▲『ダンゴムシの本 まるまる一冊だんごむしガイド〜探し方、飼い方、生態まで』(奥山風太郎・みのじ著:DU BOOKS刊)近年では大人が読んでも楽しいダンゴムシ本も出版。ダンゴムシの仲間としてフナムシまで紹介しているところに作者の心の広さを感じる。

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ダイオウグソクムシ。
昨今の深海生物人気の中でも、絶食状態で生き続けるなど奇妙な生態で注目を集める謎多き生き物。ぬいぐるみやiPhoneケースなどのグッズも作られ、一大ブームの様相になってきている。

その何とも気持ち悪くそれでいて愛らしい姿に魅せられ、ぜひ家に2、3匹飼ってみたいと思われる人も多いであろうが、現状は一般人が入手することからして至難の業。おとなしく水族館やネット動画で眺めるくらいしか出来ないのが現状である。そんなダイオウグソクムシっぽいものを飼いたい欲満々のあなたにオススメの身近な生き物を紹介したい。

ダンゴムシである。

サイズは1/50くらいにぐっと小さくなるが、ダイオウグソクムシとダンゴムシは同じ等脚類。
ダイオウグソクムシを「でっかいダンゴムシ」と喩える人がいるように、ダンゴムシを「ちっちゃいダイオウグソクムシ」だと思って飼育してみませんか、というのがこの文章の趣旨である。

え、あの公園の石の下にいるやつでしょ? 虫はちょっとなあ、という人もいるだろう。しかし、ダンゴ「ムシ」という名前ではあるが、どちらかというと彼らはエビとかカニとかに近い部類である。
そう言われるとかなりとっつきやすくなるのではないだろうか。カブトエビとか学研の付録で飼ってたじゃない、ほら、それそれ。

いや、エビとかカニとかいうけどフナムシも同じ仲間でしょ、という人もいるかもしれない。それは事実ではある。事実ではあるが、伏せておきたい。
フナムシの名前を出した途端に、大概の人はあの波止場でカサカサ動くやつの姿を思い出しどん引きである。ダンゴムシを薦める文章でフナムシの名前は決して出してはいけない。合コンのメンバーでいえば「えーと来るのは、山田と橋本とか」でいうところの「とか」に入るのがフナムシだ。

で、ダンゴムシである。
以前から小学生には大人気の彼ら。しかし、最近では、子供向けの図鑑、絵本にとどまらず、明らかに大人を意識した書籍やTシャツなども販売されている。
ダイオウグソクムシのように勢いあふれるブームではないものの、大人ダンゴムシブームは静かにキテいるのだ。

実は、私はかれこれ5年ほどダンゴムシを飼っている。しかも飼育場所は室内の鉢植えの中である。
もともと、はじめからダンゴムシを飼おうと思っていたわけではなく、鉢植え植物の土を入れ替えたりしているうちにいつの間にか棲みついてしまったのがきっかけである。正直、鉢内にダンゴムシを見つけたときは「うわっ!ダンゴムシ棲みついてやがる!」と思ったのだが、だんだんと愛おしくなり、今となっては立派なペットとなっている。

5年間飼ってみてつくづく思うのは「ダンゴムシは飼育が楽な生き物」であり、「樹木を植えた鉢で飼う方法がベスト」ということ。
ダンゴムシブリーダーの私が、みなさんにこの思いを共有するべく、オススメ理由を以下に詳しく説明していこうと思う。これを読み終われば、すぐに皆さんは公園にダンゴムシ採集に行くに違いない。

(1)ダンゴムシは何でも食べる
ダンゴムシは雑食性である。雑食といっても肉も草もくらいの半端な雑食ではない。土とかコンクリートも食べる。
もちろん好き嫌いはあり、好物のピーマンをあげたときの喜びようは半端なかったりするが、高級なエサなど買わずとも適当な残飯を入れておけば食べてくれるのだから楽である。
一部のダイオウグソクムシが数年にわたって絶食しても生き続けたという例が話題になったが、鉢植えで飼うならばダンゴムシにあえてエサを与える必要すらない。彼らは鉢植えの土を食べれば生きていけるし、時折落ちてくる枯葉も一つ残らず食べてくれるからだ。もちろん鉢植えで飼う場合、その植物の葉も食べてしまうリスクはあるが、固い木は食べないので、樹木であれば安心である。

(2)ダンゴムシに毎日何かをしてあげる必要はない
熱帯魚などの手間のかかるペットを飼っていると、やれ毎日水をかえろだの、ブクブクするやつのフィルターをかえろだのめんどくさい定期作業が必要になる。ダンゴムシにはそういった配慮は必要ない。唯一ある留意点とすれば、ダンゴムシは湿ったところが好きなので土を湿らせた方がよいことくらい。鉢植え飼いの場合は、木に水をやる程度の頻度で大丈夫。

(3)ダンゴムシは意外と壁を登らない
我が家の場合、室内の鉢植えに棲みついていることもあって、当初、人間の居住空間にホイホイとはみ出してくることが懸念されたが杞憂であった。ダンゴムシはめったに壁を乗り越えてこない。ダンゴムシに垂直壁登り能力がないわけではない(よく木は登っている)のだが、ある程度の高さがあれば、土の上の方が気持ちいいので乗り越えてこないようである。フナムシだとそんなことはおかまいなしに登ると思う。

(4)ダンゴムシは死んでもよくわからない
動物を飼っているとどうしてもその死に直面しなくてはならないことがある。ペットの死は多くの人にとってトラウマになる。しかしダンゴムシは死ぬと周りのダンゴムシ仲間が分解してくれるので、すぐに土に帰っていく。また、増殖能力が高いので、そもそも名前をつけたり感情移入する間もなく増えたり減ったりするため、哀しみの気持ちが起きないのだ。

(5)ダンゴムシはこちらの呼びかけに反応する
ムシであるからしてこちらの呼びかけに反応したりはしないと思われるだろう。その答えは否。ダンゴムシは呼気に結構敏感で、のぞきこんで鼻息がかかっただけで、慌ててもぞもぞ動きだす。そのさまはなかなかに可愛い。

(6)ダンゴムシ社会を観察するのは楽しい
ダンゴムシは、ある程度時間がたつとかなり量が増えてくる。脱皮を繰り返して1.5cm級に大きくなっている個体もいれば、1mmにも満たない赤ちゃんダンゴムシもいて、それぞれが仲良くエサを食べている様子は微笑ましい。ダンゴムシは雌雄で外見が異なるのだが(黒光りしているのがオス、少し色が薄く背中に模様があるのがメス)、時には交尾をめぐって恋の鞘あてもあったりする。

(7)ダンゴムシは植物の生育に良い
これは鉢植えの中で飼う人限定だが、ダンゴムシがいることで土が良くなり植物がよく生育している(気のせいかもしれない)。新芽を食べてしまうなど食いしん坊ゆえのトラブルはあるが、基本的に植物にとってはむしろプラスの要素が強い。

(8)今からでも始められる
もしあなたの家に観葉植物の鉢があるならば、ダンゴムシを飼い始めるのにペットショップに行く必要は無い。都会のちょっとした公園で、石をどけてみれば彼らはそこにいる。傷つけないようにオスとメスを捕まえたら、あとは増えるのを待つだけ。スマホアプリでペットゲームを始めるより簡単だ。

どうだろう。これほどに手間がかからず愛おしいペットはなかなかいないのではないだろうか。

え?まだわからない?
そんな人はフナムシでも飼っててください。
(前川ヤスタカ)