場合、他社システムの多くは「まずヒステリックに警告→最終手段で自動ブレーキ!」という感じだが、スカイラインは危機的状況でないかぎり、とくに警告もせず、クルマが勝手にアクセルペダルを押し戻して(これもリアクティブペダルというハイテク)、スーッと自動ブレーキをかける。そのブレーキの所作があまりに自然で穏やかなので、市街地を前走車についてトロトロ走っているだけだと、人間はブレーキを踏むのを忘れてしまうくらい。

 この種の自動安全技術は危険を回避しつつも「人間をいかに油断・依存させないか」がむずかしい。この日産スタイルには賛否両論あろうが、少なくとも技術はすごいし、「今後のクルマの安全はこうあるべし」みたいな技術陣の信念が伝わってくることは事実。

 最近の日産の国内戦略は一部の特殊なスポーツモデルを除けば、「日本人って、もうクルマが好きじゃないんでしょ?」というクールで冷めた印象は否めない。でも、こうしてスカイラインに乗ると、なんだかんだいっても日産の基礎研究レベルはいまだに高く、技術にアツい職人が残っているんだなあ......と、オタクのツボはしみじみと刺激されるのだ。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune