農家のお母さんたちとのふれあいも楽しい「ごっつお玉手箱列車」

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最近は観光列車が花盛り! グルメをテーマにしたものも多く、車内にいながらレストランさながらの料理を食べられることも珍しくない。だが、秋田内陸線の「ごっつお玉手箱列車」は、巷のグルメ列車とはひと味もふた味も違う。なんと、シェフは地元農家のお母さんたち。沿線の各駅で手作りの農家料理を次々と持ち込み、乗客にふるまってくれるのだ。

秋田内陸線は、その名のとおり、秋田の内陸を南北に縦貫するローカル線である。みちのくの小京都・角館駅から、マタギの里である阿仁合(あにあい)駅を抜け、世界一の大太鼓の里・鷹巣(たかのす)駅までを結ぶ全長94.2km。沿線には「日本の原風景」とも称されるのどかな自然が広がり、一年を通して、とにかくフォトジェニック。カラフルな内陸線の車体は風光明媚なこの土地によく映え、鉄道ファンのあいだでは有名だ。

そんな秋田内陸線の人気ナンバーワンの企画列車が、動く農家レストランこと、「ごっつお玉手箱列車」。“ごっつお”とは秋田弁で“ごちそう”の意味。実際に乗車してきたので、その様子をレポートしよう。

出発は角館駅から。まずはカラフルな車体の前で記念撮影をパチリ。シートは掘りごたつ式のテーブルで、足を延ばせて快適だ。乗客が全員乗り込んだところで、内陸線の佐藤さんが、
「こんな頭ですが、“ケガ”ないようにすすめて参ります」
と挨拶しながらツルツルの頭をなでると、ドッと笑いが起き、車内は一気に和やかなムードに。この日の参加者は約20名。秋田市など県内からの乗客が約半数、遠くは神奈川や埼玉など関東からの参加者もおり、外国人の姿もあった。

あらかじめテーブルに用意されていた「おしながき」を見ると、今日のメニューは全7品。出発前に早速「弘子さんの焼き栗」が配られる。日本一大きいともいわれる西明寺栗だそうで、食べてみると甘味もたっぷり。一品目からテンションが上がる!

ほどなくして、いざ出発。沿線の駅に止まるたびに、新たな料理が運び込まれ、配られていく。おしながきと言っても、「勝子さんのおかず」程度の説明なので、実際は見てのお楽しみ。次は何だろう? というワクワク感がたまらない。料理の合間に、
「ビールっこや酒っこもいかがですか〜? お茶っこ、いかがですか〜?」
と声がかかれば、すかさずあちこちで手が挙がり、プシュッという音と乾杯の声が響く。ふと窓の外に目をやれば見渡す限りの雪景色。なんて最高な雪見酒だろう。ちなみに、“お茶っこ”など、最後に“っこ”を付けるのが秋田弁。響きがかわいい。

料理は漬けものに混ぜご飯、お味噌汁、おかず、甘いものなど、いわば農家料理のフルコース。都会どころか、秋田でもなかなか味わえない貴重な味が目白押しだ。たとえば、料理のひとつ「佳子さんの漬けもの」も、秋田名物のいぶり大根に始まり、大根のぶどう漬けや渋柿漬け、ニンジンの麹漬け、ヤーコンの酢漬け……など実に多彩。「勝子さんのおかず」には、ひろっこ(あさつき)、ばっけ(ふきのとう)、かのか(きのこ)など、この土地ならではの素材がふんだんに使われ、ひと口ごとに新鮮な驚きがあった。個人的には初めて食べた「柿巻き」に感動。干し柿でクリームチーズを巻いたものなのだが、柿の甘味がなめらかなチーズで優しく包まれ、なんとも絶妙な組み合わせ。料理は見た目以上に食べごたえがあり、どれも滋味に富んでしみじみ美味しい。

料理だけじゃなく、外の景色も“ごっつお”だ。窓が曇ってくると、トンネル通過のタイミングなどに、タオルでサッと窓を拭いてくれる気づかいも嬉しい。観光アテンダントの橋本さんも、
「おなかと心を満たしてください」
とニッコリ。ちなみに観光アテンダントとは、内陸線車内で活躍する沿線の魅力や観光スポットの案内人。ごっつお玉手箱列車以外にも、定期列車の急行などに乗車しているそうだ。

次々と運び込まれる料理を食べながら、窓の外の雪景色を眺め、農家のお母さんたちと会話を楽しんだりしていると、約1時間半の旅はあっというまで、気付けば終点の阿仁合駅に到着していた。いやはや、こんなに素朴で贅沢な食体験はなかなかないと思う。

ごっつお玉手箱列車は農家のお母さんたちの協力あってこその企画。そのため実施できるのは本業である農作業の閑散期のみ。2013年度は2013年9月〜2014年3月まで月1回のペースで実施された。残念ながら春からしばらくお休みだが、2014年度も実施予定とのことなので秋以降にぜひチェックしてほしい。当然ながら、毎回メニューも変わるし、乗り込む農家のお母さんも変わるから聞ける話も違う。何度乗っても楽しいはずで、実際リピーターも多いそうだ。

秋田内陸線ではこのほかにもユニークな企画列車を随時運行しており、7月頃には列車の車窓からホタルが見られる「ホタル号」、12月にはサンタさんからのプチプレゼントももらえる「サンタ列車」なども走る。四季折々の魅力があり、春なら沿線の八津駅でカタクリの花が見頃になるし、起点となる角館駅は東北を代表する桜の名所だ。4月下旬から5月上旬には、同じく桜の名所である青森・弘前と角館を直通で結ぶ「さくら号」も運行するので、東北の桜は秋田内陸線で心ゆくまで満喫できる。ごっつお玉手箱列車に限らず、見どころいっぱいの路線なので、ぜひ一度は乗りに行ってみては?
(古屋江美子)