ベートーヴェンの意外な素顔をマンガで楽しむ『運命と呼ばないで』

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ベートーヴェンといえばクラシック界を代表する音楽家の一人。どんな人でも顔や名前、代表曲の『運命』くらいは知っている巨匠だ。
では、ベートーヴェンはどんな人物だったのだろうか。難聴という不運に見舞われたにも関わらず作曲家として名を馳せたことは有名だが、教科書に載っているような情報以外はあまり知らないのでは?

そんな彼の半生を描いたマンガ『ベートーヴェン4コマ劇場 ー運命と呼ばないで』が、4月22日に発売される。もともとクラシックの大手レーベル「ナクソス・ジャパン」のウェブサイトで連載されていたものだが、ベートーヴェンがオヤジギャグを連発したり、ポカをした弟子に“ギロチンチョップ”なる必殺技を繰り出したりと、ちょっと、いやかなりくだけた内容なのである。

このナクソス・ジャパンからは、これまでにも『交響戦艦ショスタコーヴィチ』などインパクトのありすぎるコンピレーションアルバムがリリースされ、Twitter界隈で話題に。昨年のクラシックの大型フェス「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」では、エリック・サティのコンピ盤発売にちなんで帽子とメガネでサティのコスプレをしたスタッフが、彼が愛したというシュークリームの手作りオブジェを配るなどの企画を実施したりと、業界内でもかなり異彩を放っているレーベルだ。
このマンガ連載をスタートした経緯などについて、スタッフの長門さんと堀さんに話をうかがった。

――これまではクラシックのレーベルって、ちょっと敷居が高いイメージがあったんですよね。どんなきっかけでこういうプロモーションをされるようになったんですか?
「僕らはCDではなく音楽配信のチームなんですが、販促のためにTwitterなどのSNSを使って試行錯誤していく中でこういうふざけたテンションにたどりついたんです。以前からコンピレーション作品はネタものも含めていろいろ出していたんですけれども、ヒーローアニメのサントラ風の重厚感のある曲を集めた『交響戦艦ショスタコーヴィチ』が、まずTwitter上で大いに反応があって。“次回作が出るならこんなタイトルがいい”だとか、ファンの方々もハッシュタグを作っていろいろ提案してくれたりしたんですね。じゃあ、思い切ってCDを出そう!と。それをのちに“交響戦艦シリーズ”としてシリーズ化しました」(長門)

――あのシリーズは、ライナーノートがライトノベル風のストーリー仕立てになっていたり遊び心にあふれていて。あのシリーズが今回のマンガにつながっていったと。
「そうですね。一般的なクラシックブームといえば2006年のトリノオリンピックで荒川静香さんが“イナバウアー”の時に使った『トゥーランドット』が脚光を浴びたり、『のだめカンタービレ』がアニメやドラマ化で大ヒットしたりして、その間接的な影響でうちの作品が注目されたことはあったんです。でも、これからは自分たちからそういうコンテンツを発信していかないとということで、SNSを使ったりだとか、実験的なことを始めたんですね。先ほどのコンピレーションシリーズでうちの企画を面白がってくれる方々もついてくれたので、“のだめ”には遠く及ばなくても、いつかコミックやアニメにできるかもしれないネタを考えようと。堀はもともとベートーヴェンの研究をしていたので、彼女が持っているアイデアや情熱をマンガに落とし込んでみたんです」(長門)

――マンガの原案を企業の方が担当するというのはありそうな話ですけど、この作品では堀さんがネーム(コマ割りや構図、セリフなどの下書き)まで担当されているとか。確実にお仕事の範囲を超えてますよね?
「そうですね、でも完全に私の趣味でやっているところもありますから(笑)。作画はベートーヴェンに詳しくて、クラシックの世界を愛情を持って描いてくれるIKEさんにお願いしました。マンガ自体はベートーヴェンの弟子のリースが書いた回想録をベースにしているので、描く前にその原文を読んでいただいたりして。あとは当時のオーケストラの楽器の配置が現在とは全然違うのでその図説ですとか、何か演奏しているシーンの背景用に該当曲の楽譜などの資料を参考にしてもらったりして、“わかる人が見ればわかる”ような作りになっています。ベートーヴェンのファンの方には細かいところまでこだわりが伝わるように、一方で全然知らない方にもストーリーを楽しんでもらえるように、特に前半はギャグも散りばめたコメディタッチにしていますね」(堀)

――実際のネームも見せていただいたんですけど、例えばマンガ家さんへの指示で“この三者のトライアングルを萌えっぽく!”(Op. 15 口絵部分)と書いてあったのが印象的で。
「ベートーヴェンと弟子のリースの関係性が、物語が進むにつれて弟子も成長してくるので少しづつ変遷していくのが見どころなんですけど、私自身が登場人物たちのヲタクみたいなところがあって、彼らのキャラクターに萌えてるんですよね。読者の方からも連載中にさまざまな反応をいただいたんですが、『このコマの描かれ方に萌えた』という感想が、個人的には一番うれしかったです」(堀)

――ちなみに“ギロチンチョップ”って本当にベートーヴェンが使ってたんですか?
「実際にそういう必殺技があったわけではないんですけれども(笑)、リースの書き残した記録によると、気に入らないことがあると容赦なくぶん殴られていたようなので……あと、当時はフランス革命直後なので、そういった時代性も少し表現できたらいいなと思って」(堀)

――なるほど。このマンガを読むとベートーヴェンをはじめ登場人物たちに親近感が湧くんですけども、ナクソスさんの、音楽家たちが愛した料理を実際に作って再現するブログ『巨匠たちの晩餐』なんかも含めて、クラシックの巨匠たちがすごく身近に感じられるような企画が多いですよね。
「“よくそこまでやるよね”と言われそうなヲタ精神も存分に発揮しつつ、僕らが好きでいろいろやっているということがリスナーの方々に伝わってくれたら一番うれしいですね」(長門)

単行本にはウェブで連載されていたものに、単行本のみの描きおろしページや解説を加えて発売。また、ストーリー中に登場する楽曲を収録した公式サウンドトラック『ズンドコマーチ頂上決戦』の配信も同時にスタートする。単行本化にあたりいったん終了したストーリー、実は堀さんの頭の中にはまだまだ続きがあるのだそう。

愛すべきキャラクターたちのその後はもちろん、さまざまな切り口でクラシックを楽しませてくれるレーベルの今後のはっちゃけぶりに注目したい。
(古知屋ジュン)

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