リアルで、ネットで、そこらじゅうにある“情弱ホイホイ”の正体とは?

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 「ブラック企業」に代表される「ブラック」という言葉が、ネットだけでなくリアルにおいても頻繁に使われるようになっている。そして、この「ブラック」という言葉は「搾取」という意味で使われることが多く、批判の対象とされている。
 しかし、その「ブラック」に対して全く違う視点から疑問を投げかける人がいる。午堂登紀雄氏だ。「ブラック化する社会の本質を見抜く武装トレーニング集」を謳う新刊『貧乏人が激怒する ブラック日本の真実』(光文社/刊)は、ブラックから抜け出すためには、氾濫する情報にただ流されたり表面的に反応したりするのではなく、情報の1つひとつに対して想像力を働かせ、そのウラにある本質を読み取り、行動することが求められると指摘する。
 では、氾濫する情報に流される「情報弱者」(情弱)から抜け出すためにはどうすればいいのだろうか? 著者の午堂氏、本書を編集した坂口氏の2人をお迎えして話を聞いた。
(以下、敬称略)

■この書籍のタイトルは“情弱ホイホイ”!?

―まず、タイトルや表紙からして煽っている書籍になっていますよね。「貧乏人」や「ブラック」といったワードが散りばめられていて、とてもインパクトがあります。本書は今年2月に出版された『貧乏人が激怒する 新しいお金の常識』の続編にあたるそうですが、今回「ブラック」というところに着目した理由からお聞かせください。

午堂「確かに煽っていますね(笑)。今、『ブラック企業』などといった言葉が社会的に認知されていて、叩かれる対象になっていますけれど、自分の正義感を満足させたいという欲求とか、自分には非はなく会社が悪いんだという意識を反映しているんじゃないかと感じるところがあったんです。
私自身、サラリーマンを10年以上、それも3社を経験し、ウツ寸前になって辞めたこともあります。外資系企業では、月の労働時間が500時間を超えることもありました。その後は経営者として従業員を雇ってきました。自分で言うのもなんですが、立ち上げ当初はかなりブラック的でしたが、改善の努力をして徐々に福利厚生などを整備していきました。なので、どちらの言い分も分かります。
世の中の論調は労働者を保護する方向に傾いていますが、それにはプラス面だけではなくマイナス面もあって、企業の活力を奪ってしまう可能性もあるのです。だから、両者の言い分、立場を考え、自分の価値観と照らし、会社に搾取されない充実した働き方をどうやって勝ち取るか、あるいはそれが望めないなら辞めて転身を図るべきかなど、会社がどうこうではなく、自分自身が個人としてハッピーになるにはどうすればいいかを考えるべきだと思います。それには会社に文句を言うことよりも、自分自身の頭で考え、行動することが大事なのです。
にもかかわらず、『みんながそう言っているから』といって流されたり、逆に『誰がなんと言おうと、ブラックはブラックだ』と他の意見を拒絶してしまったりすると、そこで思考が停止してしまい、打開策を考えられない情報弱者になってしまうんです。
そういった部分は指摘しないと、いつまで経っても弱い立場のまま不平不満を言い続けることになる人が増えると感じたので、この本で警鐘を鳴らそうと思いました」

編集・坂口「テーマ決めはかなり時間を使いました。喫茶店で何度も打ち合わせをしましたね。ただ、午堂さんは、正しくないのに正しいとまかり通っているものに対しては『おかしい』と最初からおっしゃっていて、世間のブラック企業批判も、『正論とただの鬱憤晴らしが入り交じっているんじゃないか』と話されていたんです。
そこから話を広げていき、そうした風潮はニュースや情報の捉え方に起因するものではないかというところから、情報弱者というキーワードが出てきたんです」

―この情報弱者という言葉は具体的にどのような意味で使われているのですか?

午堂「大きく分けて2つあります。1つは、自分に必要な情報を入手できない人、もう1つは情報に対して適切な処理ができていない人です。
情報を手に入れられない人は、単純にスキルの問題が大きいと思います。例えばインターネットでショッピングができない人は、より安く買う方法があるにも関わらず、わざわざお店に行って、その値札の価格で購入するという選択肢しかなくなります。今や検索すればたいていことはわかるし、書店に行けば、たいていの課題については解決の方法が示されています。
また、情報に対して適切な処理ができない人というのは、新しいダイエット法がテレビで紹介されるとすぐにそれに乗ってしまったり、テレビ番組に出演している肩書きのある人の話だと疑いもせずに信じ込んでしまったり、といったところがあります。
あるいは自分の価値観にこだわりすぎ、それ以外の意見をまったく受けつけない人。こういう人はいくら最新情報をたくさん仕入ても、活かすことも自分を進化させることもできません」

―本書の中に、「情弱は書籍のタイトルに釣られる」という項目があって、それを本の中で断言してしまうのか! と感じました。でも、どの業界においても、煽るようなコピーをつけて、消費者に商品を買わせようとすることはありますよね。

午堂「それは当然だと思いますよ。売るためにコピーを磨くというのは、良い悪いという問題ではなく、そういうものだということです。
商品が売れなければ会社は儲かりませんし、儲からなければ給料は払えません。そうなると従業員は生活していけなくなる。売れないと誰もハッピーになりませんよね。『釣る』という言葉からネガティブな印象を受けて、『そんなことをするなんて……』と思う人もいるかもしれません。もちろん、それが嘘なら詐欺になります。でも、売るための仕掛けは不可欠ですし、『釣ること』はビジネスでは当然のことです。言い方を変えればそれは『刺さるコピー』ですし、『マーケティング』なのです。広告はもちろん、ニュースサイトや週刊誌の見出しなんかもそうですよね」

―そのコピーに誘われて、商品を買ってしまう人も少なくありません。

午堂「その商品を買ってハッピーになるならばいいのですが、必要がないのにその商品を購入してしまうのは考えものですよ、と言いたいんです。釣られるのが悪いということではなく、その結果、お金とか、時間とかを誰かに吸い上げられる結果になってしまうのがよくないということです。
コピーに釣られてすぐに買うのではなく、今の自分にとって本当に必要なのか、その出費から自分は何を得られるのかということを、買う前にいったん立ち止まって考えることが大切です」

―また、みんなが動いている方向に自分も動きたくなるという人も多いと思います。例えば、ベストセラーになっていたり、ランキング1位だから買おうとしてしまったり……。
今、午堂さんがおっしゃったように、何が今の自分に必要なのかということを常に考える必要があると思います。そうした流されない自分を作るために、午堂さんはいつもどのような心構えをしていらっしゃるのですか?


午堂「1つは、他人の目をあまり気にしないということですね。みんながやっているから自分もやらないといけないと思う人は意外に多いですが、自分にとってそれが必要なければ、みんなと同じことをする必要は全くないんです。もしかしたら、人とは違うことをする自分に対して批判の声があがるかもしれませんが、批判を恐れないことです。
もう1つ、情報に対してツッコミを入れることも大事です」

―具体的にはどのようなことですか?

午堂「その情報って本当なのだろうか? 何で? だから? この情報で本当に得をするのは誰だろう? というふうに掘り下げて考えるんです。また、情報が本当かどうか自分で確かめるということも大切です。もちろん、全部が全部確かめられるものではないですけれど、可能な限り1次情報源にあたることが必要だと思います。
この本の序文にも書きましたが、本書に同意してもらう必要なんてまったくないんです。自分の考えと異なる主張があったら、『自分ならどうするか?』と、自ら考えるきっかけにしてほしいということです」

(後編では午堂さんに“炎上”について聞いていきます!)