9月16日時点で3位・ソフトバンクにつけられた最大5ゲーム差を跳ね返し、西武が大逆転でクライマックス・シリーズ(CS)出場を決めた。9月22日のオリックス戦から10月8日のロッテ戦までの14試合は、8連勝を含む12勝2敗。1点差の試合が10を数え、残り3試合は2点差だった。渡辺久信監督が「よくもまあ、こういう展開になる(苦笑)」とこぼすほど、タフな終盤戦を走り抜き、2位に滑り込み、CSファーストステージを本拠地で迎えることとなった。

 なぜ、9月中旬まで苦しんでいた西武は息を吹き返すことができたのだろうか。苦境のチームに勢いをもたらしたのが、ケガから復帰したふたりの生え抜きだった。

 昨季オフに左ヒザの前十字靭帯と半月板の手術を受けた中村剛也は、9月6日に今季初めて一軍に登録された。起用されたのは定位置の「4番・サード」ではなく、「6番・指名打者」。復帰初戦となった同日のロッテ戦の試合前には円陣の中心に入り、「僕が帰ってきたので、6番・中村に任せて下さい」と笑いを誘った。

 左ヒザ、さらにリハビリ中に痛みの出た左肩の状態は万全ではなく、二軍調整はわずか7打席と試合勘を取り戻せぬまま一軍に合流した。そんな中村が西武打線で機能している理由は、6番打者としての"割り切り"にある。

 10月3日のソフトバンク戦では4対4で迎えた8回裏、先頭打者として打席に入り、レフトスタンドに豪快な決勝本塁打を突き刺した。「正直、狙っていました」とヒーローインタビューで話した中村は、クラブハウスに入る前、胸の内をこう明かしている。

「(一軍に復帰した)最初の頃はストレートも変化球にも対応できなくて、合ってきたと思ったら、やっぱり合っていなくて......。『今シーズンはもういいかな』と思って、『今日みたいにたまに打てればいい』と思っていました。そういうところがチームの勝ちにつながりましたね」

 思うように快打を連発できる状態ではないものの、中村には一撃必殺の武器がある。「意外性のあるバッティングをしたい」と割り切り、「ここぞ」という打席ではホームラン狙いに徹した。そんな思惑が再び当たったのは、10月5日の楽天戦だった。1対1で迎えた9回表、先頭打者として打席に入ると左中間スタンドに決勝ホームランを放ち、チームのCS進出を確定させた。

「中村が打つとチームが盛り上がるから、アイツはそういうバッティングをしています。あとは僕が盛り上げられれば、西武らしい野球をできる」

 そう話すのは、「2番・セカンド」として攻守にリーダーぶりを発揮している片岡治大(かたおか・やすゆき)だ。左ヒザ裏痛で6月中旬から戦線離脱していたが、9月15日に一軍合流を果たした。復帰から2試合はヒットが出なかったものの、以降は14試合連続安打の活躍を見せ、打率も2割6分7厘から2割9分まで上昇させた(10月8日現在)。

 何より光るのが、抜群の勝負強さだ。9月25日の楽天戦では2対2で迎えた9回裏、二死二塁で打席へ。一塁が空いている状況で、相手投手は右の加藤大輔。初球の変化球が外角にボールとなり、片岡は「勝負してくる」と集中力を高めた。2ボール1ストライクから加藤の投じたフォークが真ん中に甘く入ると、レフトスタンドへのサヨナラホームランで試合を決める。渡辺監督は「勝負強いよね。片岡治大が戻ってきた」と殊勲者を称えた。

 中村と片岡の復帰は打線の破壊力をアップさせたばかりでなく、相乗効果も生み出している。

 開幕から中島裕之(アスレチックス)の抜けた3番を任されてきた栗山巧は、今季ここまで打率2割7分7厘と思うような成績を残せず、9月18日の日本ハム戦から31打席連続無安打と不振に陥っていた。しかし、10月2日のソフトバンク戦では同点の8回裏、ライトスタンドに決勝本塁打を放つ。中村と同級生、片岡の1学年下の30歳は、試合後、安堵の表情でこう話した。

「みんなが頑張ってくれていますからね。片岡さん、おかわり(中村)が帰ってきて、助かっています。気持ち的にもふたりに助けられている。早くチームに貢献できる1本を打ちたかった。値打ちのある1本です。中島さんが抜けて、3人で頑張ってきたメンバー。何より心強い」

 ふたりの復帰は、若手選手にとっても大きかった。中村が復帰して以降も4番を任される23歳の浅村は、「今まで以上にプレッシャーを感じましたが、同時にやりがいも感じています」と意気込み、打点王をほぼ確定させている。5番に入る25歳の秋山翔吾は後ろに中村が控えることで、楽な気持ちで打席に立てるという。

 上り調子なのは投手陣も同じだ。開幕から不振が続いていた涌井秀章は、9月25日の楽天戦から10月6日の日本ハム戦まで10試合連続登板を果たし、稲尾和久氏の持つ球団記録を更新した。ストレートの球威を取り戻し、この間、自責点はゼロ。また、キレのあるストレートを武器にする新人左腕の高橋朋己は9月18日の日本ハム戦から10月3日のソフトバンク戦まで23人の打者と対戦し、ふたつの四球を与えたものの、ヒットは1本も許していない。渡辺監督が「『やってくれるだろう』という思いで登板させて、結果で応えてくれている」と語るほどの信頼を獲得している。

 投打ともにキーマンが戻り、シーズン終盤に怒濤の勢いを見せた西武。CSで対戦するロッテ、楽天には、今季いずれも勝ち越し。相性の良さもポストシーズンに向けたプラス材料だ。渡辺監督は言う。

「中村とヤス(片岡)が帰ってきて、メンバーが揃った。終盤の戦いを見ていると、本当にぶっとく、ぶっとく、骨太のチームになってきた。敗者のまま終わるつもりはない」

 CS突破はもちろん、渡辺監督が就任した2008年以来の日本一も現実味を帯びてきた。

中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke