『生きる力ってなんですか?』(日経BP社)。親子で読んで話し合うことができるシリーズの第2弾。内田樹さん、乙武洋匡さん、西原理恵子さん、C.W.ニコルさん、椎名誠さん、高濱正伸さん、三浦雄一郎さんの7人が子どもにもわかる言葉で語っている。

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変化が早くて先行き不透明な現在、単なる知識や学歴ではなく真の意味での“生きる力”が求められている―というような言説を聞く機会が最近多い。でも“生きる力”ってなんだろう?

そんな疑問に内田樹さん、乙武洋匡さん、西原理恵子さん、C.W.ニコルさんなど、各界を代表する知性とタフさを兼ね備えた才能が答えてくれている本が5月7日に発売された。

タイトルはずばり『生きる力ってなんですか?』(日経BP社)。上記の4名に椎名誠さん、高濱正伸さん、三浦雄一郎さんを加えた7名の識者が、それぞれの立場で語ってくれている。

本書には、語り口が子ども編と大人編の2種類用意されているという面白い特徴がある。大人なら誰しも生きる力について考えることもあるかも知れないが、未来のある子どもたちにこそ一流の人物の意見を聞く意味は大きいだろう。

企画・編著した育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんに話を聞いてみた。

「2011年から実施されている新学習指導要領で『生きる力』を育むことが大きなテーマに掲げられています。総論としてはいいことだと思うのですが、『生きる力』といっても様々な考え方があるので、どういう考えがあるかをあやふやにしたまま『生きる力』という言葉を一人歩きさせるのは危険だと感じました。そこで各界の『生きる力』が強そうな方にお話を伺ってみることにしたんです」

その答えは7人7様だ。たとえば乙武さんは自身の教員生活から、休み時間にわざわざトイレにいっていいかの許可を求めてくる生徒や、自分のノートの改ページの指示まで求めてくる“指示待ち”の生徒を引き合いに出しながら語っており、三浦さんは76歳でスキーのジャンプに失敗し大怪我をしてから80歳でエベレスト最高齢登頂を成功させた経験を交えて語っている。

「内田さんは個人として危険を脱して生き延びる力、世界中を旅している椎名さんやニコルさんは地球環境を含めて全体的に考えること、三浦さんは生きる本能を最大化させ動物として強くなること、高濱さんは人間の中で生きていくコミュニケーションの話、乙武さん、西原さんはよりよく生きるためには、というようなことを語っています。様々な視点があり、自分が考えもしなかったアプローチに触れることができるのはとてもためになります」

生きていくこと自体、自分とは異なる多様な価値観との軋轢をくぐり抜けることでもあるわけだから、本書の様々な角度からの意見に触れることがすなわち生きる力をスケールアップしてくれるという構造にもなっている。
それぞれの識者の意見は本を手にとって確認して頂くとして、おおたさん自身に「生きる力」とは?という質問をぶつけてみた。

「まずスタンスとしては一生懸命であること。その上で“力”として必要なものは極論すると教養なのではないかと思ってます。教養を身につけていくことは“虫の目(細部を見る力)”、“魚の目(流れを見る力)”、“鳥の目(高所から俯瞰する力)”を高めていくことと言い替えることができます。教養を高めた上で体験や場数を踏んでいくと、予期せぬ事態が起きたときにも瞬時に正しい判断ができる能力が養われるのではないかと思います」

「そう考えると、なんだかんだ言ってやはり勉強はできた方がいいんですよね。『生きる力』は一般的に正解のない問題に対して最適解を見つけていくということや課題自体を見つけていく力と言われていますが、正解のある問題さえできないのに、正解のない問題に突き向かっていけるわけがないと思います」

おおたさんの意見に「言ってることはもっともだと思うけど、結論がお勉強というのはなんだか」とモヤモヤした気持ちになっている人もいるかも知れない。そういう人はとりあえず、本書を読んで他の7名の識者の意見を参考にしながら自分の考えをまとめてみるのがオススメだ。
(鶴賀太郎)