楽天・田中将大投手(25歳)の、今オフの米メジャーリーグ(MLB)移籍に暗雲が漂っている。原因はポスティングシステム(入札制度)をめぐる日米球界の対立だ。何がどうなっているのか?

「同制度は2年の契約期間ごとに更新されており、昨年末に更新されるはずでしたが、失効したままでした。そこで、新制度の成立のためMLBと日本プロ野球機構(NPB)は交渉を続け、合意しかけていた。

ところが、11月1日に労組・日本プロ野球選手会側が『選手にとってメリットがない』と反発。結局、選手会側も妥協する形で14日に受諾しましたが、回答が遅れたためMLB側の風向きが変わり、同制度を白紙撤回、田中の今オフの移籍が危ぶまれているのです」(スポーツ紙・メジャーリーグ担当記者)

この騒動について、メジャーリーグ評論家の福島良一(よしかず)氏は「日本側の対応の遅れに問題があった」と語る。また、ある球界関係者は「選手会がFA(フリーエージエント)短縮などを交渉材料にゴネたのは失敗」と、選手会側のミスを指摘する。

その選手会が難色を示した「新プラン」の内容は次のとおりだ。

・最高額を入札した1球団が独占交渉権を得られる。

・日本の球団が得られる移籍金は落札額と2番目の入札額の中間。

・落札球団と選手の交渉が破談した場合、落札球団がMLBに対して最高200万ドル(約2億円弱)の制裁金を支払う。

確かに、ベストな改正案とはいえないし、選手会側もメリットがないと主張しているが、移籍金の高騰を抑えられ(その分、選手に支払われる給料が増える可能性がある)、妨害入札(獲得意思がないにもかかわらず他球団の当該選手獲得を阻止するための入札)を予防する効果も期待でき、選手にとってはベターともいえるプラン。

移籍金の目減りが予想される日本の球団側が反発するならまだしも、選手会が強固に反対するような内容でもない。しかも、ゴネたことで不利益を被るのは田中だ。

あるスポーツジャーナリストはこう語る。

「日米両球界にとってベストの解決策はないので少しずつ改善していくしかない。ただ、今回こじれているのはMLB側の事情も大きい。田中の最高入札額は100億円になると予測する報道もありますが、金額があまりにも高騰している。そのため、一部の金満球団しか入札に参加できないのが実情です。資金力に乏しい球団はそれに対して不満を抱えており、ポスティング制度を破棄しようという意見もあるのです」

現在、MLB側がさらなる改正案を作成中だが、MLBのマンフレッド最高執行責任者は「制度破棄」の可能性も示唆している。となると、今オフの田中の移籍は完全消滅してしまうが……。

ある事情通はこう指摘する。

「ポスティング制度の破棄は脅しでしょう。ただ、制度に反対のスモール球団だけでなく、金満球団からも制度改正を急ぐべきではないという意見は出ている。きっかけは日本シリーズでの田中の連投。MLB側には『あんなに酷使して本当に壊れていない?』という疑念が生まれている。

正直、メディカルチェックでも故障の“種”までは見抜けない。ボストン・レッドソックスの関係者も『100億円規模の投資をするのにリスクが大きすぎる。来年1年、様子を見るべき』と言っていました。だから、田中のためだけに制度改正するのはバカげているというわけです」

一方、前出の福島氏はこう話す。

「そういう声もあるでしょうが、大方の意見は『田中はそんなことでは故障しない』というもの。ある意味、高校時代からさんざん酷使されていますし、あのピッチングだけで評価が落ちることはない。また、このオフの移籍市場で田中は投手最大の目玉。24勝無敗という成績を収めた日本ナンバーワンの投手を1年、様子見なんてしたくないはず。

ですから、是が非でもメジャー側は新制度の成立にこぎつけたいし、田中を犠牲者にしたくない日本側も、どんな内容でも受け入れるしかない状況。あのダルビッシュ有の場合も、12月8日にメジャー移籍を表明し、15日に入札でしたから、まだ間に合います」

なお、ポスティングが実施されれば、ニューヨーク・ヤンキースvsロサンゼルス・ドジャースの一騎打ちになるといわれている。ピンストライプかドジャーブルーか、はたまた……。日米のファンが田中の行く末を見守っている。

(取材・文/コバタカヒト[Neutral])