ロンドン側の発着駅セント・パンクラス

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英仏海峡を結ぶユーロトンネルが、今月で開業から20年を迎えた。同トンネルは、米エンパイア・ステートビル、ブラジル・パラグアイ国境のイタイプダム、カナダ・トロントのCNタワー、パナマ運河、オランダの北海デルタ計画(治水工事)、米サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジと並び、米土木学会が選ぶ「現代の七不思議」の1つに数えられているという。トンネル開業20周年を機会に、ユーロトンネルのコネタを集めてみた。

■列車ではなく馬で渡る予定だった? 
英仏海峡の下にトンネルを通す計画が持ち上がったのは、じつは約200年前の1802年。仏エンジニア、アルベール・マチューが英仏海峡にトンネルを作ることを提案した。オイルランプの灯りと馬車、海峡中央部に人口島を造成し、そこで馬を取り換えつつトンネル内を渡るという案だった。

その後もトンネル計画は持ち上がったり、採掘が行われたりしたが、現在のトンネルの工事は1988年に始まり、6年の歳月を要して1994年に開業した。工事には日本企業も参加した。英テレグラフ紙によれば、建設費用は当時46億5000万ポンド(約8000億円)かかり、現在の価値で120億ポンド(約2兆円)だそうだ。

陸上部分を含めた全長は50.45kmで、青函トンネル(53.85km)に次ぐ世界第2位の長さを誇る海底トンネルだ。海底部のみ比べると青函トンネルの23.3kmより長く、37.9kmで世界最長となる。

■英仏どちらが多く掘った?
採掘は英仏両方から進められたものの、ちょうど中間点で両者が出会ったわけではなく、英国側がより長い距離を掘っている。トンネルは鉄道が通る2本と、中央部の緊急用1本の3本セットだ。

海底からの深さは平均50mで、もっとも深いところは75m。11台の採掘機が使われ、総重量は1万2000トンとエッフェル塔より重い。ちなみに英国側の採掘機の1つは、今でも海峡下に埋められたままで、1つは2004年にインターネット・オークションサイト「イーベイ」にて3万9999ポンド(約690万円)で売られた。

工事には1万3000人が従事し、10人(そのうち8人は英国人)が建設中に亡くなった。

■どれくらいの人がトンネルを利用するのか?
ユーロトンネルは1日最大400本の列車が通り、5万人の乗客、6000台の乗用車と180台のバス、5万4000トンの貨物が運ばれる。昨年は2040万人が同トンネルを使って英仏間を行き来した。トンネルを通過するには約35分かかる。

なかでも自動車でトンネルを通過する人は圧倒的に英国人が多く、その割合は85%だそうだ。車でトンネル内を通過するためのシャトルトレインの長さは775mで、サッカー場(タッチライン)約8面分に当たる。

ユーロトンネルを走る列車であるユーロスターは、盲導犬以外のペットの乗車を禁じているが、シャトルトレインに車ごと乗る場合は、ペットもトンネルを通過できる。今まで100万匹を超える犬や猫が、英仏海峡の下を通ったという。

トンネルが封鎖される深刻な火災は、今までに1996年、2006年、2012年と3回起きている。もっともひどかったものが1996年11月18日に起きた火災で、500mに渡ってトンネルは損傷し、6カ月間運用に支障が出た。火災以外では2009年12月に起きた、寒気による電気系統のトラブルでユーロスターが立ち往生し、約2000人の乗客が16時間、水や食料も多くない状況で閉じ込められた事件が記憶に新しい。

■ユーロスターの今後は? 
現在、ロンドンとパリおよびブリュッセル(ベルギー)を結ぶユーロスターは、拡大が進められており、ロンドンからアムステルダム(オランダ)、ケルン(ドイツ)へも直通運転される予定だ。今の車両は仏版新幹線TGVを元にしたものだが、新型車両は独版新幹線ICEを製造するシーメンス社のものが選ばれている。
(加藤亨延)