超高層ビルの立ち並ぶ上海。日本人駐在員が働く日中、その妻「太太」は何をしているのか!?

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海外駐在する夫に帯同する奥さんのことを、駐在員の妻、略して「駐妻」などと呼ぶことがあるが、中国では別な呼び方をする。
中国語で「奥さん」を意味する「太太(タイタイ)」がその呼び名である。
「駐妻」は、どちらかというとその立場を揶揄するようなニュアンスを含むので本人達は自称しないが、「太太」は奥さん以上の意味はあまりないので広範囲で使われている。

私は縁あって上海で働く駐在員なのだが、単身赴任なこともあり、太太の生活ぶりはよくわからない。
優雅な暮らしをしている一方で、人間関係がたいへんらしい、などという噂は聞こえてくるが実態はどうなのか。
今回、上海滞在歴がかなり長く、太太生活について酸いも甘いも知っているの3人の太太にインタビューする機会が得られた。知られざる太太の実態を少しでも皆様にお届け出来ればと思う。

――まずいきなり聞きますが太太同士の人間関係はやはりたいへんなのでしょうか? よく各会社に太太会があって上下関係が厳しいとか聞きますが。
太太A:うーん。確かに太太会が存在する会社は多くて、会合に行くのが面倒といった話は聞きますが、言うほどたいへんではないと思います。
太太B:上海は日本人が何万人の単位で住んでいるので、意外と日本人同士のつながりは薄いですよ。
太太A:規模が小さい蘇州市なんかは日本人がほぼ2つの建物に固まって住んでいるので、会社の人間関係が全部凝縮されてたいへんですよね。
太太C:何人かの太太が座って井戸端会議をしていたとき、その会社で一番偉い方の太太が通りがかった途端、そこにいた太太全員が一斉に立ち上がって挨拶したのを見たときは驚きました。女優の楽屋みたいな(笑)。

――旦那様が会社に行っている間の平日昼間、太太のみなさんは何をしているのでしょうか。
太太A:まずはっきりしておきたいのは、太太は基本的に帯同ビザなので働きたくとも働けません。
太太B:あとはこちらでは「アイさん」と呼ばれるお手伝いさんを雇い、家事をやってもらうケースが多いので、必然的に時間的余裕ができます。
太太A:時間的余裕があると何をするか。それは「習い事」です。これがある意味、生活の軸になります。
太太B:習い事に行って、その流れでメンバーとランチ、買い物へ流れるということが多いです。子供がいればいわゆる「ママ友」がメインになりますが、子供がいない太太は人間関係も含め習い事が全ての出発点ですね。

――習い事といっても色々ありますが。
太太A:最近流行りはポーセラーツ(注1)とかタッセル(注2)とか。あとは刺繍とか中国式の茶芸とかいうのもありますね。
注1:食器など白い磁器に特殊なシールを使って好みの柄や模様を焼き付ける趣味。 注2:房掛け。
太太B:音楽系も多いですね。昔は二胡など中国の楽器がメインでしたが、最近はバリエーションが増えました。あとはフラダンスが異様に多い。
太太C:以前、太太の習い事発表会があった際、朝から晩までいくつものグループがフラダンスばかりを披露し続けるという事態でした(笑)。

――中国語は習わないんですか?
太太B:ほとんどの人は赴任当初に習います。生活に必要なレベルの中国語だけ覚えてやめてしまう人もいれば、夫以上にバリバリ中国語をマスターして中国人の友達の方が多いような強者もいます。
太太A:上海は生活を日本語で済ませられる環境がかなり整っているので、何年も中国にいるのに全く中国語が出来ない太太も中にはいますよ。
太太C:普段使う中国語って、スーパーで「袋いりますか?」と聞かれたときの「いります(要(ヤオ))」「いりません(不要(ブーヤオ))」くらいですからね。

――なぜみんなそんなにも習い事を。
太太A:日本に比べて値段が安いのと、教室が特定の地域に固まってるので移動する手間が無いっていうのもあります。
太太C:あと上海は日本人が多いので、各分野のプロが住んでいるんですよ。だいたいどんな習い事でも探してみると日本人講師が必ずいますね。
太太B:和菓子教室までありますからね。中国なのに。
太太A:アフリカの民族楽器の教室に行ってる知り合いもいるんですが、そこは日本人の先生が、中国語で、アフリカの楽器を教えているっていうかなり謎な空間です。

――ランチはやはり豪華なところに?
太太B:これは人によりますね。近場の日本食レストランで住ませるという人も多い一方、毎日のように高級イタリアンみたいな人も、いることはいます。
太太C:ランチ時間に入ると見渡す限りみんな太太というレストランありますよ。社食かと思うくらいに。

――イメージですがエステなんかも行きますか?
太太A:エステも行かなくはないですが、それよりはマッサージとかの方が多いかも。
太太B:カッサとかカッピングとか。なので背中にマッサージ跡のガッツリついた太太、結構います。
太太C:あとはネイルサロンですかね。日本人太太って、服装は大概地味なんだけど、なぜかみなネイルは派手。

――服装地味なんですね。
太太A:地味ですね。あと、日本人太太は基本的に一人で歩かない。何人かでつるんでぞろぞろ歩く地味集団なので、遠くから見ても、あ、太太だってわかります。
太太B:みんな同じ服着て、同じ小物持ってるんですよ。日本人太太は口コミネットワークが凄く発達してるので、ある太太が、ここの仕立て屋で作ってもらった服が良い、ということになるとみんな同じところで同じもの頼むんですね。しかも何ヶ月も待って。

――日本人らしい同調性を感じますね。
太太B:例えば去年の冬なんかは、ダウンのロングコートをオーダーするのが流行って、黒とか紺とかのダウンロング集団が遠くに見えたら「あ、太太軍団だ」って言うくらいの状況。
太太C:一度、太太ネットワークの中で「良い」評価をもらえた業者さんは、太太相手の商売だけでやっていけますよね。
太太B:ああ、ツバメちゃんとか。

――ツバメちゃん?
太太A:ビーズアクセサリー職人でツバメちゃんという中国人がいて、上海太太ならみんな知ってます。
太太B:太太相手に即売会をやってて、太太ネットワークでそのお知らせが流れてくるんですよ。ツバメちゃんと太太ネットワークをつなぐパイプ役の太太さんが、なぜか何代にもわたって律儀に引き継がれている。
太太A:何がすごいって、ツバメちゃんは上海太太へのアクセサリー販売だけで、一戸建ての家を建てたということ。我々は「太太御殿」と呼んでます(笑)。

――皆さんは上海在住が長いですが、最近の傾向などありますか?
太太A:太太というと優雅な生活、と思う人が多いと思いますし、事実昔はそうだったのですが、こと上海に限っては最近当てはまらなくなってきています。
太太B:最近は、円安による夫の給料の目減り、物価水準の上昇、家賃の高騰などもあり、昔では考えられなかった「プア太太」も出てきてますね。
太太C:まだ少数派ではありますが、今後は増えるかもしれません。

――最後に、旅行者は普通行かない太太ならではのおすすめスポット情報など教えていただけますでしょうか。
太太A:上海市郊外の南翔はどうでしょう。上海最大の観光地預園にある南翔饅頭店の名前にもあるとおり、ここは小龍包発祥の地とも言われています(諸説あり)。色んな種類の小龍包を、日本や上海市内では考えられないほど安い値段でたらふく食べられます。

――ありがとうございました

今回のインタビューで、ごくごく一部ではあるものの、上海太太の生活実態を垣間見ることが出来た。
人間関係は思ったよりは大変ではない一方、生活は徐々に優雅ではなくなっているようだ。
しかし、ツバメちゃんに比べれば、私はまだ太太ネットワークを理解出来ていない。彼女達の生活を更に深く理解するため、まずはフラダンスを習いにいくことから始めたい。
(前川ヤスタカ)