この本を読んでも泣けました。『泣くために旅に出よう 涙旅のススメ』(実業之日本社/1300円税抜)

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思いっきり泣くことの気持ちよさは、多くの人が知っているだろう。最近は、泣くことで心のデトックスをはかる「涙活(るいかつ)」という言葉もポピュラーになっているが、大人になると泣くのも案外難しいもの。泣きたいのに泣けず、映画やいい話の力を借りる人も多いし、そもそも泣ける時間や場所もあまりない。

思いっきり泣きたいなら、実は旅に出るのが手っ取り早い。日常の雑事から離れられる旅先は、泣くにはうってつけのシチュエーションだ。海外であればなおよし。旅に出て泣いて気持ちのデトックスをし、新しい自分になって前を向いて生きていく――。そんな新しい旅のスタイルを「涙旅(るいたび)」として提案するユニークな一冊が発売された。トラベルジャーナリスト寺田直子さんの『泣くために旅に出よう 涙旅のススメ』(実業之日本社/1300円税抜)だ。

同書では旅行歴25年の寺田さんの世界各地での涙旅のエピソード、全24話が収録されている。“泣く”とひと口に言っても涙の種類はいろいろ。感動、怒り、かなしみ、ときには笑い涙もアリ。なにも失恋しての傷心旅行だけが涙旅じゃないのだ。

たとえば、イタリアのレストランでぼったくりに遭ったときや、インドでしつこい子供の物売りをきつい言葉で追い払ったとき、寺田さんが流したのは怒りの涙だった。ちなみに後者の怒りは、物売りの子供へ向けたものではなく、自分の行動に対する自己嫌悪。海外旅行ではありがちなシーンだが、実際に自分で幼い子供の手を振り払い、目の前で悲しい顔をしてにらまれると、理屈では整理できない感情が込み上げる。寺田さんはさらにそんな行為を子供たちに強いる不公平な社会を憂い、目の前にいる子供の未来を思う。旅をこよなく愛するジャーナリストならではの視点は鋭くも優しい。

旅のプロらしいレアなエピソードも満載だ。たとえば、ドイツで混浴デビューをしたり、アメリカで国際線を25分で乗り継ぐことになったり、バリ島ウブドの公開火葬を見学したり……。どれも臨場感たっぷりの描写で、本を読んでいるだけでホロリとくる。作者の寺田さんに話を聞いた。

――なぜ、涙旅をススメようと思ったのですか?
「周囲にがんばる女性たちがあまりにも多いと思ったのがきっかけのひとつでした。電車や会社でこっそり泣くこともあるという話も聞き、彼女たちの日々、張りつめた感情を旅という非日常でほころばせ、そこで出会う感動的な風景や人の温かさに触れて意味のある涙を流してもらいたいと思って。それと、旅で泣くというのも経験上、悪くないものだなと思っていたので」

――寺田さん自身もよく涙旅をしますか?
「ひとり旅のときはいろんなことをアレコレ考える時間もあるので、涙旅に浸ることも少なくないです。特に飛行機や鉄道など移動のときが多いです。ホロリと涙を流してスッキリ。それで元気をチャージ。誰にも負けない自分に戻って日常と対峙します」

――どんな人に読んでほしいですか?
「泣くことが必要なすべての女性に。24の涙旅ストーリーはニュートラルなスタイルで書いているので旅のエッセイとして読んでもらいたいとも思います。あ、泣きたい男子、おじさまたちもぜひ」

――最後にひとことお願いします。
「家族や友達などと行く旅もいいですが、たまにはひとり旅で自分と向き合うのも大切なこと。どっぷり涙旅でデトックスをしてスッキリ悩みを解消。もう一歩を踏み出す勇気を持つきっかけにしてほしいです」

同書は一人旅のごはん問題やホテル選びのコツ、厳選の涙旅スポットなど、涙旅に役立つノウハウも充実。思い立てば今すぐにでも旅立てる。この本に背中を押されて、私も新しい季節の前に涙旅へでかけてみたいなと思っている。
(古屋江美子)